51ハルト ちゃんと伝えよう
村に、潤沢に材木と薪を確保したところで、僕達もそろそろ城に帰ることにした。
周辺の魔物をほぼ狩りつくしてしまったのだ。
村の人達はここまで狩ってくれるとは思わなかった、とすごく喜んでくれて、宿代のうち、入浴代金はなしにしてくれた。
帰りの道中のお弁当も持たせてくれて、また顔を見せに来てね、と口々に言われた。
グレイは特に若い女性から…。
魔物の換金部位は、元の世界での四十五リットルのゴミ袋位の大きさの袋にパンパンにしたものが、何十袋にもなってしまっていた。
魔法のカバンに入れられるだけ入れたけど、入りきらない分は馬車に載せたお陰で、僕らの乗るところがなくなってしまった。
仕方ないので、狭いけど三人で御者席に座った。
体の小さい僕がグレイとアレックスに挟まれている。
大勢の村人に感謝の言葉と共に見送られて、村を出発した。
ただ自分のために魔物を狩っただけなのにな、とちらっと申し訳ない気持ちになった。
でもすぐに、僕が僕のためにしたことでも、彼らにとっても良いことだったのなら、ありがたく感謝を受け取ってもいいか、と考え直した。
来る時と違い、狩りまくった成果で、魔物にほとんど出会わないまま馬車に揺られていく。
暇なので今回の成果を振り返ると、グレイのしごきもあったからか、当初予定していた以上の成果を得られていた。
期間を設けていなかったのもあって、ついでだから、と村の薪を確保し終えるまで滞在したのも大きい理由だろう。
魔法も予定のもの以上を習得し、それぞれの熟練度も上がっている。
そして、僕はステータス画面で表示されるような、新しいスキルも手に入れていた。
それは『勇者の覚悟』という名前の、常時発動するタイプのスキルで、ゲームでいうならHPの自然回復速度が上がるもののようだった。
気がついたらいつのまにか取得していて、その名前のこっぱずかしさ故に、誰にも言っていない。
そのスキルは別にしても、僕もアレックスも村に来る前よりもちょっと強くなったと思う。
ここで、革の胸当てといった軽装備でしかない今の装備を一新して、もう少し上等なものに変えると、もっと強い敵とも戦えるかもしれない。
気力体力魔力ともに限界まで、一日中戦い続ける経験もしたし。
あ、でも、限界まで戦えたのは、グレイが一緒にいたからだ。
僕らがヘロヘロになってもう戦えない、となったとき、残った魔物をグレイが一掃してくれたからどうにかなっただけだ。
…またアレックスと二人になったら…。
「グレイ…今後も僕達と一緒に行ってくれないかな?」
はっ、としたときには心の声が口から洩れていた。
聞こえたか、慌ててグレイの顔を見る。
「ん?それは、今回みたいな強化に、ってこと?それともブラックドラゴンを倒しにってこと?」
綺麗な顔をこっちに向けて、何でもないことのように、まるでお茶にミルクを入れるかどうかでも訊くように、問い返された。
「もちろん、ドラゴンを倒しにいく方!」
思い切って、お腹に力を入れて、言った。
言えた。
言ってから顔が真っ赤になった。
なんでこんなに恥ずかしい感じがしてしまうのだろうか。
すんなり僕と一緒に行く宣言をしたアレックスって、実はすごい奴なんじゃないか、と思った。
そして、視界に入らなくても、僕の隣のアレックスも緊張してグレイの答えをまっているのがわかった。
「んー、どうしようかなぁ」
ふふふ、とグレイがなんだか楽しそうに笑う。
「どうか、僕とアレックスと一緒に…。……ブラックドラゴンを倒しに行く仲間になってもらえませんか!」
ここまできたら恥ずかしいことはない。
僕が狭い中体を曲げて頭を下げたら、アレックスも僕にぴったりくっついて、頭を下げているようだ。
「それって命令?」
へ?
…そうか、僕って権力あったんだった。
「違う。お願い、です」
即答した。
…さっきの僕の言い方、命令じゃなかったよね?
命がけの戦いに行くのに、命令で、なんてありえない。
いくら権力があったとしても!
顔を上げて、グレイの顔を見つめ、返答を待つ。
グレイも、銀色の瞳でじーっと僕の顔を見て、そのあと視線が僕を通り過ぎて、アレックスの顔を見ているようだ。
「ん。いいよ」
「やったぁ!」
すぐにアレックスに向き直ろうと思ったのに、その前に後ろからアレックスにがばっと抱き着かれた。
「やったな…」
アレックスの声には色んな感情がこもっていて。
それは僕も一緒だったので思わずうるっときてしまった。
「うん、実は、今回の間にお願いされたら一緒に行くことにしよう、って決めてたんだ。でも全然そんなそぶりがなかったから、二人で行きたいのかな、なんて思っていたところだったよ」
「「え!!」」
今度こそ振り返って、アレックスと顔を見あって、言葉にしなくても、危ないところだった、と二人で胸をなでおろした。
グレイを仲間にするイベントはゲームとは違っていたようで…そしてそれはあとほんの数時間で時間切れに、手遅れになるところだった。
今回の件で、僕は言いたいことがあったら、今後はすぐにちゃんと伝えよう。
そう決意した。




