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そうして私は、公爵令嬢として困窮院や孤児院への訪問などの慈善事業のお手伝い、勉強、マナーやダンスの練習、さらに魔法の練習、歌の練習…さらに加えて王妃陛下や側妃殿下のお相手…やることがたくさんあって、毎日が飛ぶように過ぎた。
そのような生活が続き、世の中に色んな事が起こりつつ、気付けばあっという間にまた数年たっていた。
いつしかあれほど鮮烈だった前世の記憶は薄れていって、高橋真理だった記憶があるマリアという公爵令嬢としての人生をしっかりと歩んでいた。
ある日、「絶対に来てね」と王妃陛下から手渡しで、お茶会の招待状を受け取った。
普段はお茶会の終わりに、次はいついつに来てね、と口頭で言われるか、ひどい時は早馬が来て今日来られるかと訊かれることすらあって。
とにかく、普段はそんな扱いなのに、正式な招待状とはこれいかに。
「うふふ、ちょっとだけ特別なお茶会なの。詳しくは招待状を読んでね」
なんとなく嫌な予感がするけど、にっこりと微笑んでおいた。
そして、あっという間にその『特別なお茶会』の日がやってきた。
ため息をつきながら鏡の中の自分を見る。
エミリー達がせっせと髪を結ってくれていて、まだ完成していないものの、薄い茶色…最近はミルクティーみたいな色になってきた髪は、つやつやしていて、おろしているところはくせ毛なので緩くウエーブしている。
白い肌にバラ色の頬、赤い血色の良い唇。青い瞳はきらきらと綺麗だ。
前世の自分が見たら見惚れてしまうような、お人形のような可愛らしさだ。
それが自分だというのがなんとも不思議だ。
はあ、とまた盛大にため息をついて、エミリーにたしなめられた。
「私も付いて参りますので、そんなに憂鬱な顔をなさらないでくださいませ。王太子妃、そしてゆくゆくは王妃という職業はいかがでしょう?」
「もう!嫌に決まっているでしょう!今日のこれって、どう考えても殿下達との顔合わせの意味よね?」
「さすがはお嬢様。ちゃんとお気づきで」
「行きたくない…って言っても行かなくちゃいけないのよね…できれば結婚もしたくないのに…」
そう、実は前世で、あまりに幸せ過ぎた二年ばかりの結婚生活を心の支えに、残りの人生を生きてしまったので、転生してマリアになった今もなお、私を残してあっけなく逝ってしまった夫…啓介さんのことが忘れられないのだ。
どうでもいいことについては前世の記憶もあいまいなのに、啓介さんを思う気持ちは、褪せることなく未だに胸の中に残っている。
そして、もちろん、悠人のことも。
この二人のことを思い出してしまうと、胸が締め付けられて、とても苦しい。
そもそも今生は、異性と知り合う機会も甚だしく少ない。
心ときめくような異性と、マリアとして生まれてからは出会ってもいないのだから、啓介さんのことを忘れられなくても勘弁してほしい。
そして、母親なのだから子どものことが心残りなのは当たり前だろう。
そんな、前世の記憶は薄れつつあるものの、変なところでは前世を引きずりまくりの、まだ成人前の私に、王子殿下達とのお茶会の招待状が届いてしまった。
特別、というのは王子殿下達を交えたお茶会である、ということだったのだ。
「他のお茶会でしたらお断りもできますが、今日ばかりは無理でございます。十二歳のときの、あのお茶会同様の正式なお茶会ですので…。その代り、殿下達はいずれもそれはそれは見目麗しい方ばかりでございますから、お近くでそのお顔を眺めるのを目的になさっては?」
「でも誰かに気に入られちゃったら、婚約、なんてこともあり得るのよね?えーと、今日招待されたのは何人だったかしら」
「お嬢様含めて五名の令嬢が本日招かれているはずでございます」
王子は、王妃陛下の息子のキース様とジュリアス様、側妃殿下の息子のアレックス様とクリス様。
それに最近一人外国から養子に入った謎の王子、の合わせて五人。
王子五人に令嬢五人。なんだろう、合コンか。
でもこの養子になった王子は、子どもの私には教えてもらえないけど、なんだか特別な人みたいで。
だって既に潤沢に4人も王子がいる王族が、さらに男の子を養子をとるって普通はあり得ない!
その代り、養子の王子には王位継承権はないらしい。
ということは、五人の中でもし選ばれるなら、この養子の王子がいいかも。
既に王太子はキース様に決まっているけれども、万が一ということもなくはない。
王位継承権争いには間違っても巻き込まれたくない。
我が家にも王家の血は混じっているし、血は濃くなりすぎない方がいいよ……。
でも良く話を聞くと、以前は、殿下達との合コン?は折に触れて開催されていたようだった。
だったら、そんなに怯えなくてもいいかな?と思えてきた。
数あるお茶会のうちの、たかが一回だ。
自分が選ばれるだろうなんて、自意識過剰だったかも。
「お嬢様は公爵家令嬢として家柄もこの上なく、そしてその立ち居振る舞いも素晴らしい上に美しく聡明、と既に評判でございますし、王妃陛下、側妃殿下からはもはや嫁のような扱い。ですので、王子殿下のうちのどなたかに嫁がれるのはもはや決定事項かと」
「ええっ?そ、そうなの??」
エミリーが私の考えを読んだかのようなタイミングで言ったので、驚きが倍だ。
「当たり前でございます、公爵家は二家しかなく、年齢的に釣り合う公爵令嬢はお嬢様しかおりません。なぜそのお嬢様が王子殿下ではない方に嫁ぐことがありましょうか。王子は四人…五人もいらっしゃるのですよ?」
「エミリー!今まで黙ってたわね?」
泣きそうな顔で鏡越しにエミリーの顔を睨むと「むしろ今までお気づきになっていなかったことに驚きです」と苦笑いをされてしまった。




