45ハルト 城への帰り方
次の日は、魔物を狩りに行く前に、念のため、もう一度僕らでも受けられる依頼がないか冒険者ギルドの掲示板を見に行った。
運よく、僕らでも受けられる、王都に向かう商隊の護衛の依頼が張り出されるところだった。
なので、早速それを受けさせてもらい、狩りに行く必要がなくなったので、商隊が出発する時間まで、ゆっくり町をぶらつくことにした。
今のところ回復薬の出番はなく、減っていないので買う必要もない。
なので、この町では他のアイテムや武器や防具はどんなものが売られているか、と、その値段を見て回った。
アレックスによると、王都に近すぎるので王都と同じ値段だそうだ。
それでも、僕もアレックスもしょぼい剣しかもっていないので、きらりと輝くプラチナソードなんかを、いいなあ、と指をくわえて眺めた。
出発時刻になり、集合場所に行ってみると、今度の雇い主の商隊の人達は、言葉も彼らの地方の独特のもので、でも人懐こい、話好きの人達だった。
そして主と使用人ではなく、父親と息子たちで、みんな似た顔をしていて、彼らの地方の状況などを道すがら惜しげもなく教えてくれた。
彼らの地方はここより強い魔物が出るので、高いランクの冒険者を雇わないといけなくて、支払う報酬も高く、痛手なこと。
動物に近い魔物なので、馬車を追いかけてくることもあり、馬で走りながら魔物を倒せるくらいじゃないと護衛は務まらないこと。
そういう危険を冒しても、彼らの地方の特産物は王都でニーズがあるので往復の危険度やコスト考えても、王都に来る価値はあること。
…でも、その積み荷の中身が何かは教えてもらえなかった。
二度目でもあり、夜中の護衛も、前ほどの緊張感も無く終えられた。
魔物をみると、お金、って思うところも大きい。
今回はちゃんと換金部位を回収しているのだ。
初めての護衛のとき、これを知っていればなあ、とアレックスも僕も、ついため息をついてしまう。
無事に城下町までたどり着き、フレンドリーな雇い主と別れて、ギルドにいってまずは護衛の報酬をもらう。
掲示板をよく見ると、この王都のギルドでもちゃんと国からの依頼が、隅っこの方に小さく出ていた。
この辺りでは魔物も少ないので、あまり稼ぎにならないのだろう。あるはずだ、と掲示板を注意深く探して、ようやく見つけられる程度だった。
一日半の戦闘の成果分を換金すると、護衛の報酬と合わせてそこそこの金額になった。
見慣れた城下町に戻ってきて、お金はようやく宿や食事に苦労しないかも?という金額になった。
さて、このあとどうする、と二人で顔を見合わせた。
「アレク…僕は温泉に入りたい…もう何日お風呂に入ってないんだろ」
…思ったよりも情けない声が出た。
「そうだな、俺もちょっと休みたいかも」
アレックスも二つ返事で同意してくれた。
そういえば初日こそ、こそこそとフードを被ったりしていたけど、すっかりそんなことも忘れていた。
でも今のところ、ばれているような気配はない。
一応フードを被って、城に向かって歩き出し、賑わっている屋台の前を通って…唖然とした。
その屋台では、
『あなたも王子殿下のように!今、時代は神秘的な魅力の黒!』
というのぼりをたてていて、
「彼女がいないとお嘆きのあなた!黒髪にすれば、意中の女性もイチコロだ!恋人がいるあなた!倦怠期じゃないですか?黒髪になったあなたをみれば彼女は更に惚れ直しますよ!」
…などと威勢のいい売り言葉に、髪を黒く染める染粉が飛ぶように売れていた。
はは…、と苦笑いをするしかない。
アレックスも、くくく、とのどの奥で笑っている。
「笑うなよ」
口を尖らせて抗議したけど、「俺も染めようかな、もてるんだろ」とからかわれて、肩パンチをくらわせた。
城の城門の前まできてから、はて、そういえばどうしたらいいんだ、と困惑した。
僕らは、旅立っていることになっているので、城に居たらおかしいのだ。
…でも、ゲームでは普通に顔パスで入って、お帰りなさい、なんて言われてたような…。
二人でしばらく悩んでみたけど、らちが明かないので、僕がフードを深くかぶって、城門に詰めている兵に、文官のアントニーさん…僕らに色んな説明をしてくれた文官さん…に会いたいので取り次いでほしい、と頼んだ。
ぼくらの身元を証明するものとして、これといったものがなかったので、魔法の地図を袋に突っ込んで、この中身を見てもらってください、と渡した。
「どれくらい待たされるのかな」
「さてな…俺は自分の家だから待たされたこともないしなー。面会予約があるかどうかにもよるんだろ。それより、俺はもう眠い」
「僕も…」
城門の脇に、入城を待つ人のための建物があり、身分によって部屋が分かれている。
僕らは一般向けの大きな広間の端っこに立って、たくさんの人にまぎれて、のんきに二人でおしゃべりしていた。
アントニーさんはものすごい勢いで走って来た。
広間に駆けこんでくると、ほとんど皆がアントニーさんを見たので、さすがに咳ばらいをして、ゆっくり僕らに向かって歩きはじめた。
僕らもアントニーさんの方に向かい、落ち合ったら一緒に出て行くのかと思ったら、すれ違いざまに僕らにだけ聞こえる小声で、門のところで待っていて欲しい、と言うと誰かを探しているかのようにそのまま広間の中を歩いて行ってしまった。
言われたとおりに待っていると、広間を一回りして、探し人がいなかったかのようなフリをして出てきたアントニーさんに、ついてくるように手招きされた。
アントニーさんなりの、なんらかの隠ぺい工作のつもりのようだ。
ずっと見ている人がいたらバレバレな気がするけど、特に興味もない人たちの目くらいは誤魔化せたかもしれない。
誰何されることもなく、すんなり城門をくぐり、前庭を通って城内に入ったところで、すぐに手近な部屋…城外からの訪問者が城内の者と面会するときの部屋のうちのひとつ…に連れ込まれた。
「お二人とも、お元気そうで何よりです」
にこやかに切り出したアントニーさんに、アレックスが食い気味に質問した。
「言いたいことは色々あるんだが、まずは教えてくれ。最初に確認するのを忘れたこちらも悪かったと思っているが。今後、城に戻ってくるときにはどうやって中に入ればいいんだ?そもそも戻って来ても大丈夫なのか?」
その答えは
「普通に名乗って入ってきていいですよ、もちろん、ご自宅ですからいつでも帰ってきて下さい」
だった。
「「はあ?」」
「もちろん、一般国民に対しては、殿下達はこの世界を旅していることになっています。ただ、あえて城内で働く者たちの前に、ときどき殿下達の替え玉を目撃させています。世界を旅している替え玉王子達には、その筋の人間なら誰もが知る魔導士をお供に着けています。彼の魔法陣にかかれば、どこにいても、一瞬で城に帰って来られるのです。なので、替え玉と本物が同時に同じ場所にいる事態にさえならなければ、なんの問題もありません。それに、今日ハルト殿下が取次ぎを頼んだ衛兵も、本当は殿下達だと気付いております。皆、殿下達のお顔は把握しておりますから。ただ、本物か替え玉かの区別はつきません。というか、替え玉の存在を彼らは知りません。なので、出発のあの日だけはばれてはいけなかったのですが、今後は大丈夫なのです。それと…この地図に、替え玉王子達がどこにいるのかが示されるようにもなっているんです。安全のため、替え玉王子達の魔法の地図には本物の殿下達の位置は出ませんが。なので、替え玉が城にいるかどうかをご確認の上でお戻りいただければ大丈夫です」
「逆に、僕達が城にいるときに、替え玉のお二人が気付かずに戻ってきちゃうことはないの?」
「それはおそらく大丈夫です。くだんの魔導士とは魔法道具で確認をとりあってから、転移を許可しています。城には本物の殿下達と替え玉王子達、どちらもどこにいらっしゃるかがわかる地図がございますので」
なんだよー、早く言ってよー、の一言に尽きる…。
「そんな便利な魔法道具、俺たちには持たせてくれないんだな」
「ですから悪目立ちはよくありませんし、その道具は一セットしかなく…」
「それにお金、少なすぎだったよ。宿に泊まったりご飯食べたりするのも一苦労だった」
「え?」
…よく聞いたら、持たせたと思われていた額の半額しか、僕らは持たせてもらっていなかった。というか、単純に僕ら二人に一つずつ渡すはずだったお金入りの財布、一つしか受け取っていなかった。
どこかに紛れたか、誰かが横領したか…。
僕らは、二人で行動を共にするから、財布は一つでいいだろうと思われていたんだと思っていた。
ゲームでもそうだったし。
アントニーさんの説明台詞、長っ!




