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プロローグ

「ソラ! 盾でガードだ!」


「分かった!」

 

 片手剣士のソラが魔物の攻撃をガードする。ガードをすることで一時的にパリィが発生し、敵が仰け反る。


「カイト! スキル【ラッシュ】」


「おう!」


 格闘家のカイトがスキルを繰り出す。そのスキルはいわゆるパンチの3連撃で相手にダメージを与える。


「ヒナ! 【応援】でステータスアップさせて!」


「はいっ!」


 アイドルのヒナは歌で仲間を応援する。応援のスキルを受けてメンバーのテンションがアップする。


「ホノカ! 弓で【ショット】を撃って!」


「かしこまりました!」


 弓兵のホノカは弓のスキルを放つ。テンションの上がった攻撃でダメージが倍になり、魔物を倒すことができた。


「ふう」


俺は一息つきながら、周りを警戒する。パーティーメンバーは魔物を倒して事でよっしゃーとかいいながら浮かれている。


(戦闘終了後のバトルイベント、結果確認もあるのか……)


 俺は現在の状況を確認する。パーティーメンバーは全員指示を出さずに好きに戦わせると負けることがある。ゲームでいうところのAIがバカすぎる! というやつだ。


 だから戦闘中は「命令させて」貰っている。命令を出すことで効率的に敵を倒すことが可能だ。魔物はその辺を徘徊しており、戦闘終了で経験値やドロップアイテムの確認を呑気にやっているが、周りを警戒して欲しい。


(この辺は今後、指示を出しておくか……)


 世界がいつの間にか変わり、こうして魔物がはびこるようになっていた。最初こそ喜んでいたが、こうして戦闘の指揮をとっていると前途多難だと思い知らされる。


「みんな! 剥ぎ取りはその程度にして、次の戦闘に向かうよ!」


 まだパーティーメンバーのレベルは低く、このあたりでも油断は出来ない。


あー、自動でレベル上げでもしてくれないかなぁ……


◇◇


 拡張現実Augmented Reality、略してAR技術は発展をしていく。視覚越しに見える世界は様々なエンターテイメントを提供していった。


 外にいながらネットが繋がる環境、手を使わずに画面を見ることができる技術、現実では起こりえない非現実的な演出。


 そういった様々なものがAR技術を通して人々に浸透していった。


しかしAR技術には限界があった。


 AR技術の特性上、どうしても外部ツールに頼る必要があり、軽量化されたツールといえど、そのツールを外してしまうと現実に戻されてしまう。


 最初はとても重いゴーグル型のデバイスだった。そこから軽量化が進み眼鏡と大差ない重さまでデバイスは進化する。


だけど結局、進化はそこまでだ。


 そんな時、一人の天才科学者がとある発明をする。科学者の名前は川上春樹(カワカミハルキ)は一つの発明をこの世に残す。


 埋め込み型のAR技術だ。その技術は人間の脊髄に手術をすることでAR技術を埋め込み、体を動かす機能を科学によって補佐をするという発明だった。


 そしてその技術を利用して、体を動かすだけでなく脳に直接刺激を与えることで、脳に動きを覚えさせる技術に発展をした。


 つまり人間はパソコンなどと同じように、脳に動きや技術をインストールすることで、それを模倣する技術を生み出した。


しかしこの技術は世間から批判を受けた。


 脊髄に埋め込む手術を行えるのが、幼少期の生後半年以内の子供にしかできないからだった。成長してしまった段階では、うまくデバイスを埋め込むことができず、まだ自我も育っていない子供に手術をするのはどうかという世論の声があがる。


そのためこの技術は縮小され、ごく小規模での人体実験をすることとなる。


 風向きが変わったのは、この技術を使った子供たちが10代になった時だった。


 デバイスを埋め込んだ子供たちは、世界に様々な記録を生み出していく。世界記録や最年少記録がインストールされた子供たちに塗り替えられていった。そこから自分の子供にデバイスを埋め込むことに賛成する親が増えてくる。


 自分の子供が、そういった世界に注目されるような偉業を成す。その誘惑に逆らえない親は多かった。


 そして二度目の風向きが変わる瞬間が、第一世代が30代になった時だった。手術をした優秀な子供たちは当然のように政治にも手を出していく。そして子供たちは法律すらも変えていく。その中の一つにAR技術の手術をすることを盛り込んでいった。


 国が手術を認める方針に変わったことをきっかけに、手術をすることが肯定的に捉えられ、手術をしていく子供が増えていく。


その結果、手術をしない子供は子供の中で落ちこぼれていく。


 手術をした子供は数秒インストールをするだけで覚えられる公式を、手術をしていない子供は数時間、数日かけてやっと覚えることができる。日常の勉強の1コマに焦点を当てただけでも、格差が生まれていった。


 そこから子供の将来を考えると、手術をするほうが子供のためだ。そういった同調圧力のような風潮が生まれ始めた。


 それから第一世代が誕生してから200年。世間では、実に99.9%の人間が幼少期に手術をするようになった。


「先ほど、旧世代の手術をしていない最後の方が亡くなられたと一報が入りました」


 AR技術を通して、テレビ番組でそのような報道が報じられた。


◇◇


「次のニュースです。政府では――ザ、ザーーーー」


「みなさんこんにちは、私の名前は川上春樹です」


その時、突然のニュースジャックが行われた。


「ご存知の方も少ないかもしれませんが、私はみなさんが手術をしたAR技術の産みの親です」


画面上には当時、生きていたころの川上春樹の顔写真が映っている。


「ただ残念なことに、私が生きているこの時代ではその技術は理解されませんでした。世間では非人道的だのと言われ、ひどく肩身の狭い思いをしています」


世の中の99.9%の人間が、その動画を見ている。


「だけどこの技術はやがて世界に浸透していくと信じています。そしてこの動画が流れているということは、その願いが叶ったということを意味しています」


画面上の彼はそこで、笑う。


「だから私は私を虐げた世論にちょっとした仕返しを、あなた方にしようと思います」


今の世の中は、この技術を使いインストールされた仮初の力を持ったエンジニアが動かしている。


「今、君たちに力を貸している能力を全て一度リセットさせて貰います。そしてとあるルールを作って制限をかけることにしました」


正常に回っていた世界が、今この瞬間止まる。


「君たちは今から全員レベル1となり、レベルが上がらなければ技術(スキル)を獲得できないようにしました。そしてそれは私が作った魔王を倒すまで、ずっと続きます!」


技術(スキル)を失った人々は、自分が今まで当たり前にやれていたことのやり方を忘れる。


「私も鬼ではありませんので、ルールブックは見れるようにしておきましょう。では魔王を倒す勇者のみなさん、健闘を祈ります」


そうして動画は終わった。


◇◇


 世界は混乱した。科学技術に完全に移行していた技術は問題なく作動している。電気インフラ、食料生産、そういったものは今も稼働をし続けている。


 しかし人力に頼っていた技術は全て完全にストップした。


例えば行政。能力で世界最高の知識を有していた政治家たちは皆全てを忘れ、政治が麻痺する。役所や公務員は仕事の仕方が分からなくなる。

例えば司法。法律を守っていた法務官は法律を忘れ、何が正しいかの判断ができなくなる。

例えば運転技術。その瞬間車を運転していた人間は運転の仕方を忘れ、世界各所で事故を起こした。電車は止まることができず追突、飛行機は空から堕ちた。


 世界が大きな混乱に陥った。


 この世界のルールは川上春樹のルールブックによって決められている。いや世界では村上春樹のルールだけ機能しており、デバイスを埋め込んだ人間はそれだけを覚えているといったほうが正しい。


ルール①皆は全てレベル1からスタートする。レベル1毎に技術(スキル)を得ることができる。スキルの詳細はルールブック別紙を参照。

ルール②魔物、または別の人間に倒されるとレベルが1に戻る。レベル1に戻った場合、今まで獲得したスキルはリセットされる。

ルール③世界にいる魔物、または人間を倒すことで経験値を得ることができる。経験値を得ることでレベルをあげることができる。

ルール④魔王を倒すことで、元の状態に戻ることができる。


現実世界を使った、大規模なゲームが始まる。


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