冬の夜に
三題噺もどき―はちじゅうよん。
お題:深夜・冬・猫
「さむ……」
ぼそりと呟いた言葉は、白くなって夜空に消えた。
澄んだ空気が冷たく刺さる冬の夜。
1人、静かに歩いていた。
時間は、深夜の0時ぐらい。
もちろん、人なんて通るはずも無くて。
―この世界に1人きりのような心地がした。
知らぬ間に自分以外の誰もが居なくなっていて、気づいたら一人ぼっち。
そんな、よくわからない孤独感。
(まぁ、コンビニ行くだけなんだけど。)
私は、売れない作家をやっている。
何日かこもりきりでいたので、今日は、少し気分転換がてら外に出た。
「……」
久しぶりに歩いた気がする。
たまには、こうやって外に出ないといけないな、やはり…。
吐く息が白く染まり、空へと伸びていく。
「……さむぃ…」
寒気が襲い、コンビニへと足を急がせる。
:
「ありがとうございました〜!」
元気のいい、店員の声を背中に、外に出た。
店内が暖かかった反動で、外の寒さが先ほどの倍以上に感じられた。
「……」
(帰んの、めんどい……)
袋に入っていた、ホカホカの肉まん片手に歩き出す。
もう片方の手にはおでんの袋もある。
「……はふ、」
来た時と同じように1人、歩き進めていく。
そのたびかさかさとおでんの入った袋が、その存在を主張する。
帰れば食べられるぞと、帰宅の足を早める。
「……?」
アパートが見えてきた所で。
一つの箱を見つけた。
(行く時あったっけ……?)
そんなことを思いながら、箱に近づく。
その中からは、か細い鳴き声がひとつ。
今にも消え入りそうな、小さな声。
けれど、生きたいのだという強い意志だけは確かにある。
「ぁ…」
真っ白な猫が縮こまっていた。
(こんな寒い中捨てるなんて……)
「寒かろうに、おいで……」
なんて、言ってみてりして。
可愛そうになって、連れてきてしまった。
冷えていた体を温めてやったり、食べられそうなものをあげたりと、世話を焼いてやった。
それらがひと段落すると、猫は嬉しそうに、自分の居場所がここであると言うように。
私の使っている座布団に寝てしまった。
(図々しいな、こいつ……)
こういうのって、もっと警戒されるんじゃないのか…。
とは、思ったものの。
―まぁ、いっか。
とりあえず、ほんの少し冷えてしまった、おでんを食べることにした。
明日は、少しでも暖かいといいが。
この子も、病院に連れて行ったりしないといけないだろうし。