18ハルト
毎日が目まぐるしい。
この世界に来てからは、一日一日がおどろきの濃密さだ。
一日の中で、ぼーっとできる時間なんてほとんどない。
城には、王と王妃や側妃が生活する宮とは別棟で、僕らの暮らす王子宮があり、僕を含めた五人は基本的に生活を共にしている。
ちなみに、王子宮の隣には、今はいないから使ってないらしい王女宮があった。
王子宮での生活には、もうそれなりに慣れてきた。
朝起きて、まず朝食を王子達と一緒の大きなテーブルでとる。
最初はキラキラしい王子達に目がやられるかと思ったし、そんな彼らと食事をすることに気後れしかなかったけど、一番歳が近い第四王子のクリスがずっと話しかけてくるので、数日で緊張はしなくなった。
どんなに美しくても、中身は普通の人間、だったのだ。
クリスは朝食もそっちのけでずっと話しかけてくるせいで、皆が食べ終わっても一人だけ全然食べてないことが続いて、長男のカミナリが落ち、今は五人で共通の話題で話すようになった。
ゲームでは基本的にアレックスとしか行動を共にしていなかったので…何しろオープニングの次はもう旅立ちだったのだから仕方ないのだけど…残りの三人のことはそれほど詳しくはなかったのに、たくさんのことを知ることになった。
その中で驚きだったのは、第一王子のキースと第三王子のジュリアスが王妃の子で、第二王子のアレックスと第四王子のクリスが側妃の子であり、その王妃と側妃は幼馴染なのでとても仲が良く、四人の王子は母親が二人いる感覚だと笑っていたことだ。
父親の他に母親が二人いて、実の兄弟も四人、しかも男なのにこの仲の良さ。
天涯孤独の身には目眩のするような羨ましさだ。
そして一夫多妻なんて物語の中でしか聞いたことはなく、そういうもののなかでは、一夫多妻の妻たちはみんな仲が悪かったような気がするんだけど、…仲がいいということもあるんだ…と感心してしまった。
王は一人っ子で、王に万が一のことがあった時の為に早くたくさんの子を為す必要があり、そのために二人の妻を娶ったのだとか。
だから兄弟の多いキース達は、妻は一人になるだろう、とのことだった。
朝食後は座学でこの国についてありとあらゆることについて詰め込まれる。
昼食はタイミングの合う王子たちの誰かと一緒にとり、午後は貴族としてダンスの練習をするか、体力づくりと称する筋トレと走り込みだ。
夕食…王宮なので晩餐なのだが、これも基本的には王子達揃って食べる。
朝食同様に、和気あいあいと、それはもうお腹いっぱいに食べさせられる。
どちらかと言うと少食な方なので、最初は苦しかったけど、出されたものを残してはいけないという母さんの教えがちらついて、頑張って食べた。
そのうちアレックスが僕の食べる量を監視していることに気がついた。
それとなく確認してみると、剣を持って戦うには今の僕の体では無理、とにかく体を大きくしなくてはならない、とのことで、「食べることも訓練だぞ」とニヤリとされた。
僕の皿の肉や魚の量が多いように見えたのは気のせいではなかった。
晩餐の後は自室に下がり、入浴を済ませると、すぐに眠くなってしまい、ベッドにもぐりこむのが常だった。
一人でゆっくり思い悩むような時間がないのは、いいことなのか悪いことなのか。
あちらの世界でも、もう決して戻ることのできない生活というものがあることを経験していた後だったので、割り切りも早かったのだろうし、無意識に、元の世界のことを考えずに済むように、目の前のことに没頭していたのかもしれない。
言葉が日本語としか思えない…異世界召喚のなせるわざで、勝手に翻訳されて聞こえるだけなのかもしれないけど、とにかく聞き取れるし話せたのに対して、文字は元の世界には無かった文字だったので、読み書きを習得するまで、数か月かけてしまった。
日本語を話しているのに、文字だけ外国語、というように感じるので少々混乱したのだ。
その代り、読み書きに苦労しなくなってからは、座学での学習の速度も一気に上がったし、夜に寝落ちするまでベッドで本も読むようになった。
そして…気が付くと、こちらの世界に来て半年以上が経っていて、十六歳になっていた。
こちらの世界での暦や時間は、元の世界と同じなのはありがたかった。空には月もあったし。
十六歳はこちらの世界での成人にあたり、僕の本当の誕生日は義理の家族たちが祝ってくれた。
王子だけではなく、住んでいる宮が違うのでめったにお目にかかることもない、王や、王妃、側妃までもが同じテーブルについて、楽しく会話しながらいつもより豪華な晩餐を食べた。
そして、たくさんのプレゼントを貰った。
なんだろう…僕が勇者だから、みんな好意的なのかな…だとしても、表面だけだとしても、家族として祝ってくれているのが嬉しい…。
僕のお誕生日につきものの、父さんのお墓参りに行けなかったのが残念だ。
そんな感慨でもって、本当の誕生日は既に迎えたのだけど、王族が成人となる十六歳の誕生日というのは本当は大変なものらしい。
各種セレモニー…国民へのお披露目のパレードとか、バルコニーから手を振る、とか、友好国の王族や国内の主要貴族を招いての夜会、とか…があるらしい。
そういうものは数か月前から準備をしなくてはならないことらしく、さらに僕自身の立ち居振る舞いがまだ王族としての域に達していなかったので、国の行事としての僕の誕生日はまだ来ていなかった。
というか、そのイベントをした日に僕はこの世界で十六歳になることになる。
人種の違いが大きいのか、僕はどうしても幼く見えるらしく、そういう意味でも遅い方が都合がいいらしかった。




