56ハルト ポテトチップス
「こんなに換金部位をいっぺんに持って行ったら、冒険者ギルドの金庫、空っぽになるんじゃないかな」
帰りの馬車でそんな話を冗談半分でしていたのだけど、それは現実となった。
王都の冒険者ギルドに換金部位をもちこんだら、あまりの量に、換金の計算をするのにも、お金の準備をするのにも、数日待ってほしい、と言われたのだ。
ギルドに行ったついでに、僕らの冒険者としてのランクを調べたら、またあがっていて、五級になっていた。
これで受けられる仕事の幅も広がる。
ちなみに、あのジャックがいた村の、魔物が出てきてしまう洞窟の入り口を塞ぐ依頼は、まだ取り下げられていなかった。
それはつまり、まだあのまま…強い魔物が村のそばをうろうろしていることは改善されていない、ということだ。
ただ、こういう種類の依頼は、今現在それに取り組んでいる冒険者が何組いようと、報酬はやり遂げた者だけが受け取るもので、誰かが報酬を受け取ったときに依頼が取り下げられる。
だから、誰かがそれに取り組んでいる途中であって欲しい、と願うほかはない。
まだ自分達には高難度すぎるのだ。
冒険者ギルドからの連絡が来るまで、ちょっとゆっくりして体を休めたあとは、すぐに以前のように、城下町周辺の魔物を見つけ次第狩って、数を減らした。
そうやって、城にいる時にもアレックスと常に行動を共にしていたら、他の兄弟達に随分仲良くなったものだな、とあきれられた。
いつの間にか常に連れ立って行動するのが当たり前になっていたようだ。
城にいる時くらい自由行動だな、と二人で苦笑いをして、今日は別行動にした。
旅立つ前に暖炉の上に飾った両親の写真。
僕はそれを、城のお抱え絵師さんのところに持って行った。
写真というものを見るのがはじめてなので、すごく驚いていたけど、詳しい説明はせず、ただ模写してほしい、と頼んだ。
サイズとか細かいところも決めて、急ぎなので多めの報酬も渡した。
僕そっくりの黒髪黒目の二人、そして、見たこともない写真というもの…。
絵師さんは城内に住んでいるけど、この写真のことを漏らしたり余計な詮索をしたりすると、多分命はないんだろうな…そう思うと少々申し訳なかった。
絵師さんのところの次は、アントニーさんに会いに行った。
グレイにも、あの魅力が下がるアイテムを作ってあげて、と頼んだついでに、いくつかゲームでは定番だったアイテムが作れないか訊いてもらっていたのだ。
素早さの上がるものなどは既に理論は確立されているので、出発までに作って用意すると言ってもらえたけど、消費する魔力を抑えるものなどは、ゲーム後半のダンジョンで手に入れたようなものだっただけに、時間が欲しい、という回答だった。
用事が済んでしまったら、にわかにどう過ごしたらいいものか、悩んでしまった。
アレックスは、城に戻るたびに、僕と行くことで現場から離れている間の仕事の報告を受けることと、今後の指示で忙殺されているようだけど、僕は王子とはいえ、この国での仕事は『ドラゴンを倒すこと』だ。
そう考えたら、僕だけでも少しでも強くならないと、と思って、数人の騎士さんに付き合ってもらって、また城下町周辺の魔物を減らしに出た。
アレックスと二人のときは気にならなかったけど、あ、あそこに魔物がいる、と思って駆け寄ると、気が付くと騎士さん達がついてこられず、僕が倒し終わった頃に追いつく、ということが続いてしまった。
どうやら、あの村でのレベル上げの効果はかなり大きいようだった。
夕方、そろそろ城に戻るか、と城下町に入り、例のアイテムのお陰で全然注目を浴びないことをいいことに、ちょっとだけ町をうろついた。
換金されてお金が手に入ったら、色々買おう…そう思いながらあれこれ見ているうちに、驚くものを見つけた。
ポテトチップスだ!
この世界に来てからは食べたことがなかった。
内心の興奮を押し殺して、店内に入ると、数種類のフレーバーの袋詰めされたものが所狭しと並び、大して広くない店内はかなりのお客が支払いの列に並んでいた。
客の回転はいいのだが、それと同じくらいにどんどん客が入ってくるのだ。
僕が数袋を手に取り、列に並ぼうとすると、殿下はこちらでお待ちください、と侍従が代わりに列に並んで買って来てくれた。
どんな味だろう、元の世界のものと同じだろうか…。
早く城に帰って食べてみたい。
「殿下もやはりお好きなのですか?」
顔に出ていたらしい、騎士さんに訊かれてしまった。
「いや、その、実は食べたことはないんだけど、美味しそうだったから…」
「なんと!高貴な方はこのようなものは召し上がらないのですね!」
「いや、その、存在を知らなかっただけで…」
「確かこの店のオーナーはガードナー公爵です、あやしい商品ではありませんよ。我々は数年前にこのお店ができた時は食べ過ぎて太ってしまい、当時の隊長に叱られたものですよ」
あのときはみんながこぞって食べたよなあ、と騎士さん達が盛り上がっている。
僕はあいまいに笑ってごまかすと、急いで城に帰った。
我慢できずに食事の前だったけどつまんでしまったポテトチップスが、あまりに元の世界のもののままだったので興奮して、晩餐の席で皆に話してしまった。
「ああ、ガードナー公爵家の…話には聞いているが、そういえば口にしたことはなかったな…」
「俺は話題の品だったから、買いに行って…じゃない、買いに行かせて食べたな」
「私は職員が休憩時間につまんでいたので分けてもらったことがある」
「僕も!休憩時間のとき、よく食べるよ!」
ジュリアスとクリスは貴族以外の職員もいるので、庶民の食べ物に触れる機会が多いようだ。アレックスはお忍びで町に出ているのがばれた。
「口にしていないのは私だけか!では、すぐにでも試すとしよう…で、ハルト、その菓子がそんなに感動的に美味しかったのか」
僕の興奮に少し不思議そうに訊かれたので、素直に答えた。
「僕の元の世界に、全く同じお菓子があって。僕の国でも、ものすごく一般的なもので、味も、ほぼそのままだったんだ。僕も、もちろん母さんも好きで…よく夜に一緒にテレビを見ながら、母さんといっしょに分け合って食べたんだ。だから…今まで知らなくって損したなあって思っちゃって」
「「「「!」」」」
異世界と同じお菓子があることに驚いているのかな?みんなそれぞれに驚いた顔をしている。
料理やお菓子は、元の世界と結構共通していると思っているんだけど。
晩餐に出てくる料理も、テレビで見ていたイタリアンとかフレンチとか、そんな感じの料理が多い。
まあ、どこの国の料理かと問われて分かるほど、僕は料理に詳しくなくて、本当のところは分からないけど。
そんな中で、駄菓子系で共通しているものは初めて見たのだ。
「あ!伝えるのを忘れるところだったよ」
ジュリアスが、しおりも紐も、ガードナー公爵令嬢の手作りだった、と教えてくれた。
「お菓子も紐も、どっちも公爵家かあー。あそこの領地は広いし、港もあって外国との貿易もしてるし、王家の知らないことも本当はいっぱい知ってそうだよね」
クリスの言う通りだな、と皆が頷いている。
組み紐もあるのなら、この世界にも日本に似た文化の国があるのかもしれないな…。
世界を旅する楽しみの一つにしよう。
そう思ったのだった。
そして、余談だけど、それ以来、僕が城に帰ると、いつでも食べられるようにてんこ盛りのポテトチップスが僕の部屋に用意されるようになっていた。
食べるよ?
あれば食べるよ、好きだし。
でもなんで…?
もちろん、僕の部屋にポテトチップスを用意しておくことが、王太子はじめ僕以外の王子全員から出された肝いりの命令だったことなんて知る由もないのだった。
ポテトチップスってどうしてあんなに美味しいんでしょうね




