プロローグ-人間の自分
俺は亜流颯太。
遅めの中二病を発症していた中学三年生だ。中学三年生と言えばだれもが初めての受験を味わう年。だが俺は中高一貫の私立に通っているため、正直どうでもいいという感じだ。
中二病を自覚している一番めんどくさいタイプで、クラスで浮いてしまっていた。孤独は嫌だと思い、何とか中二病を克服したが時すでに遅し。
すでにクラスの全員が俺を見下す形になっていて、俺とはもうかかわってくれない。少ない青春を逃すのは危ないと、必死に話しかけたりしたりしたが逆効果だった。クラスメイトの視線は軽蔑から殺意に代わってく感じがして、俺は諦めた。こいつらとは仲良くなれない。
今は陰キャを極めて出席からの机に顔を伏せるまでのムーブを最速化している。正直な話虐められていないだけマシだと思っている。っとはいえ俺は太っていない。陰キャでもモテる確率はあると信じてトレーニングだけはしている。
だが事件は起きた。
「金?あるよね?」
そのセリフが俺を起こした。HRで寝てしまって今は放課後か。後ろを振り返ると、小太りの...誰だっけ。名前は忘れた。だがオタク特有の雰囲気を醸し出しているのを見ると、おそらく俺と同じ境遇。つまり陰の者だ。
「な..んです。」
彼の前には高校生だろうか?僕らより身長が大きい人が胸倉をつかんでいた。
オタク君はどうやら恐喝されているようだ。
「聞こえねえなぁ!」
嘘だな。あそこまで顔を近づけて聞こえないわけがない。
「今は...お金がないんです。」
人は恐怖に支配されたとき、頭が動かなくなり冷静な判断やセリフが出ないという。おそらく彼はそうなっているのだろう。焦りが伝わってくる。先生を呼ぼう。脳内天使はそう叫ぶが俺の本能(中二病)が爆発した。
「おい!嫌がってるだろ!」
何を言っているんだ?俺?正義感ぶっても意味がない。
やばい。
「あ?陰キャが出しゃばってんじゃねぇよ!」
俺はあっけなく拳を顔面に食らった。
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目が覚めると俺は病院にいた。どうやら後頭部に頭をぶつけたらしい。さっきから頭に違和感がある。
病院の看護師の人が医者を呼びに行っている。俺の父さんは...見舞いには来ないだろうな。
俺は訳ありだ。小学校の頃母親が電車のホームで誰かに押されて死んだ。父さんが世界中を飛び回る仕事をしているから俺は寝込んでいるおばあちゃんと住んでいる。父さんが送ってきてるお金で何とか生活しているがこういった事態になった時が大変だ。
「颯太!大丈夫?大丈夫なの!」
声が聞こえたと思ったら幼馴染の鈴塚美玲がお見舞いに来てくれていた。
「...ありがとな。」
彼女は料理が下手な俺のために俺ん家にわざわざ夕飯を作りに来てくれたり、優しいやつで俺が唯一話せる人だ。周りは可愛い可愛いと美玲を煽てるが彼女はオカルトな感じがして俺は可愛いとは思わない。今も本を読んでいてそのタイトルは二十世紀の拷問。っとはいえお見舞いに来てくれたんだ。感謝はしなきゃな。
「私...颯太が死んじゃうかもってうううう。」
そう言って彼女は抱き着いてくる。いつもの美玲はこんなに感情的になったりしないんだけどな。
!
抱きついてくる彼女が一瞬可愛く思えてしまった。え?美玲ってこんなに可愛かったっけ?ってかこの状況やばくね?いつもなら普通だけどよくよく考えたらこの状況エロくね?ちょっと心臓の鼓動を聞かれたくないんだが?
「あの。美玲様。いつまでこうするのですか?」
早く離れてー。俺の右胸にある鼓動を聞かれる前に。
「フフフ♪颯太ドキドキしてる。」
あ。ばれた。
「あ!もうこんな時間。私行かなきゃ。」
彼女を女として見た瞬間ドキッとしたぞ。正直美玲にドキッとしてしまったことが屈辱でしょうがない。
「嘘つけ。俺が起きるまでいるつもりだっただろ。」
人生で彼女はできたことがない。中一の頃なら有り得たが、俺はおそらく恋愛に興味がなかっただろう。中二は中二病マックスで発症してたからまず無理だ。中三...陰キャ期、触れるな危険。
「あはは。当たり。おばあちゃんは介護施設で今日は泊まるらしいから安心していいよ。」
そう言って彼女は帰って行った。人生初めての恋の可能性に驚きつつも俺は気絶したように眠りについた。
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「颯太。起きて。もうバスくるよ?」
あれから俺は無事に退院したが、足が動きにくくなるなどの軽度の麻痺の後遺症が残った。不良は父さんが弁護士を通して法的処置に追い込んだらしい。でも父さんが直接お見舞いに来てくれなかったのはやっぱり残念だ。
「ああ。ごめん。」
病院のバス乗り場まで歩いていく。だが実際は帰りはタクシーで帰る。乗り場が一緒のタイプだ。久しぶりに外に出たが、やはり後遺症の影響で歩きにくいな。
「颯太。ゆっくり歩いてね。転んだりしないでね。」
この病院生活を通して彼女との関係は少し深まったと言っていいだろう。彼女の魅力に気づかせてくれたことは不良グッジョブ。
「ああ。大丈夫。」
思わぬ事故だったけど悪くない経験だったなぁ。タクシーの窓で黄昏るように外を見る。実際は美玲と目を合わせるのがなんだか恥ずかしいからだ。
なんとなく通り過ぎる街灯を目で追ってたら街灯と窓の反射におかしなものが見えた。普通のトラックなのだが、蛇行していて非常に危険な運転でガードレールに当たりそうだ。
「やばいよ美玲!後ろのトラック。様子がおかしい!。」
トラックはスピードを上げていっている。このままじゃぶつかってしまう。
「でもこのタクシー無人運転機能を搭載してる最新型のやつだから...どうしよう!」
なんでこうもトラブルに巻き込まれるんだ。不幸の連続だ。
だがもっと最悪の状況になった。ようやくタクシーがトラックの存在に気が付いたのだが、安全モードという状態になった。俺は助手席裏に書かれたモードについてのポスターを見る。
「安全モードは...タクシーが安全と判断するまで路肩に止める。よかった。」
だがバグか神の気まぐれかタクシーはバックを始めた。
「後ろを見ろ!ぶつかるぞ!」
俺は咄嗟に美玲を抱き寄せた。
「ガッッッッハァァ……!」
後部座席にいた俺はトラックにぺちゃんこにされた。美玲はどうなったか...わからない。