54マリア
「マリアったら、とんでもないことをするわよねぇ…」
うふふ、と笑っているのは、側妃殿下で、あきれているのは王妃陛下だ。
今日は、謹慎期間があけて、久しぶりに歌のレッスンのために登城していた。
レッスンの間は歌の先生もいるので特に側妃殿下とは雑談をしなかったけど、レッスンが終わった後、手ぐすねを引いて待っていた王妃陛下のもとへすぐに連れていかれた。
「久しぶりだし、積もる話もあるから今日は夕方まで帰さないわよ」
王妃陛下に、にっこりと微笑まれてしまった。
そして三人で話をしながら昼食を一緒にとっているところだ。
「あの、本当にお恥ずかしい…あの時はなんというか、魔物を倒してみたい、と思いついたこと以外に何も考えられなくて…少し落ち着いて考えれば分かりそうなことだったのですが」
「でも、あなたにも子どもらしい浅慮なところがあるのだと分かって、私は少し嬉しかったわ」
振る舞いが子どもらしくて嬉しいとは、王妃陛下、一体…。
「私も、しばらくマリアは謹慎なので、と言いに来たガードナー公爵から、その謹慎になった理由を聞いたときには、堪えきれなくて笑ってしまったわ。公爵の前だったけど、うん、さすがマリアよね、って」
あの振る舞いが『さすが』って、側妃殿下…。
「どうぞこれ以上は御勘弁くださいませ。私は本当に反省したのです。愚かな振る舞いでした」
「マリアのことを知らない人が聞くと、あそこの公爵令嬢は気がふれたのか、と言われてもおかしくないところでしょうね…でも、私はもう面白くって面白くって…」
側妃殿下はまた肩を震わせて笑っている。
反省していると言っているのに、さらに追い打ちをかけて止めを刺すのはやめていただきたい…。
でも、本当に自分でもバカだったと思っているので、大人しくしおれていたら、あら、私達褒めてるのに、と言われて驚いた。
「あなた、サラにそっくりよ」
思いがけないことを言われて、口へと運ぶ途中のフォークが止まる。
サラ、というのは、私の母の名前だけど…流れから言っても母のこと…だよね?
「サラもあなたに似ていて、若い頃に働きたがったのよ。伯爵令嬢なのに、王宮の侍女として働く、とまあ自分であちこちに掛け合って。結局、最終的には私付きのうちの一人になったの」
母が王妃陛下付きの侍女だったなんて聞いたことがない…。
そういえば、私の魔力測定のときに、お母様は妙な緊張をしていたように見えたのは、そのせいだったのかも。
「ところがねー。ほんの数か月で、公爵に見初められちゃって。あの頃は面白かったわよね!毎日公爵がサラに会うために口実を作ってくるんだけど、その口実がまた傑作で…」
「サラも満更じゃなかったんだけどね。せっかく私付きになれたのに、公爵と結婚となると続けられないでしょう?それで随分悩んでいたわ」
「でもね、公爵の罠にはまって、観念せざるを得なくなって」
「罠?」
お父様!一体何をしたの!?
「あら、罠は言い過ぎよ。でも、私からサラを奪うのだから、今後は覚悟してね、と言ったときの公爵の顔はちょっと見ものだったわ。サラも、ちゃんと結婚前に、公爵夫人として公務の一部を担うことを条件に出していたし、それは今も守られているでしょう?」
確かにお母様はかなりバリバリと働いている。
「そんなサラの娘ですもの、貴女の今回の件は、武勇伝よ」
……武勇伝と受け取ってくださるのは、王妃陛下と側妃殿下だけです…。
力なく笑って見せるしかない。
「私の息子たちには、マリアほどの行動力、見習ってほしいくらいだけど…」
王妃陛下が、ほう、とため息をついて、側妃殿下の顔を見る。
「だめよ、王太子が無鉄砲なことをするようではいけないわ。アレクは正妃でない側妃の私の子だし、一応継承権的には二位かも知れないけど、政は向かない子だし…。今回の件は、丁度良かったのよ、あの子にとっても、ハルトにとっても」
側妃殿下の口から悠人の名前が出て、思わず食い入るように見つめてしまった。
「そういえば、貴女は謹慎中だったものね…」
王妃陛下が、以前弟たちから聞いたのと同じような、勇者を探しに王子達が旅立ったという話を聞かせてくれた。
勇者を探す旅…。
一気にもやもやが募る。
思い切って聞いてみた。
「今朝、こちらに着いたときに、厩舎に向かう殿下達をお見かけしたように思います…あれは一体どういうことでしょうか」
「ああ、それは、あの子達に同行している魔導士の魔法陣で、あの子達、意外とちょくちょく城に戻ってきているのよ。今のところ数日おきには見かけているわね。それで今日出かけるところを見かけたのよ、きっと」
側妃殿下の言葉に、謎が解けて、体の力が抜ける。
聞いてしまえば、なるほど、の一言に尽きる。
「あの…殿下達はお元気なのでしょうか…」
一瞬お二人が素早く視線を交わした後、王妃陛下が答えてくださった。
「先日、アレックスとお茶をしたの。変わりなく、元気だったわ。でもまあ、旅が前途多難そうだ、とぼやいていたのは確かよ」
そこで昼食が終わったので、食後のお茶を飲むため、サロンに移動することになった。
少人数の侍女とメイドたちだけがついてくる。
私の食事中、自分の食事をとっていたエミリーも戻ってきた。
サロンでは、謹慎中の私がどのように一か月間を過ごしたのかの話題がしばらく続いた。
罰の内容にお二人が驚き、また笑い…。
そんなことで楽しんでいただけて何よりです、という心境だ。
そこへ、メイドが王妃陛下と側妃殿下に何かを告げに来た。
何かしら?と思ったら、ジュリアス殿下が来たらしい。




