16ハルト
ゲームの中では、召喚されるときの年齢は不明だったけど、主人公は召喚されてからしばらくは、この世界に慣れるためと、剣の基礎を身に着けるために、城で暮らしていた設定になっていた。
そしてゲームスタート時、勇者は十六歳だったはずだ。
あと数か月は十五歳なので、しばらくここで過ごすのはおそらく確定だろう。
そして、剣の相手をしてくれるうちに意気投合した、という第二王子のアレックスが最初から仲間として旅立ってくれる。
きっとアレックスとは気が合うはずだ。
昨日は王との謁見はしたものの、王子達とは会えていなかった。
今から彼らに会うのだ。
緊張する。
何かしくじったら、ゲーム開始時点で仲間のはずのアレックスが、仲間にならないことだってあり得るかもしれない。
それにこの城にはもう一人仲間にしたい人物がいる。
騎士団長のグレイだ。
きっと近日中には顔を合わせるだろうけど、焦りは禁物だ。
ちなみにパッケージに描かれていた三人のうちの二人がこのアレックスとグレイだ。
僕付きだという侍従に連れられていった部屋は…第一王子の部屋だった。
何しろこのあたりの城の間取りは完璧に覚えている。
勝手なイメージでは広間か何かに王子達が揃っていて、そこに自分が入っていって自己紹介、と思っていたけど、考えてみたら僕のため程度でみんなが集まるのが普通の訳ないか。
一人一人訪ねていくんだな。
そう納得して、入る許可の声に、ドアを開けた侍従の後ろについて入ると…。
いた。
四人とも。
ゲームでのビジュアルほぼそのままで。
金色のストレートの髪をあごのラインで切りそろえた青い目をした青年が第一王子のキース。
銀色のストレートの髪を背中の中ほどまで伸ばしている、緑色の目をしたガタイのいい青年がアレックス。
ゲームでは一緒に旅立ってくれる第二王子だ。
金色のストレートの髪をアレックス同様長く伸ばしているけど、三つ編みにしている、青い目で眼鏡をかけているのが第三王子のジュリアス。
そして、金髪のくせ毛を短く切りそろえ、緑色の目をした小柄な少年が第四王子クリス。
立ち上がって出迎えてくれた四人は、ゲームで見る分にはなんとも思わなかったけど、生で見ると圧倒される。
美しいというかなんというのか、それぞれタイプがちょっとずつ違うイケメンが四人もいると、男の自分でもたじろぐ。
なんだろう、このキラキラしたオーラは…。
昨日の王様も王の威厳とでもいうのか、ものすごい存在感で圧倒されたけど、王子達もすごい。
まぶしい、直視できない!
とりあえず夕べ王に会う前に習った礼でもしとくか。
挙動不審に陥った僕に、第一王子が声をかけてくれた。
「まずは、座って」
キースは部屋の主らしく応接セットで僕の向かい側に座って、お茶をすすめてくれ、四人の兄弟を順に紹介してくれた。
第二王子のアレックスは第一王子キースの座るソファの後ろに立っているし、第三王子ジュリアスは、僕の斜めの位置の一人掛けソファに座っている。そして末っ子の第四王子クリス…それでも僕より年上…は長男の隣にちょこん、と座っている。女の子みたいだ。
四人を代表しているのか、長男のキースばかりが話しかけてくる。
他の三人からは値踏みするような視線を感じるだけだ。
「異世界からきました、高橋悠人です。悠人が名前で、高橋が姓…ファミリーネームです」
「ハルト…いい名前だね」
父さんが、僕が生まれる前、死んでしまう前に考えておいてくれた名前。
僕へ、僕が分かる形としては唯一残してくれたものだ。
大切にしている名前を褒められるのは悪い気はしない。
「急に異世界に連れてこられて、怒ってはいないのかな?」
急に訊かれてきょとん、としてしまった。
「あぁ、えーと…怒る?…怒るという感情は…まだ?…ない、です…今は驚きとショックばかりで。あっ、あの、偉い方々との口のききかたが分かっていないので…失礼になっていたらすみません」
大急ぎで頭を下げた。
王族に対する礼儀作法なんて、知っているわけがないのだけど、郷に入っては郷に従え。
うっかり、えーと、なんて言ってしまった。
失礼な奴だと思われたら大変だ。
やっと召喚に成功したらしいから、苦労して手に入れた異世界人の首を、そう簡単にはねる、なんてしないとは思うけど。
「ははっ、心配性だね?まあ仕方ないか。昨日は夜も遅かったし、事情もあって、陛下と一部の重臣たちだけが君を出迎えたんだ。今日はこの後、簡単な事情の説明を聞いてもらって、それからたくさんの人に紹介されるけど、君は君のままで大丈夫だよ。誰も君を不敬罪に問うことはしないさ。勇者様だからね。私たちの方が君に礼を尽くす立場なんだよ。実は君はこの国においては、立場的には国王陛下に次ぐ権力がある。身一つでこの世界に来させられて、もう帰ることはできない者に対して、せめてもの償いだ」
…今、さらっとすごいことをいくつか言われた。
やっぱりもう元の世界には帰れないのか。
もしかしたらそうかな?とは思っていたけど。
でも、自分でもびっくりする位、そのことに関してショックはなかった。
元の世界にどうしても帰りたい理由がないからかもしれない。
ちょうど、自分の属していた世界である日本から、見知らぬ世界ともいえる留学先への移動途中でもあったし…。




