19ハルト
本当の誕生日にはお祝いをしてもらったし、なんのこだわりもなかったけど、ゲームでの『旅立つのは十六歳』という設定は、自分の本当の年齢とは関係ないということだ、と気が付いた。
国としての僕の十六歳の誕生日が遅くて、実際の年齢は十七歳になっているかも知れない。
だとしても、僕が旅立たねばならないことは決定事項だ。
対外的な誕生日がいつになりそうか、旅立ちの日はどうやって決めるのか、今度キースに訊いてみよう、そう思いながら剣を素振りしていたある日、隣で大剣を素振りしていたアレックスがため息をついた。
大剣というのは自身の身長に近い長さの幅広の剣で、両手で構えて、普段は背中に背負う形になる。
僕は、大剣を構えるどころかまだ背負うだけでも精一杯、というクソ重たい剣なので、それを軽々と素振りしながらため息なんてつけるアレックスを、ついバケモノを見るような目で見てしまう。
ちなみに僕が素振りに使っているのは普通の片手剣で、しかも初心者用の…もしかすると、子ども用の、小ぶりのものだ。
反対の手には盾を持つことになるので、片手で扱えるようにそんなに重くはないことになっているけど、振り回すには充分に重かった。
なので、まずは振り回すための筋力をつけているというレベルだ。
「どうしたの?アレクがため息なんて、お腹を壊していて晩餐が一人で別メニューだったときしか記憶にないけど」
「あー、そういやハルトにはこの後話すって言ってたっけな」
「何を?」
「茶会があって。俺ら全員、それに出なくちゃならないんだよ」
「あ、そういえば、僕のマナーの先生がお茶会はもう大丈夫、って言ってくれたんだった」
「多分そのせいだろうなー茶会なのは。まあ晩餐会でなくて良かったんだけど。舞踏会でなくてもっと良かったんだけど」
「お茶会がそんなに嫌なの?」
「ああ。ハルトのお陰でここ何か月か無かっただけで。茶会やなんかの名をかぶった見合いだよ」
「ええっ??お見合い?」
「そう、俺らのかーさん達がな、いい歳した王子が揃いも揃って婚約者も決めないとは!と最近折に触れて仕掛けてくるんだ」
「仕掛けて、って罠じゃあるまいし…」
半笑いで言った僕にアレックスは暗ーい顔で、「いや、罠だ」、とぽつりと言った。
その尋常ならざる様子に、僕も真顔になって素振りを続けていると、僕らの指導者が様子を見に来た。
「ハルトだけじゃなくアレックスも真面目にやっているようだな」
「なんで俺はまじめにやらない前提なんですか」
アレックスが口を尖らせながら大剣を振る。
ひゅっと空気を切り裂く音がする。
大剣で、普通の片手剣でのような空気を裂く音を立てられるなんてやっぱりおかしい。
横目でアレックスを眺めていると、僕らの指導者であるグレイから頭のてっぺんにゲンコツをもらった。
「よそ見して、注意力散漫で振るくらいなら回数減らしてもいいから集中しなさい」
あまりの痛みに思わず剣を取り落としてしゃがみ込み、涙目で頭を両手で抱えてさする。
「グレイ師匠の鉄拳ってなんであんなに痛いのか謎だよな」
アレックスもさんざんくらったことがあるようで、わかるぜ、という顔で頷いている。
ていうか、王子とか勇者とか身分気にしないんだなこの人…。
実際に接していないと分からないことはたくさんある。
僕の剣などの指導者は、ちょっと前から騎士団長のグレイになった。
アレックスが僕と一緒に鍛錬することが増え、アレックスの指導をしているグレイが一緒にみてくれるようになった、という流れだ。
ゲームの中で、仲間にすることができるグレイと早々に知り合えて、やはりゲームの世界なんだな、と実感をした。
グレイの見た目も、ゲームでの設定通りの美青年だ。
なにしろアレックスと一緒にパッケージに顔が出ている。
青みがかった癖のある髪を短く切りそろえ、銀色の瞳をしていて、ゲームではおかしくなかったけど現実に目の前にいると不思議な色だ、とつい見てしまう。
二十代後半なのに騎士団長に上り詰められる家柄と実力の持ち主で、見た目も性格も良く、ゲームでは人気があり、ファンのサイトでも絶対に仲間にしたいキャラとして不動の一位を誇っていた。
アレックスは有無を言わさずゲームスタート時から必ず仲間なので、ドラゴン討伐最小催行人数がここに揃っている感じだ。
アレックスは言わばパワータイプの魔法剣士で、魔法も攻撃型ばかりなのに対し、グレイはパワータイプの武器も扱えるのに俊敏さがあり、攻撃魔法のみならず補助魔法も回復魔法も使えるという、オールマイティだ。
勇者にしか扱えない装備や魔法がなければ、グレイが主人公でもおかしくない位にバランスが良いキャラクターで、パーティーにグレイがいるだけで、冒険はぐんと進めやすくなるのだった。
「上着を脱いでみせて?」
グレイいわく、変な剣の振り方をしていると、関節や腱を痛めるし、筋肉も無駄なところについてしまい、体が重くなるのだとか。
それに僕は年齢の割に成熟が遅いので…いや、僕の人種的には普通ですけど、と言ってみたけど無駄だった…体が出来上がる前に無理な鍛錬をするのは良くないらしい。
骨や筋肉の発達を確認しながら訓練の強度も決めるし、剣を振るところを、服を脱いだ状態で見せることで、グレイには体の使い方が間違えていないかわかるらしい。
怒られたばかりなので真面目な顔をして上半身を脱いで素振りをして見せる。
「うん…」
両手持ち、片手での各方向への振り下ろし、振り上げ、薙ぎ払い…教わったことを思いだしながら丁寧にやったからか、満足そうに目を細めてくれた。
大柄でがっしりとしつつも無駄な肉はなく、すらりとした印象すら持たせる騎士団長様のさわやかな笑顔は、異性でなくても魅入られる。
登場キャラクターがどんどん増えます…。




