44ハルト 仲間が増えるイベント?
朝、アレックスが起こしに来た。
僕は夕食を食べ損ねていたので、宿の食堂でしっかり朝食を食べ、食べながらアレックスと相談した結果、一旦城に戻りたいから、数日この町でお金を稼ぐことにした。
今の僕らの手持ちのお金では、馬を借りられない。
歩いて城に戻るとなると、一日かけて歩いて、昨夜のキャンプ場で一泊し、次の日の夜になる前に城下町に入る、というスケジュールになる。
平和な時代ではそれがスタンダードで、だからこそあの位置にキャンプ場があるのだ。
でも、魔物が出る今は、キャンプ場で一睡もできそうにない。
もっと仲間がいれば交代で眠ることもできるかもしれないが、二人では無理だ。
夜通し歩き続けるしかなくなる。
今の自分の体力では、魔物を倒しながら、四十時間近く歩き続けるのはできることではなかった。
…というわけで、お金を貯めて、馬を借りるのだ。
最初に持たせてくれるお金、やっぱり少なすぎだよ…。
ゲームのときはどうしたっけ…?
思い出そうとしても、全く思い出せない。
時間がたちすぎているのかもしれない。
諦めて、町を探索しながら、この町の冒険者ギルドに出ている依頼を見に行った。
王都に向かう商隊の護衛があれば理想だったけど、あれは王都のギルドマスターが、僕らのためにとっておいてくれた案件だ。
そうそう都合よくそんなのがあるわけがない。
今出ている依頼をじっくり見てみたけれど、今の僕らの冒険者としてのランクでは、受けられる仕事はほとんどなかった。
僕らはまだ弱すぎるのだ。
結局、国からの依頼…すなわち、町周辺の魔物を倒して、魔物の総数を減らす仕事をするしかなかった。
魔物を倒した後に証拠として持ち帰る部位の一覧表を貰い、昼食になるものを買い込んで、町から出た。
「ねえアレク、なんかこれって結局いつもの森でやってたことだよね…そして、商隊の護衛のときに知っておきたかったよね、魔物を倒した証拠部位を持っていったら換金できること。あれだけ倒してたんだから…」
「知らなかったんだから今更言っても仕方ない。次からは注意深く情報収集しよう」
王都のギルマスも、僕らがこんなにお金に困窮して、地味な換金仕事をすることになると思わなかったのだろう。
少々愚痴りながらも、魔物を探して、街道から離れた場所をさまよう。
ここらに出る魔物は、一撃で倒せるのは分かっているので、見つけ次第、どんどん狩る。
これで今日の宿代になった。これで、夕食代。ここからは馬を借りるための蓄え分…。
頭の中で計算しながら、もはや魔物を見かけるとお金!と思うくらいになって、手あたり次第に狩った。
陽が斜めになってきたので、地理に不慣れなことを考慮して、早めに町へ戻り、冒険者ギルドで、持ち帰った魔物の一部を換金してもらった。
次の日も、同じように町の外で、お金!と思いながら魔物を狩ったけど、平原は昨日かなり狩ったので数が少なく、効率が悪いと判断して、今日は森に入ってみることにした。
しばらく森の中で魔物を狩っているうちに、なんとなく既視感を感じた。
この森、覚えがある…。
しばらく考えて、そうだ!仲間が増えるイベントが起こる森だ!とようやく思いだした。
記憶をたどって森を進むと、記憶通りの家があった。
ここに住む木こりのカールが仲間になってくれるのだ。
木こりなので最初から筋骨隆々、素早さには劣るし魔法も使えないけど、斧の一撃は確実に魔物に大ダメージを与えてくれる、頼もしい仲間だ。
くどいようだけど、僕はこの世界がゲームの世界で、ゲームで色々経験済みなことは誰にも伝えるつもりがないので、わざとらしくならないよう気を付けながら、その家の住人に話を聞こうよ、とアレックスを説得して、ドアをノックした。
…ノックした。
…おかしい、返答がない…。
ここにはカールの奥さんや子ども達がいて、魔物がいる家の外に出るのを怖がって、家にこもっているはずなのだ。
首をかしげて、家の周りをまわってみる。
何かおかしい…。
裏手に、明り取りの窓があったのでそこからこっそり中をのぞいてみた。
「なんだ、空き家じゃないか」
アレックスの言う通り、窓から見える部屋の中は、必要な家財道具を持ち出したあとだとはっきりわかるものだった。
正面にもどって、ドアに手をかけると、すんなり開いた。
恐る恐る中に入ってみたけど、盗賊に襲われて、といった様子もなく、シンプルに引っ越しました、という感じだ。
椅子やテーブルといった大型の家具がそのまま置いていかれているが、その程度だ。
どういうことだ…。
言葉にはしないものの、内心、大慌てだ。
アレックスに「おかしい、そんなはずないんだけど」とも言えないので、もやもやする気持ちを切り替え、小屋を後にして、今日の分の宿代と夕食代…と熱心に魔物を狩ることに専念した。
夕方、ギルドに戻り、今日倒した魔物を換金したついでに、念のために僕の階級を確認してみたら、ここ数日の働きによって少しは強くなったらしく、僕の冒険者のランクが一つ上がっていた。
二人とも六級になったことで、パーティーとしても六級だ。
六級ランクになったことで受けられる依頼はないものか、と掲示板を見ていると、騒がしくギルドの建物に入ってきた一団がいた。
その騒がしさに思わず目をやり、ぎょっとした。
そのうちの一人がカールだったのだ。
木こりの服装ではなく、皮のしっかりした鎧を身に着け、木を切るためではない、戦闘用の斧を持っている。
思わず声をかけようとして、思いとどまった。
この世界のカールは、僕のことなんて知らない…。
僕の存在は目にも入らない様子で目の前を通り過ぎられて、どうすることもできずにひたすらにカールの動向を目で追うしかなかった。
彼らも僕らと同じように、狩ってきた魔物を換金している。
それが済むと、今日もいつものところで一杯やるか、等とまた騒がしくギルドを出ていった。
茫然とする、というのはこのことだ。
「おい、お前どうしたんだよ、今日昼間っからなんか変だぞ。また元の世界にあった物と似ている物でもあったのか?」
さすがに様子がおかしいと気づかれてしまった。
「ぼくらは二人だけど、あんなに大勢でパーティーを組むと、楽しそうだけど騒がしいね」
動揺している本当の理由が言えないので、ごまかしてみたけど、アレックスの表情は納得しきってはいない。それでも、それ以上の追及をしないでくれた。
夜、ベッドで一人になって考えた。
やっと思い出したゲームでのエピソードは…。
アレックスと二人で、森で魔物を狩っていると、カールの家を見つけ、カールの家族と会う。
魔物が怖くて外に出られないこと、夫も木こりの仕事をまだなんとか続けているけど、だんだん厳しくなってきていて、木こりは続けられないかも、と悩んでいること。
それらを聞いてから、町の冒険者ギルドに戻ると、冒険者登録にきたカールと会う。
話をしているうちに、どうせなら一人よりも効率がいいし、稼げる可能性も上がるから、と、仲間になってくれる。
初めはギルドの依頼を一緒にこなしているだけだけど、他の仲間も増えていくうちに、今更抜けられるか、と笑って、最後まで…ブラックドラゴンを倒すまで付き合ってくれるのだ。
エンディングでは、ドラゴン討伐の英雄の一人となって、この町に立派な屋敷を建てて、家族で幸せそうに暮らしている、そんな風だった。
ちなみにカールが僕らと旅立つと、奥さんや子どもは町の中に部屋を借りて住み、奥さんが内職をして子ども達を養って、僕らは時折帰ってはお金を置いていく、といったことになる。
…今日の状況からわかることは、カールはもう既に冒険者となっていて、あのパーティーに所属している。
あの装備の様子だと、それもここ数日のことではない。
森の家が空き家なのも、もう家族で町の中に部屋を借りて住んでいるのだろう…。
僕は、カールを仲間にするのは、もう手遅れだ、と結論付けた。
性格も穏やかで、心強い仲間だったけど…仕方がない。
カールも英雄になりそこなうことになるけど、ここにいれば僕らと行くほどの命の危険はない。
それにカールが僕らと旅をしている間、彼の奥さんはとても苦労している様子だった。
苦労の後に英雄の妻になるのと、そこまでの苦労はせず、そこそこの暮らしが穏やかに続くのはどちらがいいのか。
僕にはわからない。
分からないけど…家族そろって穏やかに暮らせるほうが幸せなんじゃないか。
僕は、そう思った。




