33ハルト
行きとは違う道を通って戻っているので景色が違う。
一人だと迷うだろうな…と騎士さん達に遅れないように一生懸命ついて歩いていると、また魔物に出くわした。
また二体だ。
まだ少し距離があり、剣で攻撃するには遠い。
なんだよ、僕もう疲れてて、早く帰りたいのに…。
ちょっとイラっとした。
そしてイラっとした勢いで、この魔物には効果抜群の火属性の魔法を唱えた。
グレイ達が剣を抜いたときには、彼らの背後から僕の魔法が魔物に向かって放たれていて、一体は僕の魔法で一撃、もう一体はグレイとアレックスとで仕留めた。
「あ…」
戦略も何も相談せず、いきなりの魔法発動はよろしくないだろう。
ばつが悪くて、そっとグレイやアレックスの様子を伺う。
くるっと振り返ったグレイの顔は、いつもの顔で…これって微笑んでいるようだけど、表情から感情が読み取れないんだな…と、びくびくする。
アレックスは、魔法で仕留めた方の魔物を近くまで行って観察しているので、どう思っているのかわからない。
すたすた、とこっちに近寄ってきたグレイが、ニヤリとして、また頭をわしゃわしゃした。
「やるな。さっきまで、もうお母さんのおっぱいが恋しいような顔して歩いてたのにな」
む、っとする。子ども扱いにもほどがある。
…と、周りの騎士さん達に緊張が走ったのが分かった。
なんだ?とチラ見をすると、勇者殿に故郷を思わせることを言っては…と囁き合っている。
いや、お母さんの…とか、おそらく入団したての若い騎士見習い達にはよく投げかけられる言葉であろうことは、想像できる。
このいい慣れた感からもきっとそうだ。
そんな軽口ですらはばかられるほど…『母親』という単語から元の世界を恋しく思わせるのではないか、と、気を使われていたんだな、僕は、と軽い驚きを感じた。
…ここは、皆を心配させないために、軽口にはスマートに言い返しておかないと…かといって熟考して時間をとってもダメだ…。
と、とっさに出たのが。
「僕の母さんの胸はぺったんこで、恋しくなるほどのものじゃなかったですよ。いつか恋人ができるなら、恋しくなるような胸のある人にすることにします」
グレイは僕の頭に手を乗せたまま、一瞬目を丸くして…そして、「そうか、頑張って口説き落とせよ」と言って朗らかに笑った。
母さん、異世界で母さんの胸が貧乳だったこと、ばらしてごめんね…。
初めての森への遠出と、魔物狩りは、帰りにやっぱり寝落ちして、どうやら僕が想像した通りのことになったようだったけど…。
その後も森への遠出は何度も繰り返された。
3回目以降は帰りに寝落ちするようなことはなく、回を重ねるうちに、騎士さん二人に僕ら三人という形で出掛けるのが定番となった。
ついてきてくれる騎士さん達は、初回一緒に行った近衛騎士小隊のうちの誰かだ。
この小隊長が僕の召喚にも携わった人でもあり、僕が勇者であること、つまりは国家機密を知っている人物でもあるし、近衛の騎士は騎士の中でも特に機密を守り、その腕も確かな者だけがなれるものであり、そもそもの騎士の任務が貴人の護衛、すなわち王族などの護衛なのだから、僕らの護衛としてついてきてくれるのにうってつけだったのだ。
森につくと、魔物に馬がやられる可能性もあるので、騎士さん達には森の入り口で馬を見ていてもらい、僕ら三人で森の中に入って魔物を見つけ次第仕留めていく。
僕はまだだけど、グレイだけでなくアレックスも、一撃で倒せるようになっていた。
「やっぱり実戦に勝る訓練はないな…」
アレックスが剣に炎をまとわせて切りつけるスキルを身に着けたのをみて、グレイが頷いている。
アレックスがこの森での数回の訓練で強くなった実感がある、と言っていたのに対して、僕はまだ実感がない。
戦闘経験的には一緒のはずなのに不公平だ、とブツブツ言っていたら、ハルトは勇者だから何か違うんだろう、と慰められた。
それに、アレックスは火属性の魔法が得意なので、それに関連するスキルを早速身に着けたのに、僕は闇属性以外の魔法がすべて使えるので…使える魔法は試してみるものの、どれもこれもぱっとしない。
それに、適性があるはずなのに、まだひとつも魔法を覚えられていない、という属性もあった。
「来週は僕の成人の儀があるから、万が一にでも怪我をしたら困るので、森にはしばらく来られないって言ってたよね。…僕、こんなんで大丈夫なのかな…」
記憶にあるゲーム開始時の勇者の能力にまだ至っていないことに、やりきれない気持ちになる。
「大丈夫だっていつも言ってるじゃないか。ハルトは紛れもなく勇者なんだから、もっと自信をもて」
ばん、とグレイに背中を叩かれて、思わずつんのめる。
「アレックスは僕と一緒に来てくれるって言ってくれたから、心強いけど…」
ちら、とグレイの様子を伺う。
前に、グレイとアレックスさえいれば僕は要らないんじゃないか、って思っちゃったとき、グレイに一緒に旅立って、とお願いすればいいじゃないか、と思ったことを思いだす。
ゲームでも実際仲間になってくれた。
でも、それは、スタート時からではないのだ。
かなり経ってからじゃないと仲間にはならない。
グレイも…と出かかった言葉をぐっと飲みこむ。
全ての騎士を統べる騎士団長は、本当はこんなところで僕らと森に居られるほどの、暇なんかないはずなんだ。
ここは、記憶のゲームの通り、まずはアレックスと二人でスタートしよう。
その後、仲間を増やしていこう。
ゲーム通りのイベントが発生するのか、わからないけど…少なくとも仲間になる可能性のある人物かどうか、僕は、出会えばわかる。
わかるのは全員ではないけど、前半でいつも仲間にしていた人たちは、仲間にするのを失敗したりするような難しいイベントは必要なかった。
そう納得して、僕は序盤で仲間になる予定の人物たちのことを、とりたてて事前に調べたりしようとしなかった。
そのことを僕は後に後悔することになる。




