三話 メイドの不満
遅くなってすいません。寝てました。
五級魔聖賢者のリーン・ハウスラット・トール
この迷宮でメイドとして働いている者の名前だ。
リーンはこの迷宮で三年前に生まれた。人型魔族の娘で、母親は一級魔聖賢者で父親については誰も教えてくれなかった。
自分の出所に不満を抱きつつも、忠実にメイドの仕事をこなした。生まれてからほぼずっとだ。ゆえに自分の人生とはなんなのかを自問することが稀にあった。しかし彼女を絶対に抵抗させないものがあった。
それが主人の魔力量。別に主人が自分になにかしてくれたわけではない。でも圧倒的魔力量に恐れて生きた。
だが彼女の人生も二年前に変わった。この迷宮というのは住む上では下の階層の方が安全なのだ。だが彼女も一端の賢者。防衛に全線...つまり最上層に出された。
魔法が全くできないというわけではない。彼女も一端の賢者。敵はゴブリンギャングという魔物。攻撃力が高く、ギャングマスターという知力に長けたリーダーに従うため、戦略性もある。
もしこの防衛ラインが突破されたらあの膨大な魔力に殺される。そう思い必死で戦おうとした。だが彼女は考えた、このまま謎に生き続けるくらいなら死んだ方がマシなのでは。っと。
だが彼女にも夢があった。今外に出ている一級魔聖賢者の母親と再会することだ。それに彼女は彼氏というものにも興味があった。三年という短い年月しか生きていないが、彼女の種族的にはそういうことにも手を出したくなる年齢なのだ。人種なら十五歳ほどの体なので、それなりの性欲もある。
だがダンジョン内での者は種族違えど家族のようなもの。恋心というものを知らないが、誰と一緒に食事をしたりしても高揚した気分にならないのだ。
自分の種族は長寿。その話を聞いて彼女はこの迷宮にて待ってみるという結論に至った。
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マイレ・ハウルドベル
元々はハウルドが苗字だったらしいが自分でベルという名前を付け足したらしい。主人には感謝してはいる。だが最初は避けられた。彼女の永続魔法魔力眼で私の魔力量に怯えたらしい。主人の方が圧倒的な魔力量だが、慣れないんだろう。しかし私を恐れていても、部屋メイド当番の日には積極的に話しかけてきた。最初は殺されると思って頭を地に付いたが、魔法で喧嘩傷を治してくれた。傷は服で見えないはずだ。でも傷に気が付いてくれた。どうやら毒が塗られていたらしく、毒耐性があったから歩けていたが危なかったらしい。
まだ私を見て偶に怯えるが...
それから私は彼女への服従を決めた。ほかの人たちも命を助けられるということがあったらしい。この人は優しく、どんな人にも手を差し伸べる人だ。でも私の目標は変わっていない。私は必ず母上に会って彼氏とやらを紹介するんだ。
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主人には使役魔獣がいた。という噂があり、あのマイレ様の魔獣ということで様々な人が探そうとした。だが全く見つからず、次々と諦めていった。
その部屋は唐突に表れた。迷宮第三階層に急に部屋が現れたのだ。そしてその部屋には鎖に繋がれた魔獣がいた。白天狼という種らしく、弱っているためマイレ様に伝えた。すると噂の魔獣である可能性が明らかになり、すぐに完全魔法回復薬を与えた。この狼が死んだら私も死ぬそう思い、取り掛かった。
かつてのマイレ様は死者蘇生の魔法も扱えたというが、主人に期待して何も努力しないのはメイドとしてはアウト。私は毎日貴重な薬を与え続け、狼の蘇生に成功した。
狼の名は二級魔聖賢者の一人が覚えていて、ミューという名前を教えてくれた。だがこの狼、普通ではないことは確かだった。マイレ様との面会のあとから知性を強く感じるようになった。なにか目標を持って動いてるようにどうしても見えるのだ。その目は外に生息していると言われている下等生物の「人間」という種族に似ていると仲間は言っていた。
「人間」を見たことがあるという仲間たちは皆ミューは悪霊だと陰口を言った。「あの目をしている種族は性欲の権化だ」や「あの狼は下等生物である人族に似ている。遺憾である。即刻死刑...なに?マイレ様のペット?グヌヌ...」
などと、何とかマイレ様という株が保証しているが、いつか誰かが手を出しそうで怖い。
そういった心配をよそに、私がミュー様の専属メイドへと移行された。どうやら私が蘇生したからだそうだ。主人と話せる機会が減ったのは残念だが、七百を超える仲間たちのほとんどは賢者の称号を持ってなく、賢者の称号を持っていて機会があっただけいいと考えることにした。
私が付いてすぐにミュー様は魔道具室への興味を示された。魔道具室はこのダンジョンでスポーンした魔道具やマイレ様の魔道具が置いてある倉庫で、賢者の称号を持つ者しか入れないようになっている。
ここは迷宮なので適当に普通の鉄で剣を作って放置するだけで魔道具へと変わる。
ちなみに普通の迷宮でも故意的に魔道具をつくることはできる。だが、そのためには迷宮の深部に装備品を置いて、長い年月が経ってまた取りに行く必要がある。更にその装備品が迷宮の魔物に拾われていたり、冒険者に既に拾われていたりとリスクが大きすぎるため、誰もやろうとしない。っというか、迷宮を個人保有しようとするアイデアを思いつくマイレ様が凄すぎるみたいだ。
ミュー様は魔道具室で武器などの匂いを嗅いで、ある短剣を選んだ。正直この部屋の武器は量産物だからどんな性能かなんて知らない。おそらくこの迷宮の魔物の誰かが持ってたものだろう。
性能がわかっている物は説明書がある。この説明書システムを考えたのもマイレ様だ。本当に記憶をなくされてしまってもったいないと思う。
その短剣の真ん中には月光夜石というレア鉱石が埋め込まれており、夜になると切れ味がとんでもなく上がり、短剣なのに木を切れたり...ここで文章が切れている。紙も随分古いからこの武器も長い間放置されていたんだろう。
ミュー様はその武器を口に咥え、ショートソードとして使うようだ。私も近接は苦手だし何か試すか。
そう思い適当な剣を持ってみる。重い。戦士職のやつらはこんなのを持って走っているのか?
軽重力!
重力魔法を使ってみた。軽くなった。二キロは軽くなったな。
辛重力!
重い...もともとの重さから五キロほど重くなった気がする。
やはり近接は諦めようと剣を戻し、ミュー様と昼食に行こうと後ろを振り向くとそこには狼がいなかった。
代わりに獣耳を持つ青年がいた。