046 ワールドエンド
「お待ちください、陛下!!」
勇者を大罪人と呼び直してすぐさま捕らえるように命じた国王に異議を唱えたのは、拘束されていたはずのマルガリータだった。
国王の話に動揺した騎士が拘束の手を緩めてしまったのだろう。そのまま包囲網から逃走を試みることもできた筈の彼女は、鮮やかな巻き毛がまとまりなく散らばるのも顔に張り付くのにも構わず、勇者のための懇願を叫ぶ。
「レイは、勇者レインナートは、今まで世界を救うために、皆様をお守りするために戦ってきたのです! そのことに偽りはないはずです! どうか、どうかもう一度、お考え直しください⋯⋯!」
憐憫を誘う彼女の声色に、拘束し直そうと近づいた騎士の手が同情に揺れる。
しかし、国王はマルガリータの嘆願を一蹴し、きつく彼女を睨みつけた。
「黙れ! 誰だ、拘束を緩めたのは!?」
「もっ、申し訳⋯⋯」
「私は! 私が犯した罪から逃れるつもりはありません! 私は多くの人間を殺しました、私は大罪人でしょう。でも、レイ──勇者レインナートは違います! 彼が隠蔽したのも私が言いくるめたからで、彼は本当は知らなかったんです! だから⋯⋯」
「黙れと言っておる!! マルガリータよ、そもそも本来であればお前のような身分の者を城に入れる事もなかったのだ。今までそれを許してきたのは勇者の庇護あってこそ。弁えよ、これからは口を開くことも許しはしない!」
「っ陛下、お願いです、陛下⋯⋯どうか、どうかレイだけは!」
「もういいんだよ、マルガリータ。どうやら我らが国王陛下は本気のようだからね」
レインナートはそう言って、彼女に微笑みかけた。その全てを受け入れたような笑みにマルガリータが言葉に詰まる。
殊更に穏やかな顔をしたレインナートは、「陛下」と国王に呼びかけた。
「お気持ちはよく分かりましたよ。だが、陛下は今、女神の与えたもうた『勇者』を敵に回そうとしている。その覚悟はあるんでしょうね?」
「⋯⋯女神も、時にはお間違えになるということだろう。お前のような、人を弄び嬲る人間を我々は勇者と認めない」
「そうですか⋯⋯残念ですよ、陛下」
「私もだよ、レインナート」
静かに答えると、国王は右手で合図をし、国王を取り囲んでいた騎士達が一斉に武器を構える。
「アリス殿、ラズ殿、すまないがお前達の力も貸してもらえるかね?」
「あっ⋯⋯えっと、はい!」
アリソンはラズを見やり、彼女が頷くのを見てから返事をする。
そうして、騎士達に倣って剣を構えようとしたアリソンは、ふとラズの腰に下げられた剣に気が付く。見間違えるはずもなく、それはアリソンの剣、フランベルジュである。そういえば、王妃と会うのに武器を持って行っては仰々しいからとフランベルジュを部屋に置いてきていたのだった。
その置いてきたはずの剣が今ここにあるのは、きっと危機を察した彼女が持ってきてくれたのだろう。そう思ったアリソンは、勇者と騎士達が睨み合うのを横目に、疑うことなく「ラズ」と彼女に呼びかける。
「ありがとうございます、持ってきてくれて」
「? ⋯⋯ああ、フランベルジュのこと?」
「はい。⋯⋯あの、ラズ?」
返してもらおうと手のひらを差し出したアリソンだったが、いつまで経ってもラズは剣を渡してくれない。
首を傾げたアリソンに、ラズは横目で一瞥すると、
「返さないわよ」
と、言った。
何でもないことのように、涼しげな顔で真っ直ぐ前だけを見つめ直した彼女に、アリソンは聞き間違えかと思った。
「あ、あの、ラズ? 返さないって、なんで⋯⋯」
「火ならマッチがあるでしょ。アンタの剣だって飾りじゃないんだから、この剣じゃなくたったって構わないじゃない」
「で、でも、」
どうして急に、そんなことを。
困惑しきったアリソンに、けれど考える時間は与えられなかった。双方とも睨み合ったまま動かない状況に痺れを切らした国王は王妃と王子を下がらせると「突撃せよ!」と号令を降し、周囲の騎士たちが勇者に向かって走り出す。彼らが動き出したと言うのに、アリソンだけが突っ立っているわけにはいかない。
出遅れたながらも地面を蹴ったアリソンは、勇者が不敵に笑いながら、剣を持っているのとは反対の手を前にかざすのを見た。──来る。その場で踏ん張ったアリソンの前で、駆け出して行った騎士たちが弾かれたように飛んでいく。
「無詠唱の魔術か! 一体何の⋯⋯」
「魔術? ははっ、ただの防壁魔術だよ。この程度で吹き飛ばされるような人間に、魔人が殺せるのかい? 考え直すなら今ですよ、陛下」
「う⋯⋯っ、い、いいや! 見よ、アリス殿もラズ殿も立っておる! お前の手など借りなくとも、我々は魔人に勝ってみせる! それにこちらには人質がいるのだぞ!?」
そう叫ぶと、国王は最も近くにいた護衛の騎士に、首に剣を当てられたマルガリータを盾のように自分の前に引きずり出させた。
「お前が抵抗を続けると言うのなら、この女の指を一本一本折っていっても構わんのだぞ!?」
国王の言葉に、再び拘束されたマルガリータが必死の形相で首を振る。それは助けを求めるためではなく、レインナートに「従うな」と言っているのだ。レインナートも彼女の意図を正しく理解したのだろう、ますます笑みを深くした彼の目は、ちっとも笑っていない。
マルガリータが身を捩るのが邪魔だったのだろう、近くの騎士が何かを唱えると、マルガリータの身体は力をなくして倒れ込む。恐らく、他者を眠らせる魔術か何かだ。
しかし、彼の行いはレインナートにとっては許せないことだった。まるで女神の逆鱗に触れたかのような、圧倒的な殺意と憎悪がレインナートから押し寄せてくる。
「ははっ! 正義面しておきながらやっている事はその辺の悪党と変わらないじゃないですか、陛下? ああ、どうしたんです、そんなに怒って。息子の仇でも討つつもりなのかな?」
「だったらどうした!? 私とてひとの親だ! 親だったのだぞ!」
「今更かい? 陛下だって一度は目を瞑り、口を噤んだんだろう? 俺が大罪人だとしたら、あなたはその罪を見逃した傍観者、いや共犯者だ。分かるかな、つまり同罪なんだよ。罪の意識から逃げたくなったって、もう遅いのさ!」
「こ、この⋯⋯っ! 何をしておる、早く此奴を捉えよ!!」
再び騎士達がレインナートを取り囲むが、今度はすぐに吹き飛ばされる事は無い。何故なら、国王がマルガリータを人質にし、騎士にその手を今にでも折れるように掴ませているからだ。
レインナートが仲間を見捨てられないことは火を見るより明らかで、その事実はアリソンに少なからず動揺を与える。
だって、違う。違うはずだ。
家族を殺し、イグニスを痛めつけてじわじわ殺し、ジョアンを操った彼が、仲間の身を案じるような心の持ち主であるだなんて。
ふざけるな。心があるのなら、だったらどうして。
気づけば、アリソンは国王と勇者の会話を遮って、「どうして」と口に出していた。
「どうして、私の家族を殺したんですか」
訝しむような国王の反応に、そういえば彼らには話していなかったと思い出す。だけど彼らの反応なんて今はどうでもいい。隣にいるラズも自分の頬を流れ落ちるものも今は意識の外にあって、アリソンはただレインナートだけを見ていた。
両親と弟を殺した男。イグニスを酷い嬲り方で殺した男。村を焼き払った男。ジョアンの心を壊した男。人質にされた仲間を助けようとしている男。
どうしてあなたは。
「どうして、仲間のことをそんなに大切にできるのに、私の家族を殺したんですか。どうして、誰かを思いやる心を持っているのに、他の誰かを平気で傷つけられるんですか⋯⋯!」
アリソンの問いに、レインナートは首を傾げる。
「君の家族を、俺の仲間と同列で語らないでくれよ」
「⋯⋯は、」
「片田舎の人間の命が、俺の仲間たちと同じなわけがないじゃないか。国王の息子だって同じさ、女神に選ばれた勇者である俺の道を阻んだんだ、退場するのは当然だろう?」
当然のことのように、どうしてそんな簡単なことが分からないのかと言うように、レインナートは語る。
それを聞いて、アリソンは、一瞬でも彼の仲間を想う姿に自分たちを重ねてしまった事を恥じた。彼は本当に、自分が「仲間」と認識した一部の人間以外の人の痛みなど、どうだっていいのだ。仲間を案じることと、他の誰かをまるでゴミみたいに扱うことは、彼の中で両立してしまう。
アリソンは思い出す。聖都で聖女のヒナコを殺そうとした時、彼女を守ろうとする少年ルークの姿に、ヒナコもまた誰かの大切な人間なのだと知った時のことを。あの時アリソンは自分の剣の重みを知ったが、レインナートにとってはそんな重みなど、世界のどこにも存在しないのだ。
「諦めなさい。コイツを理解しようだなんて、無駄なのよ」
「そうですね⋯⋯ごめんなさい、ラズ」
涙を拭い、アリソンはレインナートに向けて剣を構える。
彼を殺さなければ、アリソンとラズに旅の終わりは終わらない。例え、いつかの安寧をこの手に取り戻せなかったとしても、この男を生かしたままにはできなかった。
「私の家族と、イグニスさんのために──ここで死んでください、レインナート」
「ははっ! 殺していいのかい? 陛下は俺を捕えろと言ってなかったかい? まあでも仕方ないか、実力の差も忘れるような物覚えの悪い村娘なんだからな」
睨み合った次の瞬間、レインナートは徐に聖剣を持ち上げると、そのまま自らの心臓に突き立てた。
「──ッだめええぇっ!!」
なんてことをするのだ。私が殺す前に自分で勝手に死ぬだなんて、そんなの許せるわけがない。
制止しようと駆け出したアリソンの前で、レインナートが勝ち誇ったような笑みを浮かべて、そして。
「女神よ、今こそあなたの力を見せる時だ! あなたの選んだ俺を否定する間違ったこの世界を、共に創り直そう──!」
ごぽり、と口から血を吐き出しながら勇者が高らかに、歌うように告げる。
刹那、眩い光が世界を包み、その眩しさに誰もが目を瞑った。視界が閉ざされ、音が消え、血と草の匂いが最後に残って。
そうして、全ての感覚が消えて、無に染まった。
◇◆◇
最初に戻ってきたのは、触覚だった。
頬を撫でる風の感覚が戻り、ついで匂いが感じられ、音が聞こえるようになる。
どくどくと、不気味に加速する脈動を感じながら目を開けた時──そこには誰もが知る「勇者レインナート」の姿はなかった。
健康的だった肌は暗い土気色に。
橙色の髪からは色素が抜け、グローブを突き破り一回り大きくなった手からは異形の爪が伸び。
耳の上あたりからはねじ曲がった黄金の角が2本、頭を貫いたように生えて。
口の端や肌の至る所がひび割れ、そのひび割れの間からは、聖剣で斬られたラズの頬の傷のような黒い夜空の色が覗き。
そして、何よりも目を奪うのは巨大な七色に輝く翼。新たな姿を祝福するように広げられたそれは、光を反射しこの上なく美しく煌めいている。
春の木漏れ日のような瞳以外にレインナートの面影は無く、しかしその神聖さと禍々しさの同居した姿に、本能で理解してしまう。これこそが女神の選びたもうた勇者の、行き着いた姿なのだと。
神々しく、近づき難い、畏怖すべき存在だと刻み込むようなその存在感をその場にいる全員に刻みつけながら、竜は大きく咆哮を上げる。
「れ、レインナート、さま⋯⋯?」
震える声で、騎士の誰かが呟く。
人間ならざる存在に成り果てた勇者の姿に誰もが言葉を失い、ただ茫然と彼を見つめる。
「⋯⋯ふうん? こんなものか」
少しくぐもった声で感慨なさげにぼやいたレインナートの瞳が、目前で立ち尽くしている人間達を捉えて妖しげに光る。
「ッくるわ、逃げて!!」
茫然自失の状態からいち早く目を覚ましたのは、ラズだった。彼女の言葉にアリソンは我に返り後方へと退避し始めるが、誰もが反応できたわけではなかった。国王の指揮を仰ぐ騎士達が統制のとれた状態に戻る前に、レインナートの胸元でコアとなった聖剣だったモノが光り、渦巻き出した空から雷鳴が降り注ぐ。
目視できる程度の速度だったため、ほとんどの騎士が咄嗟に反応できたが、反応の遅れた何人かは雷鳴が触れたその瞬間に消し炭と化した。黒い人型にえぐれた地面が、その威力を伝える。
「ら、ライトニングか!? それなら防壁で──」
「馬鹿、そんな単純な雷の魔術と一緒にするな!」
「陛下、陛下! 一体どうすれば、」
混乱する騎士達に、レインナートが微笑む。
それはアリソンが今まで見てきた彼の笑みの中で、最も慈愛に満ちていて、そして最も邪悪な笑みだった。
「哀れな君たちに慈悲を。──サルヴェイシェン・ジャッジメント!」
詠唱と共に空の渦巻きが弾け、そして、無数の光の柱が地面に落ち、触れたものを端から消し飛ばしていく。防壁を展開した者も、その防壁ごと砕けて死んでいく。
だが、そうやって瞬時に女神の元へと旅立てた者はまだ幸運であった。半身を消し飛ばされた者や、足を消し飛ばされた者たちは、苦痛に呻きながら地面を這っている。流れ出るはずの血が流れないため、失血死することもできずに痛みに悶えるしか無いのだ。
「う、うわぁああああ!! く、くるなくるなッ、き、来たらこの女を──ぐふっ!!」
マルガリータを盾にしようとした男が、レインナートの異形の手によって押し潰される。
地面に降り立ったレインナートは、ぐったりとその場に倒れたマルガリータに対して嬉しそうに言う。
「やあ、迎えにきたよ」
そして、今しがた人を押し潰したばかりの血と肉片に塗れた手で、彼はマルガリータを迷うことなく抱き上げる。
そう、レインナートの目的は仲間を助けることだった。目の前の惨状に退避を始めた国王や、死んでいく騎士達など始めから眼中になかった。ただ邪魔だから、ついでに死んでもらっただけだ。
しかし、マルガリータを助けてなお、彼の動きは止まらない。彼の咆哮ひとつ、地鳴りひとつで人々は容易く血を流し、裁きのように落ち続ける雷鳴の魔術に中庭が混乱と絶叫に塗れていく。
「お母様!」
「フィリップ、おやめ! 立ち止まってはいけません、走って! 走るのです!」
子供の悲鳴に、アリソンは反射的に振り向く。そこには、躓いて地面に倒れた王妃と、彼女を必死に立ち上がらせようとするフィリップ王子の姿があった。
アリソンが彼らの状況に気が付いたのとほぼ同時に、羽ばたきの音が近くなる。レインナートも彼らに気づいたのだ。
マルガリータを抱えたまま、彼は低空飛行で近くの騎士達を薙ぎ払いながら飛んでくる。彼が王妃達の前に降り立つよりも早く、アリソンは彼らの間に炎の壁を作り上げた。
「大丈夫ですか!? ここは任せて、早く中へ!」
「あ、ありがとうございます、アリスさん! 夫はもう地下に避難しています、あなたも早くいらしてください!」
走っていく彼らをレインナートは追うことはせず、緑の目を細めてアリソンを見ていた。もしかしたら笑っているのかもしれない。
「ははっ、それでこそだね。一度見逃してあげた甲斐があったよ」
「⋯⋯やっぱり、わざと私とラズを避けたんですか」
「もちろんさ。お楽しみは最後に取っておかなくちゃつまらないからね。⋯⋯あ、そうそう、これも忘れちゃいけないな」
キィィン、とレインナートの胸元のコアが光を放つ。また光の柱を落とすつもりかとアリソンは警戒して距離を取る。だが、それは違った。
次の瞬間、地鳴りと、天を切り裂くような咆哮と共に大きな羽音がそこかしこから聞こえ出す。大きく目の前に落ちた影に顔を上げると──無数のワイバーンが空を飛んでいた。
「あれは⋯⋯魔物?」
「いやいや、女神の使いと言って欲しいね。⋯⋯さて、ここにはもう用はないから俺は行くよ。王都陥落なんて見ても面白くないし、俺はもっと各地を回りたいなぁ」
「そんな簡単に行かせるとでも?」
「行かせるしかないだろう? 君が彼らを助けたいのならね」
レインナートの言葉に、アリソンは言葉に詰まる。
雷鳴が止んだ代わりに出現したワイバーン達に、周囲はさらなる阿鼻叫喚に包まれていたのだから。
「君がどこぞの昆虫の如くしぶとく生き残れたなら、せいぜい俺を追ってくるといい。その時こそ、君を終わらせてあげよう。俺はね、ケーキの苺は最後に食べる主義なんだ」
「待っ──!」
ふわりと宙に浮いたレインナートは、置き土産とばかりに雷鳴をひとつ落とすと、瞬く間に空高く飛びその手に抱えたマルガリータごと見えなくなってしまう。
残されたアリソンは雷鳴を炎で切り裂き、戦場と化した中庭を走り出す。口を大きく開けたワイバーンが吐く炎で逆にワイバーンを包み込み焼きながら駆けていくが、すぐにそれではキリがないことを悟る。次々と中庭に降り立ってくるワイバーンたちは、空にまだ何百何千と飛んでいるのだ。倒しても倒しても増援が現れてしまう。こんなことをいつまでも続けられるはずがない。
「誰か、助け──」
「こっちも手伝ってく──」
「アリスさ──」
「助け──」
「嫌だ、まだ死にたくな──」
周囲の声が途切れ途切れに聞こえる。一体、この中庭だけで何体の魔物がいるのか、途中から数えることは放棄していた。
苦戦している騎士を助け、負傷者を逃がして。倒れていく誰かの死体を踏まないようにすることすら難しい地獄絵図の中、とにかく目の前のできることを繰り返しているうちに、ようやくアリソンは自分が探していた人物を見つけた。言うまでもなく、ラズと、そしてジョアンとミゲルだ。
他よりも一際大きいそのワイバーンは、明らかに弱っているジョアンを執拗に狙っていた。ジョアンを背負ったミゲルを逃がそうとしているらしいラズが、ワイバーンの注意を引くためにその巨体に飛び乗り、翼に短剣を突き刺す。身を捩ったワイバーンは咆哮をあげながら飛び立つ。
「ラズっ!!」
「アリソン、君の仲間が、」
「分かってる! ミゲルさんは早くジョアンを連れて中に!」
手短に答え、アリソンは新たにつけたマッチの火から竜を練り上げる。だが、その炎の竜がはるか上空まで飛んだワイバーンを焼き尽くすよりも前に、最後の抵抗とばかりにワイバーンが大きくその身を振り回し、ラズの身体が大きく吹き飛ぶ。その先には、崩れかかっている城の尖塔。あんな高さから叩きつけられたら人間なんてひとたまりもない。
顔を青ざめたアリソンは、できうる限りの速さでラズの落下地点まで駆け上がっていく。だけど、このままではどちらにせよラズが塔に叩きつけられて死ぬか、アリソンがクッションになって叩きつけられて死ぬかの2択しかない。
残された僅かな時間の中、落ちてくるラズと目が合う。
その目を見た瞬間、アリソンはどこかで重たい門が開く音を聞いた。身体を引きずられる感覚に、アリソンはラズに手が触れるその時まで抗う。
あと3秒、2秒、1秒──
今だ、と思ったその瞬間アリソンは抵抗してくるラズの身体を強く抱き抱え、暗がりへと引き摺り込む感覚に身を委ねて、意識を手放した。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
これにて長かった王都編も終わりとなります。少々急展開でしたが、引き続きアリソンとラズの物語にお付き合い頂けると嬉しいです。
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