55マリア
金色の綺麗な長髪を三つ編みにし、今日も周囲にキラキラと光る粉が舞っているかのように麗しいジュリアス殿下がサロンに入ってきた。
「楽しくお話し中に、失礼します。とてもお久しぶりですね、マリア嬢、お元気そうで…」
私は大急ぎで立ち上がって王族に対する礼をとった。
「ああ、そのようなことは…母上達、少々ご一緒しても?」
そういうと、もう私の隣の椅子に座ってしまっている。
王妃陛下も側妃殿下も扇子で口元を隠して、何かこっそりお話し中だ。
子どもの私が気にしてはいけない。
「なかなかお会いできなかったので、すっかり返すのが遅くなってしまいました」
ジュリアス殿下がそういうと、かなり前に私が貸した本を返してくれた。
…私は借りた本をすぐに読み終わったので、謹慎になる前に城に来たついでに返しておいてもらったんだけど、こういう時って、もしかして直接返さないと失礼だったんだろうか…。
にわかに緊張してしまう。
でも、ジュリアス殿下はそんなことは気にしていないようで、お互いに貸し借りした本の内容について話題にしたので、ついつい私もその話に引き込まれてしまって…。気が付くと二人だけで話をしてしまっていた。
側妃殿下の咳払いで、はっとする。
それはジュリアス殿下も同じだったようで、「そろそろ戻ります」と立ち上がりかけ、ふと何かを思い出したらしく、もう一度座ると、胸ポケットから何かを取り出した。
「このしおり、マリア嬢、あなたのものですよね?」
確かに見覚えがある…私のものだ。
なので、頷いて見せた。
貸した本に挟んだままだったようだ。
「このしおりは、いえ、この紐は、どのようなものかご存知ですか?」
「それは…私の手作りのものでございます。…それが何か…?」
いぶかし気に首をかしげて答えると、じぃっと顔を見られた後、慌てて目をそらされた。
何だろう…?
「では…もしよろしければ、こちらのしおりを私にくださいませんか?この紐の色合い、とても気に入ってしまったのです」
前世の趣味を思い出して、手芸を色々試していたころに作ったものだ。
気に入っていただけたのなら、いくらでもどうぞ。
「私も、その色味が好みなのです。そんな稚拙なものでお恥ずかしいですが、どうぞよろしければお使いください」
お互いに、にこーっと笑いあう。
殿下は満足そうに、では、と王妃陛下と側妃殿下に目礼をして席を立ち、戻って行かれた。
「またー。抜け駆けよ…」
側妃殿下のつぶやきが聞こえて、何のこと?と思ってお顔を見たけれども、「何でもないのよ」とにっこりされた。
王妃陛下達からは、本当に夕方になってから解放された。
帰る前に、『あのとき』にお世話になった騎士団長様にお礼とご挨拶を…と、城の敷地内にある騎士団の詰め所に立ち寄ってみた。
「団長はしばらく公務で出ております。戻りは未定です」
若い騎士さんが教えてくれた。
戻ってくるのがいつなのかわからないのでは…と、手土産はいったん持ち帰ることにした。
手土産といっても、私の焼いたクッキーの詰め合わせなので、日持ちがしないのだ。
帰るために馬車を回してもらっていると、誰かを探す様子で走ってきた侍従さんが、私を見つけて安堵の顔をし、どうか少しだけお時間をください、と熱心に頼みこんできた。
さっきジュリアス殿下についていた侍従さんなので、了承して、城の中を少し戻っていくと、向こうからジュリアス殿下がその長い足でこちらに向かってくるのが見えた。
廊下の脇によけて、礼をとろうとしたら、手を振って遮られ、これを、と本を渡された。
「前にお貸しした本の続きです。先ほどお話をしたときに、気に入っていただけたようだったので、よろしければお貸ししようかと思い立ちまして」
急な思い付きだったから侍従さんも走ってきたわけだ。
ジュリアス殿下も急いで来たのか、にっこりと本を渡しながら、うっすらと頬が赤い。
本は大好物、しかも輸入物の新作だ。ここでお借りしなければ、どこで読めるというのか。
「まあ!ありがとうございます、とても嬉しいです」
大喜びでお借りすることにし、ちょうど無駄になる…正確には私と弟たちのお腹に入るところだったクッキーの詰め合わせがあるので、それをお礼に差し上げた。
「今回は詰め合わせなので、チーズクッキーは少しで、あとは甘いですよ」
ジュリアス殿下は、なんとなく甘いものが苦手そうな気がしたのだ。
騎士団長は甘党だという情報をエミリーが仕入れてくれたので、普通に甘く作ってある。
ジュリアス殿下のために作るんだったら甘さ控えめで作るだろうな…。
「大切にいただきます」
あまりに嬉しそうにしてくれたので、本当は他の人のために作ったものだったことは言わずにおいた。
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「あ!ねえジュリーそれどうしたの?すごくおいしそう。一つちょうだい」
「これはダメだ」
「えー!いつもは甘いものなんて食べないのになんでだよー」
「……特別なんだ」
「あー…そう」
クッキーを分けてもらえなかった、食べ物の恨み。
その後の晩餐で、ジュリアスがクッキーを独り占めしてて、それはどうやら大事な人から貰ったらしいよ!とクリスがキースに大きな声で報告したのだった。




