135件目【喧々諤々】
そういう経緯も知っているから、私達がある程度売れ始めてきて、ドームでライブをやろうという時にはスペシャルゲストとして1日限りの小鳥遊由利の復活をサプライズでやろうと思った。
由利ちゃんが出る時には由利ちゃんが好きなKAT-TUNの曲をカバーしようって話にもなったけど、本人が「私は吹っ切れたから。今は後輩の成長を見て、その後輩が私の行きたかった世界に連れてってくれるっていうのが嬉しいから」って言ってくれた。
余計な心配だったんだなーって思ったよ。私達3人でKAT-TUNの曲を歌った時は全員で泣きながらカバーしていたもん。
由利ちゃんも泣いていたから。「灯籠のマネージャーになれて良かった……!」って。ここまで素晴らしい人間を陥れた人間が許せないっていう気持ち……今までの"家庭"のこともあって、私達は「現代の日本を許さない」っていう気持ちが強くなって……
中学三年生の時に"裏稼業"の仕事を始めた。
初めての仕事から………由利ちゃんを陥れた組織の人間のボスの暗殺。私達が直接手を下したんだじゃなくて、元からあった繋がりを使っての謀殺だった。
初めての割には上手くやれたようで、他殺どころかソイツは事故死という扱いになった。前方不注意によって道路際のコンクリートの壁に正面から猛スピードでぶつかり即死。
ブレーキのところに細工してもらったんだけど、その痕跡も車が木っ端微塵になったので細工の証拠も同時に無くなった。初めての裏稼業の仕事で、初めての完全犯罪を成り立ててしまった。
この事は由利ちゃんにはバレないようになっている。由利ちゃんは何も疑うこと無く事故死だと思っている。社長も真相は知っているが、由利ちゃんが面倒見ている中学生のアイドルグループの奴等が首謀者となって暗殺したなんていうのは信じないだろうし、変に過去の思い出をフラッシュバックさせることもないだろうという社長からの指示だ。
由利ちゃんには何でも話すようにはしているし、この件以外の裏稼業の事も全部話している。だから、由利ちゃんに対しての唯一の秘密が"コレ"だけっていうことになる。
由利ちゃんの認識では、この次にやった詐欺師からの詐欺返しの仕事が裏の初仕事だと思っている。周りも私達が初めての裏の世界に携わるっていう建前で動いてくれていたから、由利ちゃんには一切怪しまれずに今まで隠し通してきた。
"本当の初仕事"に関しては……今後も、墓まで持っていく機密事項だ。
「由利ちゃん、本当にカッコいいな」
「藍華、さっきからずっと食い入るように見ていたもんね………その気持ちは凄い分かるくらいに他のメンバーとか一線を画した何かを感じるよ………私、ここまでになれるかな………?」
「えっ?」
「えっ?」
「んっ?みっけ、水月。どうしたの?」
「ここまでになれる……って、自分もアイドル始めますみたいな言い方だなって」
「そうそう」
「だって、私も3人の事務所でアイドルやるし」
「「…………………えっ?」」
あらあら、言ってしまったか。
ここまで言っちゃったなら………誤魔化しようが無いか。本当に千柰都ったら素直すぎて困ったものだ。
慌てて口を抑えても事実は変わらんぞ、千柰都殿。