50ハルト 覚悟
今回のこの村での僕らの強化計画は、まず、僕もアレックスも、現在使える魔法の威力のアップだ。
魔法は、何度も繰り返し使うことで習熟度が上がり、威力が上がったり、詠唱なしで発動できるようになったりする。
そして、今はまだ使えない、高位の魔法の習得と、アレックスは、新しい攻撃スキルの取得も目指す。
その実践は、ひたすら魔物相手に戦うのみだ。
初日は、あまりの魔物の数の多さに、村の入り口近辺から離れずに、ひたすら倒し続けた。
昨日も移動しながらかなりの戦闘回数をこなしていたので、少しは強くなっている手ごたえはある。
回を重ねるごとに、確実に戦闘にかかる時間が短くなっている。
この調子ならそんなに長い日数をかけずに済むかも、とアレックスと喜び合った。
ジャックが僕らの仲間になる前に、魔物との戦いで命を落としていた件は、僕の中でのドラゴン討伐へのモチベーションを飛躍的にアップさせていた。
こんなに弱くて、ブラックドラゴンに立ち向かえるものか!という気持ちが、もう疲れて動けないと思いかけた時に力となって、僕の気力を駆り立てた。
…旅立ってから、明らかに、僕は変わっていた。
旅立つ前は、ブラックドラゴンを倒すことは、異世界に召喚されて、もう元の世界に戻れないのだから、『この世界に一人だけの勇者の義務としてやらなければならないこと』だったように思う。
だから、出発時期には少し腰が引けて、魔法にこだわったりしていたのかもしれない。
…その代償は大きかったけど…。
でも、城の外の世界に触れ、この村の人達のように、日々暮らしている人達と接触することで…戦うすべのない彼らの、平穏な暮らしを守れるのは僕しかいない、という覚悟ができた。
前の自分だったら、そんな大層なことできるのか、と自分で自分に突っ込んでいたかもしれない。
でも、本当に、勇者は僕だから…。
僕しかいない。
人々の平穏な生活を取り戻せるのは、僕しかいないのだ。
一日も早くブラックドラゴンを倒さないと、ジャックのような、村を、生活を、愛する人を守ろうとする人たちが失われていき、そのあとは、守る者のいなくなった戦うすべのない者たちが、命を落としていく。
話に聞いていた、討伐の遅れで世界の人口が半分になったというのは、大げさではないことが実感できる。
でも、人々はまだ、明るくしたたかに日々の生活を続けている。
これが崩れる前にどうにかしなくては。
僕は強くならなくてはならない。
絶対にブラックドラゴン討伐前に死んだりしないように。
ブラックドラゴンを討ち果たせるように。
数日、村に滞在している間に、魔物の数はものすごく減った。
グレイがいてくれるので、戦闘中にもアレックスとの連携のタイミングを指導されたり、実戦での剣の振るい方を教えてもらえている。
換金のためにただ倒していたアレックスと二人のときと違い、魔物との戦闘が、城にいた時の訓練と同じような訓練の場になっていた。
だから、疲れてへとへとになっていても、「次はあそこの魔物の群れで、さっき言ったことを意識して戦ってみろ」とグレイに言われたら、アレックスと共に魔物に挑まざるを得ないのだ。
ちなみに、グレイへのお願いはまだできていない。
二十回必要なことを考えると、チャンスをみすみす逃しているのは分かっているけど、いざとなると、もじもじしてダメだった。
まだ人生でやったことはないけど、好きな人に告白するのがこんな感じではないか、と思うくらいに何か恥ずかしい感じがして、言えなかった。
グレイの指導の下で、ひたすらに魔物を狩りまくったので、草原地帯ではたまにしか魔物と遭遇しなくなり、次は近くの森の中で魔物を狩った。
城の近くの森同様、草原地帯よりも森の中の方が、魔物の発生する頻度なのか量なのか…とにかく魔物が多いのだ。
それに、城の近くの森よりも木々が密集しているところが多く、先が見通せないので木の陰からいきなり襲われたり、頭上から魔物が降ってくることもあった。
アレックスは大剣が木に引っかかって思い切り振るえないことが多くて、こういう狭い場所での大剣での戦い方と、一般的な片手剣に持ち替えての戦闘を練習していた。
でも、森の中の魔物もだんだん減って、魔物を狩る時間より、魔物を探してあちこち歩き回る時間がほとんどになってしまった。
そんなある日。
グレイからの次の訓練として指示されたことに、耳を疑った。
まず木を伐り倒し、次に伐り倒した木の枝を落として丸太にする。
その後、その丸太を村まで引きずって戻る…というのだ。
まるで当たり前のことを指示してます、というような表情でグレイに言われたとき、この人は鬼だ、と思った。
剣で…剣を折ることもなく、どうにか木を伐り倒す。
仲間にできなかったカールは木こりだった。
木を伐り倒すのも戦闘訓練になるのか、とアレックスと頑張った。
死にそうに疲れたけど、最終的には指示されたことができてしまった自分達に驚いた。
そして、村まで木を運んだ時、村人たちの目の色が変わったことにも驚いた。
生活に木工製品は不可欠だ。さらに、来るべき冬に備えての薪も必要。
石塀の囲いから出て、魔物に出会うかもしれない中、木を伐りに行くことなどできない。
…そんな中僕らが丸太を運んできたのだ。
次の日は、本職の木こりに頼み込まれて、一緒に森に行った。
僕らがいる間に、材木とこの冬に必要な薪の分を確保したいという切実な願いだったので、もちろん快諾したのだ。
どの木を伐るのか、木こりには見分ける基準があるようで、その指示でたくさんの木に印をつけた。
その後、何日もかけて、それらの木を伐り倒しては村に運ぶ…を繰り返し、その合間に魔物に出会えば魔物を倒した。
最後の日には、僕もアレックスもそれぞれ一人で丸太を運べるようになっていて、自分でも驚きだった。
もちろん木こりも驚いていた。普通は馬に引かせるものだから…。
異世界渡りをして、魔法が使えるようになっただけでなく、体そのものも実は変わっていたらしい。
元の世界で丸太引きなんてしたら、腱や関節を痛めるに決まっている。
もしそうならなかったとしても、こんなにたったの数日で目に見えて強くなったりはしない。
…僕、もう普通じゃないんだな…そんなことを思ったら、少し笑えた。




