1540件目【マリア「複雑に絡まり合う運命……」】
遥華が近くに停まっていたタクシーの運転手に「乗せてください!」と言って、そこに私を押し込んだ。
全員は乗れそうにも無かったので、遥華と藤華が同乗することになり、咲希とマリアは2人で歩いて帰ることになった。
タクシーに乗り込んだ私達はワルキューレの住所を指定して、そのまま少し急がせるように運転手に発進を促した。
(ここからな、歩いて10分も掛からないのに……わざわざタクシーでなんか帰らなくても)
いくら使い放題のタクシーカードを持たされているからって、こういう無駄遣いはいけないと思うな。後になって会社の経費から引き落とされるものだから。
でも、ここから事務所までの距離もたかが知れている。料金だって数百円程度。社長も誤差の範囲内としか思っていない。
寧ろ、もっと使っていいよ~みたいなことを言ってるくらいだから。だったら使った方が良いんだろうけど………なんか、これは違う気がする。
事務所に着いて遥華が自分のタクシーカードを提示して支払いを済ませる。タクシーを降りて私の肩を抱き寄せてゆっくりと事務所の中に向かう。
そ、そんなに過保護にならなくても大丈夫なんだけどなぁ………
「ちょっ、ちょっ、自分で歩けるから」
「あっ、ごめんごめん。本当に顔が真っ白になっていたから………大丈夫じゃないなって思っちゃって………」
「ごめん。本当に、迷惑を掛けちゃって」
「気にすることは無いよ。長いこと付き合っていたみっけさんが、このタイミングで抜けることになるなんて………口ではあんなことを言っても、気が動転するのが普通だよ」
「由利さんと來依柰さんもビックリするだろうな」
「あの2人はまだ帰ってきてないでしょ。姉ちゃんから今日は遅くなるかもって前以て聞いていたから。最近、本当に忙しいみたいだから……大丈夫なのかな?体とか」
「藍姉ちゃんは自分の体の心配が先だよ。とりあえず、受付………いや、休憩所の方が良いかな?」
「体調は悪くないから平気。ちょっとメンタルがやられているだけだから。受付で社長からの未來と雛形ちゃんの詳細を聞かないと」
「無理、しないでよね………」
「そんなに気ぃ遣わなくなって平気だってば。こうなることも多少は覚悟していなかったら芸能人なんてやってられない」
「とは言っても………」
「色々な意味で、どこまでもKAT-TUNっぽくなっちゃったっていうだけの話」
「藍姉ちゃん……」
「藍華………」
私達は受付に入り、社長の方に戻ったということを伝えてソファに座る。私の声を聞いた社長はパソコンから私達の方に直ぐ様視線を移して、慌てて駆け寄ってきた。
そんなに慌てなくなって私は逃げたりしないし。急に死んだりしないよ。
「藍華………あの2人の件は………」
「大丈夫です。こうなるかもしれないっていうのは、自分の中でも、どこかで分かっていたことなのかもしれないので」
「そんな簡単に割り切れるもの、なのか………?」
「割り切らないと、いけないっていう方が正しいかもですね。逆に、いつまでも綺麗な形でアイドルを完遂できるとは思ってなかったので。来たか……ってくらいなもんですよ」