49ハルト サプライズ
向かう村は、街道沿いではないため、道が悪い。
そんなに速度も出せないし揺れる。
半日ほど走った辺りで、ゆっくり進む馬車に魔物が襲い掛かってきた。
馬がいななき、急停止したので何事かと思って窓の外をみたら、魔物がいたのだ。
初遭遇の魔物で、巨大な蝶のような蛾のような…とにかく不気味な奴がひらひらしていて、馬が怯えている。
慌てて馬車から飛び出して、攻撃した。
長身のアレックスは届くけど、僕はタイミングが合わないと届かない。
そういえば、とゲームでのことを思いだして、物理攻撃をやめて、炎の攻撃魔法を浴びせてやったら、羽に火がついて地面に落ち、すぐに止めを刺すことができた。
今までよりは手ごたえのある魔物だった。
「お見事」
パチパチパチ…、と手を叩かれて振り返ると、馬車の御者席にいたのは、なんと、グレイ騎士団長だった。
「は?なんで?」
「師匠…?」
僕もアレックスも絶句だ。
この魔物だらけの世の中、騎士団長様は多忙を極めているはず…。
「なんかお前たちがしょっぱなから苦労していると聞いてなー。ちょっと前から準備はしていたんだが、あちこち手を打って、今朝、ようやく同行出来るめどがついてな」
出がけのアントニーさんのいい笑顔は、僕らには内緒ごと、しかも喜ぶだろうことがあるが故のいい笑みだったのだ。
「は、早く教えてくださいよ…」
アレックスも僕もがくっと力が抜けた。
「この辺りから魔物の分布が丁度変わるところだったんだ。早速洗礼を受けたがな。で、宿をとる予定の村は、もうここから数時間の距離だ。だから提案だが、ここからは魔物を見かけるごとに馬車を止めるから、今から戦闘訓練を開始したらどうだ?」
もちろんアレックスも僕も同意した。
もう一度馬車に乗り込んでからも、グレイが一緒にいてくれると思うだけで、久しぶりに気持ちが上向きになった。
そして、ゲームで、グレイを仲間にするときのことを思いだしていた。
グレイを仲間にするには、ひたすらに口説き落とす必要があった。
旅立ってから、グレイに一緒に来てくれないか、と頼みに行くのだ。
但し、頼めるのは一日に一回だけ。
冒険の途中で何度も城に立ち寄ってはお願いをして、また旅立つ、を繰り返す。
そしてお願いすること二十回。それを超えるとようやくグレイがその気になってくれる。
でもグレイがその気になってくれた後も、今度は騎士団長であるがゆえに、すぐに一緒に出発、ということにはならない。
まだ一緒に行けないか、と冒険の途中で立ち寄っては訊ねる、を繰り返すと、六回目にようやく仲間になってくれるのだ。
この回数さえ知ってしまえば、中盤以前で仲間にすることができるけど、二十回以上というのはかなり大変で、熱心に仲間にしようと努力をしなければ仲間にはできない。
僕も初めて遊んだときはこの回数のことを知らず、仲間にできなかった。
城に戻ってグレイに会うたびに、『一緒に来てくれないかと頼む…yes,no』が出るので、yesを選んでも、『行きたいのはやまやまだが…』と毎回断られるので、そういうものだと思って、諦めてしまったのだ。
パッケージに顔が出てるのに、なんでだ!と叫んだものだ。
…そういえば、グレイに一緒に来てくれないか、と頼むのをしていないじゃないか!
仲間になってくれるのは先だとしても、すぐに始めておかなくては!
驚愕の事実に気が付いて、夜、宿で落ち着いたら、まずは一回目のお願いをしてみよう、と決めた。
村にたどり着くまでに、随分と多様な魔物に出くわした。
最初に出会ったひらひら飛ぶ虫みたいなヤツ、巨大な花みたいなヤツ、凶悪な巨大なウサギみたいなヤツ、夕暮れが近くなると、巨大な蝙蝠みたいなヤツも増えて…。
それらが単体で、もしくは同じ種類が数体、または、ミックスで遭遇した。
つまりは魔物濃度が濃いのだ。
飛んでるのがいるおかげで、かなり遠くてもあそこにいるなあ、と分かるのは楽だったけど、遠くの飛んでるやつに気をとられていたら近くからウサギに飛びかかられる、ということも多々あった。
ここらの魔物は魔法を使ってくることはないけど、蝶なのか蛾なのか良く分からないやつはマヒする状態異常攻撃をたまに仕掛けてくるし、花みたいなやつは眠らせる状態異常攻撃を持っていた。
魔物との遭遇回数が多すぎ、戦闘中に攻撃魔法だけではなく、初めて回復魔法も使ったし、僕は途中で魔力切れをおこしてしまい、回復薬のお世話にもなった。
状態異常回復魔法が使えるグレイがいなかったら、まだそれらが使えない僕らだけではもっと苦戦していたのは間違いない。
村に着く前に、魔物の換金部位を突っ込んでいる袋がいっぱいになってしまった。
でもその辺りは大人たちには想定の範囲だったようで、馬車にたくさんの予備袋を積んでくれていた。
日が暮れる直前に村に着いてみると、外部からの人間は久しぶりだ、と驚かれた。
魔物が増えて、しかも今までよりも強くなってきて、護衛付きの商人が定期的に様々なものを売りに来てくれるけど、それ以外の人の行き来はほとんどなくなっている、とのことだった。
ただ、さすがはこの世界。
数百年おきにこういう事態になるので、村の周囲を石塀で囲って魔物が入れないようにしてあり、さらに囲いの中に広大な畑や牧草地が作られ、自給自足できるようになっていた。
飛んでいる魔物もそんなに高くを飛ばないタイプなので、石塀で間に合っているという。
極まれに入り込むことがあっても、村人総出で倒しているそうだ。
思わず被害はないか確認したけど、この村では今のところ、まだ怪我人程度で済んでいる、ということだった。
僕らは建前として、『冒険者なので魔物を倒してお金を稼ぎに来た』と伝えると、長い目で見れば焼け石に水でも、今いる魔物を減らしてもらえるだけでもありがたい、と喜んでくれた。
どうせ他の客は来なくて暇だから、と、宿ではいい部屋を提供してもらった。
そしてなんと、その部屋には浴室があった。
お湯の用意には別料金が掛かるものの、僕らは大喜びで、泊まっている間は毎晩用意してもらうように頼んだ。
それから宿の食堂で食事をとったのだけど、クリスの魅力ダウンのアイテムのお陰で、村人からの…特に女性からの注目はグレイに集まり、グレイを生贄にして、僕とアレックスはゆっくりと食事を堪能した。
寝る前に明日の段取りの確認のために僕の部屋に一旦集まったとき、グレイに、クリスに貰ったアイテムの説明をしたら、朝からなんか変だなと思っていたらそれか、と唸り、俺の分も作ってもらおうかな…と真剣に悩んでいた。
そして僕は、馬車の中で、グレイに仲間になって欲しい、と言うと決めていたのに、いざとなったら何だか恥ずかしくて、どう切り出したものかもわからず、もじもじし、二人になんだ?どうした?と不審がられながら、結局その晩は何も言えなかった。




