15ハルト
中学生のときに友人に勧められた剣と魔法のRPG。
そこそこ人気があって、テレビでCMも流れていた。
貧乏だった僕らだったけど、母さんがクリスマスにゲーム機とゲームソフトを買ってくれた。ゲームソフトはお誕生日の分の前渡しだったけど。
さらっとクリアすることもできるし、やりこむこともできるのが人気の理由のひとつだった。
フィールドを歩いていて魔物に遭遇すると、ウインドウが開き、コマンドを選択して剣で攻撃か魔法で攻撃か…等と行動を選ぶターン制を採用していて、戦闘中にじっくり悩むこともできるし、万が一ゲーム中に寝落ちしても、目覚めたら全滅していた、なんてことは起こらない。
たとえ戦闘中に放置していても、こちらが次の行動を入力するまではそのまま、なのだ。
なので、ボス戦の最中に親に「ごはんよー」とか、「お風呂入ってー」とか言われても、「今ムリー」なんて返事をして、親を怒らせることがなくて済むのだ。
その、いつでもゲームを中断できるところも母さんとの時間を大事にしたかった僕に向いていて、結構遊んだ。
プレイヤーは、主人公…つまり今の僕の立ち位置となるのか…異世界から召喚された勇者でプレイすることになる。
ゲームの中で仲間を増やしながらラスボスを倒してゲームクリア、となるのだけど、増やした仲間が誰なのか、何人なのか、でストーリーやエンディングが変わるので、飽きずに何度もプレイできる。
仲間にしたメンバーによってはメンバー間でカップルが誕生したりすることもあるという話で。
仲間にできるのは、最低が2人、最大が7人。
8人のパーティーが最大人数だった。
仲間にできる可能性のあるキャラクターは十数人いたらしい。
らしい、というのは、その全員を確認するほどやりこんでいなかったからだ。
仲間が1人、つまりパーティーとして2人しかいないと、途中からストーリーが進まなくてクリアできなかったのは確認できたけど、仲間になる可能性のあるキャラと知り合っても、イベントを失敗すると仲間にはなってもらえなくて…。
僕は、仲間集めに意外と苦労した。
ネットで攻略情報を調べたくなかったのだ。
パッケージの表に三人だけ描かれていたキャラを含めた8人のメンバーにしたくて、このゲームは何周もした。
その度に前半は同じキャラを仲間にしたので、途中まではいつも同じストーリーだったけど。
ちなみに二周目からは、勇者のレベルやスキルが前回クリア時の半分程度から、のスタートも選べるため、レベル上げのための戦闘に煩わされることもなかった。
その代り、ラスボスもこちらの強さに合わせて強くなってしまうのだけど。
ラスボスが強くなるといえば、ストーリーが強制的に進むことがほとんどないゲームの作りであるため、町のカジノで遊びほうけたり、戦闘の関わらないクエストばかり引き受けるなどをして、ラスボスを倒すべく魔法や戦闘スキルの強化などの努力をしないでいると、時間経過と共にラスボスがどんどん強くなり、いつの間にかゲーム内の町が滅んで無くなっていたりして、そこから慌てて倒しに行こうとしてみると、もはやムリゲーか、ということになっているらしい。
僕は、ゲームの中とはいえ、意外と真面目なタイプであるので、いつもラスボスを倒すベく邁進してしまって、ゲームの世界が深刻になったストーリーは経験しなかった。
そして、留学のちょっと前に、僕が仲間にしたくできなかったキャラを仲間にしてクリアをした友人が、そのキャラのチートぶりを興奮気味に教えてくれて、うらやましくなった僕はとうとう諦めて、攻略サイトを利用した。
そのチートキャラがパッケージの三人目なのだ。
そのおかげでやっとそのキャラを見つけて仲間にしたばかりで、…この世界にきてしまった。
そのキャラが入ってからのストーリーもエンディングも見ていない。
恐らくゲーム機は背中のリュックの中でバッテリーが切れているだろう。
この世界で充電なんてできるとは思えないけど…できるといいけど…無理だろうな…。
やりこんでる最中のゲームの世界に召喚されるとか。
一体どういうことなんだ。
まだ頭のどこかでは疑っていた。
でも。
暗くなってから到着した城のシルエットは、ゲームで何度も見た城と同じ。
中に入ってみると、ゲームで何度も歩き回ったので構造もほぼ覚えている通りだ。
おじさんに連れられて、謁見の間に連れてこられて、王直々に声をかけられ…それはまさにゲームのオープニングそのものだった。
もう受け入れるしかないだろう。
この世界で僕が勇者なのなら…ゲームと違って何周も、なんてできやしない。
さっさと慣れたメンバーを仲間にして、ラスボス…瘴気をまき散らすドラゴン…を倒してやる。
頭の中はフル稼働しながらも、ゲームの主人公にありがちな寡黙な状態で、異世界での初日は過ぎていった。
朝、目が覚めて、ここがどこなのか、さっぱりわからなくて混乱した。
とりあえず起き上がって、ベッドを見回して…。
天蓋付きのベッドとか…ありえない調度品を認識して、異世界にきてしまったらしいことが夢ではないことにがっかりした。
大きく深呼吸をする。
吐く息に集中して…。
母さんがいなくなってから、気持ちが落ち着かないとき、こうして深呼吸をする。
母さんが教えてくれたことだ。
辛い時、悲しい時、泣きたいけど泣いてはいけない時。
そういう時は、大きく息を吸って、ゆっくり吐くのよ、できるだけ長く。
そうしたら、吐いた息の中に色んなことが溶けて出ていってくれるのよ…。
きっと母さんがそうやって辛い時を乗り切っていたんだろう。
僕は母さんがいた頃は深呼吸なんて必要なかった。
何度か深呼吸を繰り返すと、少し気持ちがしゃきっとして、起きたら鳴らすように言われていたベルを鳴らした。




