24ハルト
気が重かろうが、そのときはやってきて。
最近ようやく慣れた、きっちりとした王子らしい服に身を包み、義理の兄達とお茶会の会場に向かう。
今日は5人の令嬢が招待されているらしい。
僕の本格的な社交界デビュー前の練習といったところなので、かなり厳選された結果の5名ということだ。
今日は恐怖を感じる可能性は低いから安心しろ、と義兄達が口をそろえていうのだから間違いない。
今が盛りと咲き誇る花たちを眺められる場所に設けられた、お茶会の会場に着いてみると、令嬢達と王妃が既に席についていて、僕達の到着で、堅苦しい挨拶が始まった。
花のように華やかなドレスを身にまとった女の子達が、頭を垂れ、王妃に紹介されると挨拶をして顔を上げる。
最初に挨拶をして顔を上げた子が一番幼いけど、身分は公爵家で一番上のようだ。
僕達…いや、僕をみて、驚いている。
まあ、僕だけ明らかに人種も違うし…今後公式の場に出たときは、今みたいに驚かれることを覚悟するようにしよう。
令嬢達の挨拶が終わって、僕達が紹介され、順に席に着く。
長いテーブルに端に王妃が、その近い席から第一王子、第二王子…となっていて、キースの向かいに公爵令嬢、以下身分に応じて、という席次だ。
さっき驚いていた公爵家の女の子は、ずっとまん丸にした目で僕のことを見ていて、確かにこれは…ちょっとだけ怖い。
怖くてそっちを見ることができない。
でも我慢できなくなってちらっと見ると、やっぱり見てる。
どうしよう、ずっと見てる…。
でも、心なしか顔色を悪くしているようにも見える。
僕みたいな髪や目の色に対して差別的な気持ちがある可能性もあるな…。
居心地が悪くて、目の前のお茶をすすって、隣のクリスにそっときいてみる。
「あの公爵令嬢にずっと見られてる気がする…」
「気にするなって。ハルトのこと珍しいだけでしょ。何しろ一般には初お目見えだから」
「僕の見た目で差別されてたりしない?」
「差別?ないよ、そんなこと」
ひそひそ二人で話をしていたら、目の前に座っていた伯爵令嬢に話しかけられた。
似たような年頃の女の子と話をするのは久しぶりだ。
中学や高校では性別関係なくフランクに話をするタイプだったので女の子と話をするのは苦手ではない。
苦手では、ない、はずだった。
だったのに…。
…なんだろう…ちょっと辛い。
会話がかみ合っていない。
向こうが質問してきたからそれに答えて、会話のキャッチボールになるようにこちらからも軽い質問も返したのに、次は質問やその答えとは全く関係のない、自分のドレスがいかに今日のために念入りに用意されたものか、の話になったのだ。
さっきの僕の質問どこいった。
聞いているうちに、ああ、とてもよくお似合いです、とか言って欲しいんだな、と気が付いた。
それで、そう言ってみたら、頬を赤らめて、さらに普段から髪の手入れも肌の手入れも怠らず、いかに自分を美しく保つことに尽力しているかを語られた。
…なんだろう?…そうか、服じゃなくて本人のことをお綺麗ですね、と褒めよ、ということか…。
げんなりしてチラリとクリスを見ると、クリスにも向かいの令嬢の話は当然聞こえているので苦笑いをしている。
正直、可愛さだけでいえばクリスに負けているし、美人ぶりもジュリアスに負けている。
これは言わないでおいた方が良さそうだ、と判断して適当な相槌をうってお菓子を食べることにする。
他の面々はどうしているか、注意を向けると、公爵令嬢は王妃とキースと三人で楽しそうに何か談笑している。
まん丸な目でガン見してきた顔と雰囲気が違ったので、今度はこっちからチラ見していたら、何だか…知っている女の子なような気がしてしまった。
でもこの世界で会ったことある人間なんて限られている。
気のせいだな、と思っていたら、目が合った。
あからさまにびくっとして、はっきり目をそらし、わざとらしく王妃に話しかけている。
どうやらあの子と王妃は仲が良いようだ。
王妃の態度が他の令嬢とは違っている。
キースも柔らかい笑顔を向けている。
アレックスが加わり、何か話しかけて笑わせている。
気が付くとジュリアスが一人で残り四人の令嬢の話し相手をしてくれていて、なんという会話スキルだ、と尊敬をした。
全員にそつなく、話題を振り、適度に距離感を置く。
女の子たちは邪険にされたという記憶にはならず、王子様との会話を楽しんだ、という感覚で帰宅するだろう。
思わずそのやり取りを観察してしまった。
といっても自分にできるようになるとは思えないけど。
ジュリアスにばかり負担かけて申し訳ないという気持ちになっていたら、王妃の一声で、女の子達を残して、僕らはさっさと戻っていいことになった。
ありがたい!という気持ちから自然と満面の笑みを浮かべて、令嬢達にご挨拶をして、一目散に退出した。
「ふあ、苦しかった…ジュリーにばっかり押し付けてごめん!とっても心苦しかったけど、どうしようもなかった」
こっちの声が聞こえないところまで離れたところで、歩きながら早速謝ると、ジュリアスがふん、と鼻をならした。
「いつものことだよ。ああいう場を取り繕うのはいつも僕なんだ」
「今日初めてマリア嬢と話をしたけど…すごく話やすくて。未成年なのに、既にすごい才女だよ。こないだ出た話題の詩集の一部を引用した冗談を言ったりしてね…母上達が何年も前からお気に入りでしょっちゅう呼びつけてお茶をしていたのは知っていたけど、納得だな。つい私もどんな話題にもついてくる彼女との話に夢中になってしまった」
キースが珍しく興奮気味だ。
「うん、そうだな、途中から俺もつい話に参加してしまったけど、話をしていて面白い、と思った令嬢は初めてだな」
アレックスも確かに楽しそうに話をしていた。
「マリア嬢か…相変わらず可愛かった…」
ジュリアスがふっとその表情を緩める。
「ジュリーは初めてあの子を見た時からお気に入りだよね。今日はほとんど話もできなくて残念だったね」
クリスがからかうようにジュリアスを見る。
あの公爵令嬢、マリアって名前だったか…ちゃんと聞いてなかった。
でもどこかで聞いたことがあるような?
でもまぁ日本人にもある名前だし、気のせいか。




