42ハルト
騎士団長様を護衛にして頻繁に森に行くのも心苦しくなり、近衛騎士の誰か数名だけを連れて森に行くことが増えた。
僕も少しは強くなっていたからだ。
森に行くと、半日付き合わせてしまうため、グレイの団長としての仕事はその分後ろ倒しになる。
何日も家に帰らず、執務室で仮眠をとるだけのようだ、という噂を耳にしたり、実際に顔色が優れないことが増えてきて、さすがに申し訳なくなったのだ。
そしてその頃、魔法理論というものを学んだ。
この世の中で既に広く知られている魔法は、その魔法理論が確立されているもので、その理論の本質さえしっかりとモノにすれば、自分だけのオリジナルの魔法やスキルが編み出せるし、既に認知されている魔法を習得するのも早くなること、を知り、歯噛みした。
魔法理論は上級の内容のため、ようやく学べたのだ。もっと早く学びたかったが仕方がない。
そして、学んだ理論を意識して、既に覚えている魔法を使ったり、スキルの発動をイメージしたりすることで…みるみる使える魔法やスキルが増えていった。
気が付くと、ゲームでのスタート時よりも多くなってしまっていた。
僕は慌てて、数日中にでも旅立とうと思う、という話をした。
大人たちは、僕がいつなんどきその気になってもいいように、準備万端整えてくれていた。
アレックスが一緒に旅立つことも、揉めるのではないか…だって王位継承権二位じゃない?…と思っていたのに、もう決定事項として扱われていた。
そして、ゲームスタート時の例の装備を与えられた。
お願いしていた魔法の地図は、僕らが持って歩くことになるのは本物じゃなくてレプリカだそうだけど、ゲームのときと同じ機能はまるまるあって、目的は果たせるものだったので、十分だ。
魔法道具のカバンも貰えた。
これは、見た目は小さいのに、中にテントのようにでかい物も入れられるし、とにかくびっくりするくらいたくさんの物を入れることができる。
そして、カバンにはお小遣い程度が入った財布が既に入っていた。
それらを手配した偉い文官らしいアントニーさんの話によると…。
僕らが旅立つことは、公表する。
但し、勇者としてではなく、勇者を探しに、という名目だ。
過去の事例から、勇者がブラックドラゴンを倒すまで数年かかるのが普通なので、最初は勇者に好意的な人々も、勇者が旅立って数年経つと、まだ倒せないのか、と不満を募らせ始めるのだそうで。
なので、殿下達、早く勇者様を見つけ出してくださいね、でしばらくは引っ張りたい、とか。
それに、王子達自らこの事態解決のために動いている姿勢を見せることで、王家への好感度があがることを期待しているそうだ。
人民の心というものまで考慮するのは、面倒くさいものだと思ったけど、かなり納得もできた。
そして地味な装備。
これの理由は、王子達が世界を旅する、というのが広まると、皆は王子らしく綺麗な馬車に乗り、たくさんのお付きのものを従えて…普段王族が国内を視察するとき同様…をイメージする。
なので…僕らの替え玉が、そのように皆の期待通りの行列で派手に国内を移動し、本物の僕らが王子とは思えない地味な格好をすることで、本物の僕らには注目が集まらないようにする、という話だった。
それに、ついでに僕らの替え玉の方に同行する文官が、行く先々で実際に視察も行うから、派手に移動するのにお金をかける価値もちゃんとあるらしい。
それに、今の王家によからぬ気持ちを持っている者などは、まず間違いなく何かを仕掛けてくるので、そのあぶり出しも兼ねているとか…。
とはいえ、僕の黒髪とかアレックスの銀の髪も目立つのでは、と訊いてみると、実は市井には王子達に憧れて、王子の見た目を真似る男子がいるそうで…もとの世界のコスプレみたいなものだろうか…、なので髪の色だけで言うなら、真っ黒の短髪も、銀の長髪もそこそこいますから、そういう連中のうちの一人として振舞えば、大丈夫です、と太鼓判を押された。
アレックスもニヤリとして任せとけ、というので、まあ大丈夫か、と思うことにした。
で、お金に関しては、身なりに不相応な所持金は何しろ怪しまれることこの上なく、悪目立ちしないために、たくさんは持たせていない、ということだった。
足りなくなれば順次追加を差し上げますよ、とは言ってくれたけど…。
僕らのみすぼらしい初期装備は、反王家をあぶりだして一掃するためでもあったか、と大人たちのえげつなさを垣間見てしまった。
でもこれ位したたかでないと、国なんて治められないのだろうな、と納得する自分もいる。
そしてすぐに『王子達の勇者捜索の話』が一般に知らされ、僕らが旅立つ日に、替え玉達が先に旅立っていった。
その替え玉たちの出発直前に、替え玉の人と直接会ったのだけど、僕に背格好も似た、黒髪黒目の少年でびっくりした。
アレックスの替え玉の人も、アレックスにそっくりだった。
彼らはプロなので、本当の名前を訊いてみたけど、ハルトとアレックスだ、とにっこりされた。
僕の替え玉の人は、実はもう二十代だそうで、それを聞いたアレックスが、仕草とかは似てても、その落ち着きっぷりは本物にはないな、というので、口が尖ってしまい、ほら、本物はこんなだからな、と替え玉さん達を笑わせていた。
二人によると、王族の替え玉、つまりはそっくりさんというのは常に用意されているそうだ。
そういえば元の世界の昔の戦国武将にも替え玉がいたりしたっけ、とすごく納得もした。
そして、ほとんどの質問ははぐらかされた中、体型は持って生まれたものだけど、顔や、目の色、髪の色は秘密の魔法で変えている、という話は教えてくれた。
何その魔法…顔まで変えられるって!?
どんな理論でそんな魔法が組めるのか、全く想像がつかない。属性も何だろう…?
興味津々になった僕に、秘密だから秘密の魔法だよ、と全く取り合ってくれなかった。




