46ハルト ひと休み
色々聞きたいことを聞きおわったら、眠いしお腹すいたし…でくらくらした。
その頃には僕らの侍従が駆け付けてくれていた。
アントニーさんと別れて、すっかり住み慣れた僕らの宮に戻ると、ホッとした。
そして、今日に限っては順番待ちなんてしていられず、アレックスと僕は一緒に温泉に浸かり、あったかくてうとうとしてしまうので、うとうとしながら侍従さん達に頭やら体やらごしごしされた。
そのあとは簡単な食事をとった。
まだ夕方で、晩餐は整っていなかったのだ。
料理長から、お戻りになると分かっていれば腕を振るいましたのに、と残念がるコメントも受け取ったけど、小さな町の宿の食堂のご飯の後だと、十分に豪華だった。
僕らが戻っていると聞きつけたクリスがやってきて、話を聞きたがり、さかんに話しかけてきてくれていたけど、ご飯を食べるともう完全にダメだった。
夕べは一睡もせず、肉体労働をしたのだ。
明日話すから、と約束して、自分の部屋のベッドに横になると…毛布をかけたかの記憶もないくらい、すぐに寝入ってしまった。
次の日、起きてみたらもう昼に近かった。
起きたよ、とベルを鳴らして、身支度を整えると、両親の写真に久しぶりの朝の挨拶をした。
その間にお茶とフルーツという軽食が部屋に用意されていた。
昼食が近すぎるから、ごく軽いもの、らしい。
腹ペコだったので平らげながら、いつの間にか、ここでの、お世話をしてくれる人がいる生活に馴染んでいることに、我ながら驚いた。
母さんがいなくなってから、僕は一人暮らしで、何でも自分でやっていたのに。
この世界に来たばかりのときは、ベルも、目が覚めたら鳴らせ、と言われていたから鳴らしていたに過ぎず、侍従さんにお世話されることに居心地の悪さを感じていた。
なのに、今はもうそれが当たり前になっている自分に、微妙な気持ちになった。
フルーツを食べたら少し元気が出て、部屋を出た。
アレックスが待っているというのでサロンに行くと、今後の行動をどうするか相談したい、ということだった。
魔法の世界地図を広げて、二人で頭を寄せ合う。
魔法の地図は、所有者として登録した僕が、行ったことのある場所と行ったことのない場所が違う色で表示される。
そして、主な都市や町の場所は普通の地図のように表示されているけど、これはいつか僕が転移魔法を使えるようになったときには、ものすごく威力を発揮してくれる。
そして、なんの『点』か分からなかったのが、替え玉王子達の居場所らしい。
そして、自分達のいる場所も点が点滅して教えてくれている。
地図全体のうち、行ったことのあることになっている色は、なんと狭いことか…。
まあ、隣町までしか行っていないんだから当たり前だ。
今日は久しぶりにアレックスの銀糸のような長い髪がおろされていて、地図を見る動きに合わせてさらさらと流れる。
本当にきれいだよなあ…思わず触ったら、そういうのは女の子にしろ、と怒られた。
僕の黒い髪や目の色はこの国では珍しくて人目をひくけど、義兄達は本当に綺麗で、美しいので人目をひく。
この美しさを隠すのも大事なことではないかなぁ、と思ったけど、具体的にどうしたらいいかはわからない。
アントニーさんたち大人に相談したら何か案がでるかも、と思ったら、ちょうどアントニーさんが来た。
僕らの今後を聞いておきたい、という理由だ。
まだ何も決まっていないから、僕はちょうどいま思いついたことを話した。
「うーん、そうですねぇ、確かに殿下達のような麗人はそうそういるものではないですよねぇ…」
「命を狙われる云々より、言い寄って来る女の子とのトラブル回避が先かと思ったんだよね。食堂の給仕のお姉さんが、最初は遠くからアレクを見つめてたのに、だんだんそばをうろうろするようになってね。もう一日いたら、きっとお手紙かなんか受け取ることになったと思うよ。まあ実際に話をしたら、こんな繊細そうな顔なのに、ガサツだし口は悪いしで…」
「おい、俺は女性には優しいぞ。言葉だって王子らしくだな…」
「え、実際に優しくした実績あるの?見たい見たい優しいアレックス見てみたーい」
「お前っ…」
僕達がわいのわいのと騒いでいる横で、アントニーさんはしばらく考えていて、その件については検討して後程ご報告いたします、ということになった。
仕切り直して、今後の行動計画について話し合った結果、今回行っていた町とは反対方向にある隣町へ行き、そこからさらにもう一つ先の村まで足を延ばして、城に戻ってくる、という一週間程度の予定を立てた。
今回行っていたカールと出会うはずだった隣町は、途中で野営をしなくてはならず、でも魔物のせいで寝られないので、もっと強くなるまでは向かわないことにしたのだ。
反対方向にある隣町は、朝に馬で出発すれば、夜になる前にはたどり着き、その先の村も同程度の距離だった。
そして、内心ではカールを仲間にしそこなったことに焦っていた僕は、ゲームでは次に新しい仲間が増えるイベントが起こっていた、その村に早く行きたかった。
明日の朝出発、ということになり、昼食をとっていると、昨日眠くて相手ができなかったクリスが、約束でしょ?とすり寄ってきた。
僕らにしてみると、今となってはこれといったことはなかったように思える数日間だったけど、それでもアレックスとお互いに補い合いながら話して聞かせると、目を輝かせて聞いてくれた。
「一晩中寝ないで魔物を倒すんでしょう?疲れてうっかり寝ちゃったりとかはなかったの?あ、寝ちゃってたら今頃ここにいないかー、あははっ」
心配してくれているような、いないような…。
「へぇ、魔物によって持って帰る部分が決まっているんだ…そのうちその商人さん達の地方みたいに動物っぽい魔物ばっかりの地域だったら、その持ち帰り部位から血が滴って…とかになったりするのかなっ」
考えてもみなかった話なので、アレックスと思わず顔を見合わせた。
ちょっと想像してげんなりする。
もしそんなことになるようなら、持ち帰っての換金をあきらめるか、そういうのを入れる専用のカバンを用意した方が良さそうだ。
「クリス、食欲なくなるような想像させないでくれる?」
僕の抗議にごめーん、と謝りつつも、クリスは僕らの冒険で頭がいっぱいのようだ。
「僕もついていってみたいなぁ。二人がいないと、朝食も晩餐も、しーんとしちゃってつまんないんだよ?でも僕は全然鍛えてないから無理だよね。魔法でのお手伝いならできるけど…。そうだ、さっき面白い相談を受けたんだった!午後は楽しめそうー」
クリスはこう見えて、魔力が強く、多属性もちで、魔法省に関わる仕事をしている。
今日はキースもジュリアスも昼食には現れなかった。
忙しくて、執務室でとっているのだろう。
でも、きっと晩餐のときには会えるはずだ。
ほんの数日会っていないだけなのに、寂しく感じるなんて…。
もしかして、これが兄弟、家族だからかな…。
そう思ったら、なんだかこそばゆくなった。
昼食後は、足りないと感じた持ち物の補充や追加をしたり、ちゃんとお金の入った財布をもう一つ貰ったりして、準備ができたところで、またのんびりと温泉に浸かった。
温泉から上がったら、おやつを食べてお茶をして…まったりと過ごした。
晩餐の席でも、今度はキースとジュリアスのためにこの数日のことを話して聞かせ、お金に苦労したくだりではキースがものすごいしわを眉間に寄せた。
「…とまあ、旅立ったとも言えないっていうか。いつもの森での魔物狩りを、遠出して、時には一日半ぶっ通しでやった、というだけかな。あ、そういや冒険者のパーティーとしてのランクはひとつ上がったな」
アレックスの総括通り。
僕もそう思う。
「何にしても危険とは常に隣りあわせだということを意識して、身を守ることを最優先にしてほしい」
さすがキース。校長先生の言葉みたいだ。
「過去の勇者の記録は再確認した。いつでも過去のデータが知りたければ言ってくれ」
ジュリアスも頼もしい。
「そういえば母上達は何て?」
僕がまったりしていたころ、アレックスは母親の側妃や王妃とお茶をしていたらしい。
僕のことはゆっくり休ませるために呼ばなかったそうだ。
「いや、元気な姿さえみられれば、特に詳しい話はいらないって。ハルトをしっかりサポートしなさいってことばっかり繰り返し言われたよ」
「そうか、母上達らしいな」
穏やかな晩餐。
…僕は、この彼らのこの時間を守るために、全力を尽くそう。




