32ハルト
「二人とも落ち着いているね…僕、本物の魔物を見るのが初めてで、何もできなかったよ…」
「ん?俺は初めて見たぞ」
「俺も」
「え?そうなの?」
二人とも魔物に遭遇するのは初めて?
それで、この落ち着きよう…?。
僕も勇者なんだから、しっかりしなくちゃな…。
ちょっと焦る。
ふと、アレックスがじーっと見つめてくるので、何?そんなに焦ってるのがおかしい?と見返した。
「大丈夫だ。今まで言ってなかったけど、ハルトが旅立つとき、誰が何といおうとも、俺が一緒に行く。それで、俺がお前を守ってやる。絶対に守るから安心しろ」
「………………は?」
何?
何でしょう、そういうのってお姫様とかに対して言うやつじゃないの?
ぼんっと音を立てそうなくらいの勢いで、顔が赤くなったのがわかった。
「いや、僕は女の子じゃないし!守るって、まも…」
グレイが慌てる僕を見てニヤニヤしている。
「今日は慣れてきたら、訓練の成果を出してもらう。ちなみにアレックスは言葉が足りないだけで、愛の告白じゃなくて、ハルトが強くなるまでは、ケガをしたりそれこそ死んでしまったりしないように、一緒に戦いますよ、という意味…だよな?アレックスがそっち系だったら言葉通りの愛の…」
「ち、違う!俺が絶対に守るけど、いや、その、ハルト一人でなんて戦えないだろう?過去の勇者も何人も仲間がいたはずだし…何かあったらどうすんだよ、まだこんなに体も小さいってのに…いや、とにかく、俺はいつかは可愛い嫁を貰うんだから、その、ハルトが好きって訳じゃなくて、あ、いや、好きだぞ?うん、その、兄弟っていうか、仲間っていうか、同志っていうか…」
真っ赤になってしどろもどろになるアレックスに思わず笑ってしまった。
「ありがとう。すごく心強いよ。僕は、一人じゃないんだね…」
クスクス笑いながら、目に涙が浮かんだのは笑い過ぎのせいにした。
魔物だった塊を、布袋に入れて騎士さんの一人が担いでさらに先に進む。城に持ち帰り、研究にまわすんだそうで。
「俺の配属は、ずっと近衛だったから、辺境で魔物出没が頻発してきても、討伐には出向かなくて。騎士団長になったらますます王都を離れられなくなってきて、計画と指示と、軍などの関係各所との調整ばかり。危険な任務に部下たちばかり向かわせていたが、やっと現場に来られたよ。これも殿下達のお陰だなあ、ははは」
グレイが楽しそうに笑っている。
「それにずっと城に閉じこもっていると、だんだんイライラするようになるんだ。たまに遠乗りで発散していたけど、今日は実地訓練にできるとはなぁ」
「師匠も俺も、たまには城や町から離れて自然に囲まれないとダメなタイプみたいで。この森は子どものころ何度か来たもんだよ…そういう意味ではこんな近くの森にまで魔物が、という驚きはあるなぁ」
「っと、また出たか」
今度はさっきと同じ魔物が二体だ。
落ち着け、と自分に言い聞かせて、グレイとアレックスに続いて、僕も魔物に切りつけた。
今まで、素振りと、木刀での打ち合いしか経験が無かった。
硬い手応えに、剣を落とさないようしっかり握って剣を引く。
アレックスですら一撃で倒せないのだから、やはり倒せない。
騎士さん達もさらに切りつけて、ようやく二体とも倒すことができた。
剣を握っていた手がじんじんする。
初めて刃を本当に使った…。
異形のモノに間近まで近づいたこと、初めての戦闘…興奮と緊張からか、手が震え出した。
「うん、よくやったな」
グレイが頭をなでてくれたら、不思議と手の震えがす、っとひいた。
悔しいけど、僕は本当にまだまだ子どもなんだろう。
その後は魔物に出くわすこともなく、別行動だった騎士さん達と落ち合う予定場所についた。
木こりや狩人たちの休憩所として使われている小屋だ。
中に全員入るには狭いので、グレイや隊長さんなど数人が中で何やら話し合っていて、僕とアレックスは拾ってきた小枝に魔法で火をつけて、お湯を沸かすのにチャレンジしていた。
ここで昼食もとるのだ。
騎士さん達のお手伝いもあって、なんとかお茶を淹れられ、数人の騎士さん達が手分けして持ってきた昼食をとる。
あの重装備でさらに人数分のお弁当まで持って歩いてたなんて、そうとう重かったろうに…騎士さん達は平気な顔をしている。
自分は、馬に乗ってここまで来て、森を数時間歩いただけなのに、もう疲れている。
皮の防具に初心者向けの軽めの剣しか持っていないのに…。
これは、実際に旅立つとかなり苦労しそうだ。
色々考えながらサンドイッチを食べていると、小屋からグレイたちが出てきて、僕らの前に地図を広げてくれた。
隣のアレックスと一緒に覗き込む。
「この、赤い印のあるところが、過去のドラゴン発生のときにこの森で魔物が湧く場所として記録のあるところだ。今後、ドラゴン討伐が遅くなると、印のところは瘴気が漂うのが目視できるほどになるのだそうだ。で、今日魔物と遭遇した場所はここだ。黒い×のところな。今日のところはまだ魔物も少ないようで遭遇率も低い。まあ、予想通りで良かったな、なんだけど。というわけで、今日の調査はおしまい。帰りに魔物に出くわしたら当然倒すが、初回としてはこんなもんだろ。なにしろ遠乗りだけのはずだったからなー。ハルトとしても成果はあっただろう?」
ニヤリとされて、髪の毛をわしゃわしゃとかきまぜられた。
「もう、なにすんだよ」
髪の毛を押さえて直している間に、「腹減ったー、俺の分くれー」とグレイは騎士さん達の輪の中に入ってしまった。
「アレク、このあと森を出るまでまた歩いて、また馬に乗るんだよね…僕、自信ないかも…」
「大丈夫じゃないか?帰りの馬で疲れて寝てしまってもグレイがちゃんと抱えて帰ってくれると思うし」
…ポンチョのフードを目深に被り、誰ともわからない小柄な人物が、騎士団長にもたれて、抱えられながら城下町を行く姿を想像してみる。
町の人々が想像をたくましくする姿が目に浮かぶ…ダメだ、それはダメだ…僕は女の子じゃないんだから、断固として抱えられてはならない。
「とりあえず、全力で頑張るよ…」
昼食をとり終え、片付けも済んだところで、また二班に分かれて、森の入り口まで戻り始めた。




