30ハルト
「おう、来たか。昨日の今日でこんなに情勢が変わると思っていなかったんだが…」
グレイが愛馬の鞍が緩んでいないか確認しながら、声をかけてきた。
朝食後、一旦自室に戻り、いつものように座学を受ける部屋に移動しようとしたら、アレックスが来て「今日は特別訓練だそうだ」と、行ったことのない部屋に連れていかれた。
そこには見覚えのある装備が置かれていた。
それらを身に着けると、鏡の中の自分はすっかりゲームスタート時の姿だった。
そして、アレックスも、ゲームのパッケージのグラフィック通りだった。
急にアレックスに対しての親近感がグッとあがる。
「特別訓練って何をするの?」
ゲームでの見た目通りだ!というアレックスに対する内心の興奮を抑えつつ、訊いてみた。
「うーん?師匠にきいてくれ、俺も良く知らないんだ」
アレックスは装備を身につけても、特にテンションが上がるということは無いらしい。
それでも歩きながら、これって皮の胸当てだよね、とか装備について話し合いながら、待ち合わせ場所だという厩舎についたところだった。
グレイの他にも、十人の騎士達がいて、重そうな装備に身を包んでいる。
彼らは半数が馬に騎乗し、残りは馬車に乗り込んだ。
どうしたらいいのか分からず、きょろきょろしていると、アレックスも自分の馬を出してきている。
僕は馬を持っていない。乗馬の訓練はしたことあるけど…。
「こっちだ」
僕は馬車に乗るのかな?と思った瞬間に、ぐい、と手を引かれ、胸に腕を巻かれたと思ったら、ひょい、とグレイの馬に引っ張り上げられ、乗せられていた。
二人乗りをするらしい。
「うん、可愛い女の子としか二人乗りはしたことなかったが、ハルトは小さいから、女の子との二人乗りとそう変わらないな」
思わずむっとする。
向こうの世界で最後に身長を測ったときは、まだ160センチしかなかった。こっちに来て伸びているはずだけど、今どのくらいなんだろう…。
グレイはおそらく190センチくらいはあるはずだ。立っていると頭一つ違うし、こうして二人乗りしていても、僕が視界の邪魔にはならないようだった。
僕だって、そのうち大きくなるんだ!みてろよ!
…そんなことを考えているうちに、出発の準備が整ったようだ。
「さて、と。今日まず第一の課題は、遠乗りの体験だ。自分で操っていないにしても、馬での長距離移動の体験をしてもらう。というか俺たちにしてみたらかなりの近場なんだが、初めてだから遠く感じられるだろう。そして第二の課題、夕べ目撃された魔物出没現場の調査への同行。本当は、第一の課題だけのはずだったんだが、今日はどちらかというと第二の課題がメインだ。これには、魔物と遭遇した場合の戦闘も含まれる」
「えっ?」
「大丈夫だ、誰も一人で立ち向かえとは言わんから安心しろ。…大丈夫か?よし。出発!」
僕の戸惑いは無視して、後半は、騎士さん達のリーダーらしき人に向かって、さわやかに号令をかける。
アレックスは慣れた様子で騎乗した騎士さん達と並んで馬を進めている。
グレイの馬は堂々と先頭を行く。
「慣れていないと舌をかむから、何か言いたいことがあるときは腕を叩いて合図しろ」
ちょっと文句の一つも、と思ったところでそう言われると黙るしかない。
そして、頭からフード付きのポンチョを被せられた。
城から出たら、珍しい黒髪で、僕は注目を集めるだろうし、その僕が子どもみたいに二人乗りしてるだなんて分からないように、の配慮だろう。
グレイの大きな体の前に座り、体の両サイドではたくましいグレイの腕が囲うように手綱をにぎっていて、ある意味安心感はあるものの、本当に小さな子どもになってしまった気分だ。
でも鞍の前のでっぱりをつかんでバランスをとりながら、馬に揺られているうちに、子どもみたいだ、という不満はかなり早々にどうでも良くなった。
疲れる…。
町を出て、草原の中を進み始めると、もう疲れてしまった。
自分で操っていなくても、こんなに疲れるものなのか。
そこそこのスピードが出ていることも原因の一つだろう。
乗馬の練習をしたときは、こんなスピードをだしても、すぐ練習場の端に行きつくので、ゆっくりに戻らざるを得なかった。
そういう意味では、真に乗馬を経験したとはいえなかったのだ、と思い知った。
ゲームでも、街道の通っている地域では、馬をレンタルして移動したし、乗馬スキルは必須だ。
僕があと二カ月位で旅立つということが、グレイの耳にも入ったのだろう。
きっと、より実践を経験させようとしてくれているのだ。
ありがたい。いい師匠だ。
ひたすらに耐えて、辛くなってきたころ、目の前に森が迫ってきた。
森の手前の、木立がまばらな一角に馬車も馬も停め、馬たちを木につないだ。
馬から降りても、まだ揺れているみたいだし、お尻はひりひりする。
顔をしかめてお尻をさすっていたら、アレックスがニヤニヤして、僕のお尻をなでた。
「ぎゃあ!なにすんだよ」
思わず叫んでアレックスを睨む。
「ハルトのケツはまだ柔らかいな、ケツの筋肉の鍛えが足りないんだよ」
そう言って、アレックスが自分のお尻を触らせてくれた。確かに硬い。
自分とアレックスのお尻を交互に撫でて違いを確かめていると、部下たちに指示を出し終えたらしいグレイが、「何だ楽しそうだな」と僕とアレックスのお尻を撫でた。
「「やめろ」」
僕達がやいのやいのと抗議をしたりで騒いでいると、「楽しそうですね」と騎士さん達にまで寄って来られてしまった。
ええと、BL展開はありません、念のため。




