47ハルト 魅力下げます
次の朝、朝食前の早い時間だというのに、出発準備をしているところに、クリスとアントニーさんがきた。
「これね、昨日ハルトが言っていたやつだよ」
クリスの手には、二つのカラフルなリストバンドのようなものがあった。
受け取ってよく見ると、組紐とは違うけど、複雑に組んだ紐を使って編まれた、とても手の込んだものだった。
「え?何?」
「殿下達の美しさをカムフラージュするアイテムです。昨日のお話、ハルト殿下のおっしゃる通りだと思いまして。魔法省に相談に行きましたところ、殿下達はお生まれになったときに、精霊の祝福を受けていらっしゃるので、ある種の魔法が効きにくく、魅力を下げる魔法は効かないだろうということで、急遽このアイテムをお作りいたしました。美しさや魅力を上げるアイテムはあまたございますが、その逆、ということでクリス殿下が大変に乗り気になってくださいまして…一晩で作り上げられました。効果は確認済みでございますのでご安心ください」
精霊の祝福とかいくつか気になる点はあったけど、そこは、今は置いておくことにして。
「へえ、クリスが?」
それで夕べの晩餐のとき、少々うわの空で、会話にも大して加わらなかったのか、と納得した。
アレックスも手に取って、まじまじとみているので、アレックスの手首に巻いてやった。
すると、見た目は何も変わっていないのに、なんだろう、急に雰囲気が…王子様らしいキラキラオーラが無くなった!
「おおおー!すごい!これならどこの町に行っても、大丈夫そうだよ!」
「自分では良く分からないが…じゃあ、お前もつけてみろ」
「え?僕には必要なくない?」
アレックスに強引につけられて、皆の様子を見ていたら…。
「おおっ!本当だ!すごい!」
「でしょ?タイプが違ってもちゃんと有効なところが、僕の優秀さを物語っているね!」
クリスがどや顔をしている。
僕にどう効いたのかは自分では分からなかったけど、とにかくアレックスには効いている。
クリスはおそらく間に合わせるために、徹夜で作ってくれたんだろう。
「ありがとう!クリス……にいさま?……わっ」
僕がありがとうを言ったあと、クリスが音を出さずに何かを言うように口をパクパクしたので、もし声に出していたらにいさま、と言っているのかな?と思ってつい声に出してみたら、…クリスに抱きつかれた。
「やっと兄様って呼んでくれた!キースやジュリーに自慢しようっと!じゃあ、気を付けて行ってきてね!僕、朝食食べたら今日はもう仕事休んで寝るんだーじゃあね!」
クリスらしいというかなんというか。
あっという間に立ち去ったクリスを、また何か必要であればおっしゃってください、と僕らに言って、アントニーさんが追いかけた。
そのすぐあと、朝食と昼食をお弁当に持たせてもらって、僕らは自分達の馬に乗って、出発した。
旅立っての最初は、ギルドの仕事を請け負って、だったので、自分達の意志での行先ではなかった。
でも、あれはゲームの通りだったし、お金がないところも、今思えばあの町に滞在させるための設定だろう。
ゲームでは、あの町に滞在したからこそ、カールと知り合い、仲間になってもらえたのだ。
それがゲームと違い、最初から仲間を増やすのを失敗したと今となっては、今後の仲間づくりがものすごく不安だ。
せめて、夢のお告げがあったとか、うさん臭くてもいいから、仲間にする予定のメンバーがどこでどうしているか、こっそり調べてもらっておけば良かった…。
だって、僕、本当は権力もあるんでしょ?
使いどころだったかも…。
自分自身の記憶と違い、しょせんゲームの内容だ。
印象的なエピソードははっきり覚えていることもあるけど、この前半の辺りは仲間になってもらうのを失敗するようなイベントでもないから、正直記憶が薄れている。
カールのときも、目の当たりにしてから、ああ、そうだった!それでこのあとこうなるんだよね!…と思いだせたように、今後もそんな感じで体当たりしていくしかない。
そんなことを考えながら、その日は無事に最初の目的地の町に着いた。
クリスのつくってくれたアイテムの効果は絶大なようだ。
今までは、ギルドでも宿でも、男女問わずにチラチラと見られていたのに、この町では、それがない。
町を歩いていても、誰にも注意を向けられないこの感じ!
懐かしい…元の世界ぶりだ。
アレックスは、誰の注目も受けずに人々の中に埋没するのは初めてのようで、逆にきょろきょろと周りの人々を見ている。
はっきりと自分が見られていると分かっているときには、こちらから辺りを見回してうっかり目が合ったりしたら大変だったのだろう。
しばらく町を歩いているうちに、僕もアレックスも、『見られないこと』に慣れた。
意識してフードを被らなくていいって素晴らしい!
その日は何事もなく宿に入り、次の日の朝早くにまた出発した。
町から村に向かう途中、見たことのない魔物を見かけて…ゲームではもちろん雑魚魔物で何度も倒したものだけど…馬を止めて狩ってみたりしつつも、夕方には村にたどり着くことができた。
村の中を、宿屋を探して歩いていると、すぐに色々思い出してきた。
でもこの村で仲間になってもらえるはずの、ジャックと出会うきっかけが思い出せない。
ひとまず宿を確保して馬を預けてから、ゲームでの行動のセオリー通り、町中の人達の話に耳を傾け、食堂や、お店などを回ることにした。
村なので屋台がないので、途中、おやつに…と青果を売っていた店でフルーツを買うと、店のオヤジが気になる話を聞かせてくれた。
村のそばの森の中に洞窟があり、最近そこから強い魔物が出てきて、村の皆が困っている…というのだ。
びっくりした。
そして焦った。
記憶通りのイベントなら、それは、この村でジャックを仲間にし、他の町や村などを回って、後日また訪れた時に発生するはずだったのだ。
嫌な汗が背中を流れ、僕は青くなった。
アレックスに「ひとまずその洞窟の情報を集めようぜ」と言われて、頷くことしかできなかった。
次に武器屋に行ってみると、小さな村なのでお店は小さかったけど、売っている物は今の僕らの所持金では買えないような鋼の鎧などだった。
それはつまるところ、この近辺では、皮の鎧程度では身を守れないことを意味していた。
武器屋の店主によると…。
洞窟の中では、ドラゴンの発生は関係なく、常に魔物が湧くことは、この村の人間には常識として知られていた。
だからこそ、その洞窟の入り口は大岩で閉じてあり、定期的に点検も行っていた。
なのに、ある日気付いたら森に魔物がわんさかといて…どうやらその入り口が魔物達によって破られたらしい、ということがわかった。
そして、腕に覚えのある者たちが、その魔物達が村まで来ないように狩って、洞窟の入り口を再び閉じようとしたのだけど、なかなかうまくいかなかった。
さらに数度のチャレンジのうちに、その中心となっていた若者が命を落としてしまい、入り口を塞ぐどころか、森の魔物を狩るのもギリギリになってしまった。
自分達にできるのは、せめて良い武器や防具を仕入れて彼らに提供することだけで、なんとも歯がゆい…。
という話だった。
アレックスと思わず顔を見合わせた。
アレックスの顔色も良くない。僕も相当青い顔をしているだろうと思う。
「お兄さんたちも、この村より先に進もうというなら、その装備ではいけないよ。これは儲けようとして言っているんじゃない。そして、その洞窟をどうにかしようとは思わないことだ。お兄さんたちの手に負えるものではない。今、村の皆でお金を出し合って、冒険者ギルドに依頼をだしてある。とにかく、近づかないことだ」
そう言われて、頷くしかなかった。
確かに今の僕らの実力では、この洞窟の攻略は自殺行為だ。
かなり厄介な魔物が待ち受けているはずなのだ。




