37ハルト
悠人視点です。ころころ変わって申し訳ないです。
成人の儀の当日は、朝早くから準備をして、特別な聖堂で堅苦しい儀式を執り行った。
儀式の後は、引きつった笑顔でたくさんの人に手を振って…。
そして、僕は平凡なただの悠人なんだけど…ここでは第五王子のハルトなんだなあ、と実感させられた。
夜の舞踏会では、どこぞの国の王女だとかいう令嬢をエスコートして会場入りして、王から会場にいた貴族たちに紹介をしてもらい、社交界デビューとなった。
その後は、外国の王族やら重鎮の人達や、この国の主な貴族の皆さまとひたすら挨拶をし、そのあとは、ひたすらに全く記憶に残らない令嬢達とダンスをした。
どの御令嬢もとても綺麗なのだけど、元の顔が分からないくらいに真っ白に塗ったうえにお化粧をしているので…しかも皆が今流行しているお化粧をするので…同じような顔になってしまうのだ。
ところでこの世界に来て分かったことだけど、僕はリズム感も悪くないし、運動神経も良かったから、ダンスは得意といってもいいほどだった。
今日の主役として、ひたすらに請われるままに御令嬢達とダンスをしているうちに、義兄達が言っていた恐怖の一端を垣間見たけど、事前に知っていたのでなんとかスルーできた。
ある程度踊ったところで、助けを求める様に王の顔をみたら、遠くても意味を分かってくれて頷いてくれたので、適当な言い訳をして、義兄達のところに逃げ込んだ。
そのあとは王子のうちの誰か一人は踊っているけど、残りは固まって楽しそうに話し込み、令嬢達を寄せ付けない、という戦法に、僕も加わった。
はたから見ると笑顔で楽しそうに話しているようでいて、その内容は…。
「もうすぐ曲が終わる、次はだれが生贄になる番だ?」
「さっき私は踊ったばかりだ」
「僕、今日はもう十回以上踊ったよ」
「ち、俺はまだ四回だ。仕方ない行ってくる」
…といったようなものだ。
日付が変わるころに、王からの目配せを受け、僕らは嬉々として、舞踏会から辞した。
王妃や側妃の、じと目はスルーだ。
僕も舞踏会を経験したことで、兄弟の結束はまた一段と強くなったようだった。
そんな一日を終えた後は、アレックスと旅立ちの準備について話し合うことが増えた。
ゲームでの経験からすると、旅立ったからと言って、ここに二度と戻らないわけじゃなく、むしろ、宿代がかからないので、近場にいるときは極力城に帰って寝ていた。
お金もほとんどないから…最初の頃は装備もアイテムも所持金も貧相なのだ。
その理由もいざ旅立つとなれば、わかるだろう、ということで僕の胸にしまい、王家に伝わる魔法の地図だけは持たせて欲しい、という要望だけは正式に伝えておいた。
持ち物よりも、自分のスキルをどこまで増やしておけるか、能力を上げておけるか、といった話をする方が多かった。
結局、これまで通り、いつもの森にグレイや騎士さん達同行のうえで、最弱魔物を相手に戦う、を繰り返すだけだった。
ただ、途中からはグレイの馬に乗せてもらうのではなく、自分で馬に乗っていけるようになった。
夜の間に昼間よりもたくさんの魔物が湧くので、毎日通ったとしても、狩る魔物が絶えることがなく、そのことは暗澹たる気持ちを助長するだけだった。
この森で、数日おきに魔物を一掃していても、この遭遇率。もし誰も狩らなければ、魔物はどんどん増えて、街道にまであふれだすだろう…。
焦る気持ちもあったけど、どうしてもこだわりたいことがあった。
ゲームスタート時に勇者が使えた魔法、それが揃うまでは、旅立ちたくなかった。
この世界、ゲームの世界なんだよ、などとは言えないので、歯切れの悪い説明にならざるを得なかったけど、誰も無理強いはしないでいてくれた。
そして今日も、アレックスやグレイと森の中で魔物を狩っていると、何やら言い争っている声が聞こえてきて、三人で顔を見合わせ、声のする方に向かった。
何しろ、こんな、魔物の出る森だというのに、声は女性のものなのだ。
「ですから!どうか、どうか、このエミリーのお願いでございます、お嬢さま!」
「いやよ!だって、やっぱり試してみないと分からないのよ!誰も試させてくれないんですもの!」
木の陰から、言い争いながら現れたのは、恐ろしくこの場に不釣り合いなドレスを纏った少女だった。
…確か…公爵令嬢?
前に、僕をガン見してた…。
令嬢とメイドは、僕たちに気が付いたようだ。
途端に二人とも物凄く嬉しそうな顔をした。
そして。
「魔物を狩っていらっしゃるのですよね!どうか同行させてくださいませ!」
「どうかお嬢様を魔物から守り、屋敷に帰るまで護衛してくださいませ!」
と、二人同時に叫んだ。
僕とアレックスは唖然とし、グレイはぷっとふきだした。
「ちょっとまってくれないか。護衛というなら俺は今すでに、たった一人で……というより、お嬢さん方はまさかお二人だけでここまで?」
「もちろん違いますわ!冒険者を雇って、森の入り口まで護衛させましたの」
「でもその冒険者を森の入り口で解雇して帰してしまうなんて何をお考えですか!」
「だって、彼らがいると、先に魔物を倒してしまうでしょう?私がやってみたいのに。それじゃあ意味がないんですもの」
令嬢とメイドはその後も、
「帰りの護衛はどうなさるおつもりですか」
「エミリーは馬車で待っていてもいいのよ」
「屋敷のなかですらお嬢様をお一人にはしていないのにどうして森でお一人にできるものですか。百歩譲って、冒険者達にはお嬢さまの許しがでたら魔物を倒してよいというような約束させておけばよろしかったのです」
…などと、それはもう大騒ぎだ。
しばらく顔を見合わせてその様子を見守っていたけど、どう見てもメイドの言い分が正しいにも程がある。
グレイの袖を引っ張り、どうにかして、と訴えた。
グレイもため息を一つついて、了解、と呟いてくれた。




