209件目【カイセイ「よく、できていやがんな」】
感情を昂らせている柚依を何とか言葉で宥める。千柰都のあんなところを自分の目でも見ているんだ。
あそこに考えもろくにない状態で突っ込んでいくことが死に直結するっていうのは理解してくれたみたいだ。
大人しくなった柚依を横目に、千柰都の方は私達から離れた方向に再び土御門魁聖に蹴りを入れる。
吹き飛ぶ土御門魁聖の体に更に追い撃ちで、宙に浮いている土御門魁聖を真上から顔面に強烈な正拳突きをかます。
辺りには砂埃が舞う。どんだけパワフルなんだっていうツッコミは今更過ぎるよな。
「おい………土御門魁聖………」
「かひゅ……!ごはっ………!」
ボロボロで、満身創痍の土御門魁聖に対して……千柰都は一切息も上がっていなかった。勿論、怪我なんて一つもしていない。強いて言うなら激しい動きのせいで顔に少し擦り傷が出来ているだけだ。
土御門魁聖の攻撃によるものではなく、高速移動による空気の摩擦によるものだろう。空気と皮膚の摩擦で擦り傷が出来てしまうの程の速度で移動しながら土御門魁聖を追い詰めている………
千柰都がこの場に居なければ、土御門魁聖の立場は私達になっていたことだろう。それだけの力量差が土御門魁聖と千柰都にはあるということだ。
「いやいや………ガキの癖に………あのクソ生意気な妹よりも年下の癖に………なかなか、やりやがるじゃねぇかァ………クハハハハ………!自分が死にかけているっつーのに、笑いが出てくるなんて、俺もだいぶ人殺しという趣味を楽しみすぎたよう______」
「喋んなよ、だから」
「うごっ………!げばっ………!」
狂ったような発言をする土御門魁聖の腹に思い切り踵落としを食らわす千柰都。土御門魁聖は大量の血を口から吐き出した。
あんなにボロボロになって内臓も相当なダメージを浮けているはずなのに、あそこまで喋れるなんて………どっちも化物過ぎる。
「どう?今度は自分が殺される番に回るっていうのは?ちょっとは惨めに命乞いでもしてみます?」
「この期に及んで………そんなしょーもねぇ真似は冗談でもしねぇよ………!水剋火……」
「まだ何かするつもりなの?」
「大海斧!」
千柰都の背後に斧の形をした巨大な水流が千柰都に目掛けてふりそそぐ。
千柰都は表情を変えず、迫り来る水の斧にも動じることもなく………千柰都の背中から黒い炎の翼ような物が出現に水の斧は簡単に消え去った。
あんな芸当まで………咲希がサタンの娘とか言っていたか。サタンには会ったことはないが、あの黒い翼を生やした千柰都はサタンよりも魔王らしい姿に私の目には映った。
水の斧が蒸発し、辺りが水蒸気に囲まれて濃霧が出現する。その濃霧の中から千柰都は土御門魁聖の胸ぐらを掴み私達の居る方に向かって投げ付ける。
土御門魁聖の体が私の目の前に転がり、今まで受けたダメージのため、ついに術も発動する体力も喋ることも出来なくなってしまっていた。
「こふっ………ひゅっ……!ひゅっ………!」
「クソ……兄貴………!」