一話 現状把握
二度あることは三度ある。
俺の不幸はこれに当てはまっている。一度目は正義感ぶって不良に絡まれて後頭部強打。後遺症が残る。二度目はトラック事故。そして死亡。
三度目は...
転生
ファンタジーの世界でよくある現象で、中二病にとっては特大サービスイベントであり、半分中二病みたいな俺からしても特大イベントだ。
そしてそのイベントが現実に起きている。だが今の俺にとってはこれは不幸だ。父さんに迷惑をかけたままで、やっと恋心を持てたと思った幼馴染とも離れ離れだ。
俺は確かに死んだ。助かりようがない。転生いやだな。
暖かい毛布のようなものに包まれて俺は起きた。なんか...いい匂いがするな。
目を開けるとそこには黒いドレスの女がいた。歳は前世の俺と同じくらいか?メイドというのか?かわいらしい恰好だが、大きな杖を持っていて魔法使いみたいだ。
何かを飲ませようとしているのか、俺の口を力ずくでこじ開けてスプーンに入った液体を入れようとする。
いやそれくらいは自分で食べれるよ?!
ゆっくり口を開けて食べる。苦いが、薬に近い感覚だ。
「ミュー様?!ミュー様!キャー起きました!だれかすぐに回復スクロールとポーションを。十年ぶりのお目覚めおはようございます。わかりますか?見えますか」
スクロールやポーション。どれもゲームやアニメで出てくるものだ。
十年間寝たきりだったことはこの体はもう死んだのか...
「ミュー様。こちらミュー様の好きな鶏スープでございます♪」
様...?そんなに高位の存在になりたくはないんだが?立ち上がってみた。え、四足歩行だ。
犬だった。白く、手足が黒い犬だ。中型犬と大型犬の中間のような大きさだ。かわいいというよりは番犬のような怖い感じがあるな。犬種はハスキーみたいな。どちらかというと狼だな。
ミューというのはおそらく名前だ。
「ミュー様?こちら鶏のスープです。お口になってください。」
...なんかうまいなこれ。鶏肉はどちらかと言うと嫌いなんだがな。脳みそはこの犬のままってことか?つまり好みや頭脳はこの犬のまま。それなら今言語が理解できてるのって、この犬が理解してたって?そう考えると天才だな。
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「ミュー様。あなた様がどれだけ私たちの言葉を理解しているかはわかりませんし、もしかしたら貴方様の記憶も...ううう。そんなことになったら誰が私たちをうううう。
......
申し訳ございませんでした。一様報告しておきます。あなたの主人マイレ様は先日にあった戦争の傷で記憶喪失にあります。」
へ?
「そう驚愕されるのもわかります。この迷宮の主人であるマイレ様が十年前から記憶喪失で皆悲しんでおります。五級魔聖賢者である私もこの職についてからの三年間涙を絶やしたことがございません。ですがご安心くださいませ。マイレ様の警護を私のような五級の者に任せてもらって、記憶を蘇らせる魔道具を一級魔聖賢者様が血眼になって探しております。」
「ミュー様...?まさか病気で言語理解能力を!ああ!そんな!」
ああやばい勘違いが進んでいる。違うよ!違うよ!
首を必死に横に振った。
「...ミュー様。ひとまずは一度マイレ様に会ってもらいます。マイレ様の最も大事になされてたミュー様が面会すればもしかしたら記憶が戻る可能性がありますから。」
なるほどな。大体状況は分かった。自分の主人であるマイレってやつが戦争で記憶喪失になり、部隊を組んで記憶を治せる道具を世界中捜索しているらしい。俺はそんな中目覚めた主人の天才ペットってこと。ここは迷宮という場所らしい。
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「マイレ様。先ほどご報告させていただきました通り、ミュー様が目を覚まされました。」
めっちゃ緊張してきた。主人がいるって日本じゃ絶対経験できないよな。
「ヒッ。はい。入ってください。」
大きな扉の向こう側からは女の声が聞こえてくる。正直ビビりまくってたが、俺...いやこのメイドさんを恐れているのか、怯えた声が聞こえた。
俺が不思議に思ったのを察知したのか彼女が謎に眼鏡をくれた。
「ミュー様。こちら魔力を見ることができる魔道具でございます。これで私を見ていただいたらマイレ様がなぜ怯えているかがお分かりになると思います。」
魔力!ってことはここは異世界に違いはないな。
俺は異世界に転生した。
魔道具のレンズ越しに見るとメイドさんの周囲にオーラのようなものがみえる。これが魔力だとしたら世も末だな。オーラの起きさの基準は知らないが、大人数のときのキャンプファイアーのような大きさだ。
おお...これはビビる。
「これでも抑えてるんですが、怯えられてしまってます...」
抑えてるって。どこのラノベ主人公な強さだよ!しかもこれで五級?
「失礼します。」扉を開けると、王座のような豪華で大きな椅子に身長150cmほどの小さな女が座っていた。だが...こいつはやばい感覚でわかる。
このメイドは気が付いていないのか?これはこの世に存在してはいけない。そんな雰囲気を醸し出している。
「ミューさんですね?...........
メイドさん外してもらえますか?ミューと二人で話したいの。」