18:ボクシングがしたいです
「あ? 誰だてめぇわ」
「や、ヤマトさん――!」
「なんだカイト、てめぇの知り合いか?」
「いや、その……」
「何か困ってそうなんで声をかけさせて貰いました。なんでも人を殺して経験値を稼ぐといいって聞きましたが」
「カイト、てめぇ……!」
「い、いや違うんです! ヤマトさん、なに言ってるんですか!?」
「どうしてあなたは、そんな嘘を教えたんですか?」
「……」
相手が何か考え込んでしまう。うまい言い訳でも考えているのだろうか。だが甘い、俺はこの会話パターンをいくつも想定してどんな返答でも返せる準備をしてきた。さあ、どんな返答でもするがいい!
「こいつは元々ボクサーだ」
おっとそれは想定していない返答だ。
「ボクサーは元々、対人間用だからな。人間とやりあうほうが効率がいい、だからそうアドバイスをした。問題あるか?」
問題はない。
「だけど結果として彼は人間をやれていない。だったらそれは辞めるべきじゃないか?」
「それを決めるのは俺たちではねぇ、カイト自身だ」
「確かにその通りですね……」
意気揚々とヤクザに脅されている知り合いを助けて、恩を売って狩り仲間にするプランが崩れていく。思ったよりこのヤクザさんがいい人みたいだった。
「俺は……」
視線がカイトに集まる。
「ボクシングがしたいです……」