48ハルト 仲間が…
そして混乱した。
このイベントのときは、僕らが丁度よい位に強くなったころで、こっちも僕とアレックスとカールとジャックの四人だ。
村の人からは、やめておけ、ではなく、お願いします、と言われるはずだった。
どうして、そのイベントが今起きているのか…。
店を出て…ふと、嫌な予感がして、この村の墓地に向かった。
最近亡くなったという、腕に覚えのある者…まさか、いや、そんな、と思いながら真新しい墓石を見る。
足が震えた。
そこには『狩人のジャックここに眠る』と彫られていた。
ジャックはこの村に住む狩人で、弓と短剣が得意な青年だった。
僕らがはじめてこの村に来た時、魔物のせいで森にはもう狩る動物もほとんどいないし、独り身だし、魔物を減らす手伝いができるなら、と仲間になってくれるのだ。
カールに続いて、ジャックも、複数人の方が魔物を狩るのに効率がいいだろう、という軽い気持ちで仲間になってくれるのに、最終的にはブラックドラゴン討伐の英雄となる。
ジャックの弓での遠方への攻撃や、短剣での急所狙いの攻撃のおかげで、戦闘が長引かずに済んだ。
さらに目つぶしなどの特殊攻撃も得意だった。
夜にキャンプをする時も、テントの周りに罠をはって、安眠できるようにしてくれた。
人懐こいジャックが、もういないなんて…。
僕はもう食欲がなくて、持っていただけだったフルーツを墓前に供えて、冥福を祈った。
ふらふらしながら宿に戻り、心配したアレックスが夕食を買いに行ってくれている間、ベッドに転がって、もう指を動かすのもできないのではないかと思うくらいに落ち込んだ。
打ちのめされていた。
順当にゲームのストーリーの通りに進んだなら、ここから4人となり、戦力が増えることで、一気に冒険が進み始める。
それこそ四人で見張りの交代ができるので、魔物のでる平原でもキャンプができた。
このままでは、ゲームのときのように、仲間を増やすことができずにスタート時点の二人のままなので、ストーリーが進まず行き詰る、というパターンではないのか…。
それに、ゲームのスタートのときより、この世界では僕が旅立ったのはかなり遅くなってしまっているようだ。
僕が、ゲームのスタート時と同じ魔法やスキルの習得にこだわったからだろうか…。
実際、ゲームよりも魔法やスキルが多くなってから出発している。
それだけ遅くなっているのは確実なのだろう。
確かに、アレックスから二か月後をめどに旅立つことを聞いてから、きっかり二か月では旅立たなかった。十日ほどは遅れている。
…だとしても、ゲームスタートからの十日ほどで、この洞窟のイベントは起こらない。
主人公のレベルにあったイベントが起こるあたりがやはりゲームだったのだろう。
ここは現実だ。
今まで、アレックスが一緒に旅立ってくれることが確約された時点で、油断していた。
今後もそのように、ゲーム通りに進んでいくのだろう、と…。
これからは、もう、仲間になってくれる可能性のある人達のところに、早急に行ってみるしかない。
序盤で仲間になる可能性のあるのは誰がいたか…どこでどう出会って仲間になったか、早く思い出さなければ!
ハムやチーズにパンなどを買って来てくれたアレックスは、ベッドで微動だにしない僕を見て、「死んでるのかと思った」と呟いた。
このままでは何もできない、というのが僕とアレックス、共通の認識だった。
なので、次の朝早く、村を出て、大急ぎで城に戻ることにした。
焦りながらも思い出した、僕がゲームで次に仲間にしていたメンバーは、王都の神殿にいる巫女とその兄だ。
ゲームでは、ここまでのパーティーの四人中、回復魔法が僕しか使えないため、敵が強くなるにしたがって、僕は回復役に徹することになってしまっていたので、回復を専門にしてくれる人材を求めることになる。
城に戻って、回復魔法の使い手を紹介してもらうと、それは巫女の少女で、でもその兄が、そんなむさくるしいパーティーに妹だけを行かせられるか、とくっついてくる。でも、この兄が魔導士として優秀で、その後の冒険が楽になる…という展開だ。
ただ、この二人を仲間にするためには、イベントをこなす必要がある。
とある地方にある神殿の敷地内の土地がいきなり陥没、そこから魔物が出てきて、地下にダンジョンがあることが判明する。
そのダンジョンの攻略に巫女を連れて行き、一度もその巫女を戦闘不能にすることなく攻略できた時だけ、その後仲間になるのだ。
でも、ゲームでは、この二人が仲間になるのは、ストーリー的には中盤の手前。
…だけど、もうそんなことは言ってられない気がする。
神殿のダンジョンなんて、今尻尾を巻いて逃げてきた洞窟なんて比べ物にならない手強さだ。
もしゲームと全く同じイベントが起こるなら、巫女を仲間にするのは難しいだろうけど…どうしたらいいんだろう。
予定よりかなり早く戻ってきた僕達に、皆少し驚いていたけど、僕が何か言う前に、アレックスが「どうにも二人だけというのに問題がありそうだ」と言ってくれた。
アレックスも同じように感じていたらしい。
巫女を紹介してもらったときも、確かアレックスが言い出してくれていた。
なので、これはこのままそのイベントになる流れか…と思っていると…全くそうはならなかった。
仲間を増やすより、僕らは僕らの能力にちょうどいい魔物が出る場所まで馬車で送ってもらって、諸々の強化をする、ということになったのだ。
冒険者としての仕事の請負として魔物を狩るでもなく、ゲームでいうところのレベル上げ!
僕らは、身内からも『とにかく弱すぎる』、という判断をされたのだ。
思わず、は、と短く息を吐いて、ソファーに沈み込んでしまった。
でも、落ち込んでも嘆いてもいられない。
次の日、僕らは王子と分からないように軽く変装したうえで、馬車が用意されているという厩舎に向かった。
御者さんに、勇者を探しに行っているはずの王子だとばれてはいけない、と言われたのだ。
アントニーさんが待っていてくれて、この馬車ですよ、と合図してくれたので、御者さんには申し訳なかったけどそそくさと乗り込み、中に入ってから声だけかけて挨拶をした。
御者さんには、アントニーさんから行先は伝えてもらっているはずなので、僕らが乗ると、すぐに馬車は出発した。
窓から見るとアントニーさんがいい笑顔で手を振ってくれたけど、僕ら二人の気持ちは重い。
憂鬱な気持ちで手を振り返した。
馬車に向かっているこの後ろ姿をマリアに見られております。




