幕間 彼女の決意
ラズとアリソンが静かな住宅地を抜けて大通りに出る頃には、遠くの方で雷鳴の音が響き出しており、まばらにすれ違う誰もが足早に通り過ぎていく。
真っ暗な空はまるで自分の髪色のようだとラズは思った。黒くて禍々しい、陽の光を覆い隠す色。
空を引き裂くように雷が光り、すぐ近くを見知らぬ誰かが走り抜けていく。雨が降る前に、彼らは目的地に辿り着けるだろうか。
自分達も急がねば雨に濡れてしまうと、いつも以上にぼんやりした顔のアリソンの腕を引っ張って、ラズは大股で通りを小走りで進む。時折振り返ると、されるがままになっているアリソンがそこにいた。
じめじめとした空気の中、なんとか王宮に、そして自分達に分け与えられた一室に辿り着く。
ラズの努力も虚しく、結局途中で雨に降られてしまったせいで、水が身体に張り付いて気持ちが悪くて仕方がない。前髪からポタポタと落ちる水滴を手で乱雑に拭ったラズに、アリソンが無言でタオルを差し出す。濡れ鼠のようになった自分達の姿に驚きながらも、メイドがタオルを取ってきてくれたのだ。
メイドが部屋を出ていくと、部屋の中はしんと静まり返る。
最初に口を開いたのは、アリソンだった。
「すみません、寄り道させて」
じっと、食い入るように自分の足先を見つめている彼女からポタポタと雫が溢れ落ちる。それが雨粒でないことは明らかで、ラズは自分の中で一番柔らかい声で「アリソン」と彼女の名前を呼ぶ。両手で頬を挟み、顔を上げるように促す。
軽く口端が痙攣するように引き攣ったアリソンは、生まれて初めて転んだ子供のような、とても弱々しい顔をしていた。
「えっと、これからどうしましょうか。勇者のいる区間は立ち入り禁止だし、どうやって忍び込むか考えないと」
「アリソン、焦らないで話を、」
「ああ、それともその前にトマスさんを殺した方がいいですか? 大丈夫です、私ちゃんと──」
「アリソン!」
思わず言葉を遮ると、びくりと肩を振るわせたアリソンは、大きな瞳からぼろぼろと涙を溢しながらラズを見つめてくる。
空に浮かぶ星に道標を求める旅人のように、こちらに縋りつく色をした眼差しに、冷や汗が背筋を伝う。
「少し落ち着きなさい、アリソン。大丈夫だから」
「大丈夫って、何が」
「あなたの心配していること全部よ」
「⋯⋯ラズってば。なんですか、それ」
根拠のない慰めで場を繋ぐと、アリソンはおかしそうに首を傾げたのち、目を閉じてこちらに身を預けてくる。
子猫が甘えているような、あるいは庇護を求める赤子のような仕草に、口の中が乾く。
そんな簡単に信じるなと言ってしまいたい。あたしは信じるに値するような人間じゃないと、感情のままに叫んで突き放して。けれど言えない。今ここでラズが拒んだら、きっと目の前の少女の心は折れてしまう。
人々を守る英雄であるはずの勇者に家族を殺され、平穏を奪われ。そして今、平穏の象徴であったはずの幼馴染とも戦う可能性が出てきたとなれば、参ってしまうのも当然のことだろう。加えて、アリソンはラズとは違い、流されるようにして復讐の道に入ってしまったのだから尚更だ。
自分の肩に寄りかかるアリソンの灰色の髪を手慰みに透きながら、ラズは考える。
ジョアンの家から出た時の様子から察するに、アリソンは幼馴染の父親を殺すことについては割り切れるだろう。けれど、問題はその幼馴染本人への情は捨て切れていないことだ。
彼女は苦悩するだろう。迷うだろう。あまつさえ、剣を振り切れずに父親を殺された幼馴染の反撃によって死んでしまうかもしれない。
ならば、どうすればよいのか?
簡単だ。
ジョアンのことはラズが殺せば良い。
自分にとって彼女は見知らぬ他人で、こちらの命を脅かす可能性がある人間でしかない。だから殺せる。それは純然たる事実だ。
例え、それでアリソンが自分から離れたとしても。幼馴染を殺したラズのことを恨んだとしても。彼女が死んだり、あるいは親しい人間を手にかけることで心が折れるのよりは、その方がずっといい。
うん、そうしよう。それがいい。
考え込んだ割にはあっさり導き出された結論に、ラズは天井を見上げる。こんなにもすっきりした気持ちなのに、一抹の寂しさが胸をよぎるから、自嘲を浮かべるしかない。
──ひとりになるのが寂しい、だなんて。自分にまだこんな感情があっただなんて、どうして笑わずにいられよう。
離れて行ってくれるのであれば、それだって本望だろう。それこそが今は亡き最愛の人の遺志でもあるはずだ。彼のために勇者の前に立ち塞がった、勇敢で哀れな村娘。復讐すると言いながら迷いが浮かぶその背中を、復讐の道から平穏な暮らしへと突き放すことができたのなら。
そのためならこんな寂しさなんて、手のひらで握りつぶして砂にして踏みつけて歩いてやる。
元々、ラズにはもう失うものなんてないのだ。勇者レインナートを殺すためなら、幾千幾万の同胞を殺したって構わない。世界の憎悪を引き連れて、血まみれの道を歩く覚悟はとうに出来ている。
そうだ、もう失うものなんて何もない。
何もなかったのに。
「ラズ? どうかしたんですか?」
首を傾げたアリソンの、灰と赤の混じり合う瞳に見つめられて、一瞬息を呑む。
喉を突いて出そうになった感情を噛み殺し、ラズは「なんでもないわ」と微笑んで見せる。
「さてと。いつまでも濡れた服のままじゃ気持ちが悪いでしょ、さっさと脱いじゃいましょ」
「あっ、はい。それもそ⋯⋯、ってちょっと、ラズ!? な、なんでこっちを向いたまま服を脱ぐんですか!? せめて向こうを向くとか、あの、そういうのはないんですか!?」
「何よもう、別に真っ裸になったわけじゃないんだから。下着は着てるでしょ?」
「しっ、下着だからじゃないですかっ!??」
真っ赤になった顔を覆ったアリソンが、悲鳴をあげて反対側を向いてしまう。
その反応が面白くて、黒い下着とガーターベルトだけになったラズはアリソンの背後に近づくと、するりと手を絡める。
「ちょ、ちょっと、ラズ!? ふ、服っ! 服を着てください! 風邪ひいちゃいますっ!」
「どうせ暖炉で部屋は暖かいじゃない。風邪なんてひかないわよ、安心して?」
「で、でも⋯⋯あ、あのっ、近いですってばぁ!」
くすくす笑いながら戯れていると、ふいに扉がノックされた。
ラズが扉に向かおうとすると、アリソンが必死になって押し留めてくる。
「そ、その格好じゃだめ! 私が行きますからっ!」
「別に顔だけ出せば⋯⋯」
「いいから待っててください! あと、服! 着てくださいっ! 絶対!!」
「ふふっ、はぁい」
首まで赤くなった彼女がそそくさと扉に向かうのを、ラズは笑って少し離れたところから見送る。
少しからかいすぎてしまったかもしれないが、彼女を覆っていた暗澹としたものが一時的にでも晴らせたなら良い。言われた通り替えの服を身につけたラズは、ベッド脇に置かれたフランベルジュを見やったのち、扉の向こうに耳を澄ませる。
「アリソン様、ラズ様。伝言をお預かりしております。中に入ってもよろしいでしょうか?」
「え、ええっと⋯⋯はい、大丈夫です!」
振り返ったアリソンは、ラズがちゃんと服を着ていることを確かめてから承諾の返事を返す。
招き入れられたメイドは髪をきっちりと纏めていて、真面目そうな印象だ。以前ラズを襲撃しようとしたメイドとはだいぶ異なるタイプに感じる。
「わたくしは侍女のケリィと申します。先日フィリップ殿下がお世話になった件で、ラスタ様が直にお会いしたいと仰っております。明日の昼頃に改めて迎えに来ますので、どうかラスタ様とお会いしてくださいませんか」
「ラスタ様、って⋯⋯」
「お妃様ね」
確信が持てていない様子のアリソンの呟きに、ラズは肯定を返す。
それにしても──侍女とはいわゆる上級使用人の一人で、女主人の側仕えであり、他のメイドたちの筆頭とも言うべき存在だ。ただのメイドではなく、そんな人物を直々に寄越すとは。「お会いしてくださいませんか」と提案の形をとっているものの、これは国王陛下からの晩餐会への招待と同じように、断るという選択肢は無いと考えて良いだろう。そして肝心のラスタ妃の用件は恐らく、アリソンがフィリップを通じて手渡した、あの精神操作を阻害する首飾りの件だ。
納得したラズは、アリソンに視線を向ける。少し戸惑ったような顔をした彼女は、血色も良く、思い詰めた様子も──まあ全くないわけではないが、一旦頭の片隅に置けてはいるようだ。
「わかったわ。お会いできるのを光栄に思うとお伝えしてくれる?」
「かしこまりました。⋯⋯それからお二方とも、この件はくれぐれもご内密にお願いいたします」
最後にそう念を押すと、ケリィは深く礼をして部屋を出ていった。
扉が閉まり、彼女の足音が完全に聞こえなくなってから、アリソンがこちらを振り返る。
「お妃様、って国王陛下の奥さんってことですよね?」
「ええ。つまりこの前、あなたが誘拐してきたフィリップ殿下のお母様という事になるわね」
「ゆ、誘拐なんてしてませんってば! もう、ラズってば今日はどうしたんですか? いつも以上にからかってくるじゃないですか」
「あら、あたしは元からこういう性格よ?」
悪戯に微笑むと、言っても無駄だと分かったのか、アリソンがため息をついて話を戻す。
「それにしても、どうしてフィリップ⋯⋯殿下のお母さんが急に私たちに会いたくなったんでしょう? この間の晩餐会だって来たのは王様だけで、お妃様は体調がすぐれない、とかなんとか言ってたのに」
「そんなの、この前あなたがフィリップを通じて渡した首飾りの話に決まってるじゃない」
「ああ、そういえば⋯⋯。ということは、何かあったんでしょうか?」
「その可能性はあるわね。勇者に接触されて、首飾りが効果を発揮して、それで息子を問いただしたらあなたの名前が出た、とか。そんなところじゃないかしらね」
ラズの説明に感心したように「なるほど」と相槌を打つアリソンを、ラズはひとしきり眺めるとベッドに倒れ込むように座る。
「ともあれ、考えても仕方ないわね。明日になったら分かるでしょ」
そう言って隣を軽く叩けば、意図を察したアリソンが疑いもせずに腰掛けてくる。
アリソンがラズのことを信頼しているのは、雛の刷り込みのようなものなのだろう。初めに目にしたから。弱っている時に傍にいたから。彼女の置かれた状況を考えれば無理のないことで、だからラズもそれを指摘することなく、望まれる役割をこなしてきたつもりだ。
それにラズにとっても、当初アリソンは「亡きイグニスが最期の力を振り絞って救った人物」でしかなかった。イグニスの遺志のため、彼女を守らなければならない──そんな思いでアリソンの傍にいたのだから、それは優しさでもなんでもなく、ただの義務感だった。
だけど、雛は殻を破ってひとりで歩き出すもので、そしてラズにとっても、アリソンはもう「イグニスが助けた人物」だけではない。確かに、イグニスが助けなかったら、きっとアリソンと旅をすることはなかった。だけど、もう義務感なんて言葉では説明がつかない感情が芽生えているのを認めないわけにはいかない。
いつからかこの目は、正しく目の前にいる「アリソン」という一人の少女を映していたのだ。
だから。
「そうですね、明日になったら⋯⋯」
アリソンがぼんやりと、覇気のない声で呟く。
そう、明日になったら。
そしたら──
安心しきって身を預けてくるアリソンの温もりに、ラズはまたひとつ、感情を噛み殺す羽目になった。
◇◆◇
一方その頃。
アリソンとラズのいる部屋から程遠い、勇者一行に与えられた部屋のひとつで、レインナートは苛立ちを隠すことなく立ち尽くして洗い息を吐いていた。
見るも無惨に打ち砕かれた調度品、倒れた鉢植え、割れたガラスに目もくれず、男は靴の爪先で床に横たわるメイドを蹴り飛ばす。
「レイ、そのぐらいにした方が良いんじゃないかしら。⋯⋯その子、もう反応がないわ」
部屋の状態は、レインナートの心の荒れ具合を表しているかのようであり、それは普段であれば制止の声などあげないマルガリータが止めに入るほどであった。
倒れたまま痙攣するメイドから視線を上げた彼は、仲間であるマルガリータの姿を目に留めると、その荒んだ瞳に少しだけ穏やかさを取り戻す。
「珍しいね、君が俺にそんなことを言うなんて」
「それは⋯⋯」
「俺も君の気晴らしには口を出したことがないんだから、好きにさせてくれよ。『コレ』を処理する奴隷商人も、もういないんだからさ。自分で処理する手間を考えれば、このぐらい許されるだろう?」
コレ、と無機物を指すかのように無感動な仕草で、レインナートは足元の少女を指差して笑う。
常日頃の温厚な口調で善人らしい微笑を浮かべているものの、男の苛立ちは隠せない。苛立ちの奥の、僅かな恐れも。
「⋯⋯ねえ、レイ。何があったのか、話してみてくれない? あなたはいつも自分は勇者だからって一人で抱え込んでしまうけれど、話すことで楽になることもあると思うの。もちろん無理にとは言わないけれど⋯⋯」
「マルガリータ」
遠慮がちに、けれど彼の心に寄り添おうと言葉を紡いだマルガリータに、レインナートは即座に遮るように名前を呼ぶ。
いつものように穏やかに、仲間に対する親愛を込めて。
けれど、それは紛れもない拒絶である。これ以上踏み入ってくれるなと、牽制を込めた言葉に、マルガリータは息を呑む。
「俺は大丈夫さ。それより、少し考えたいことがあるから一人にしてくれないかい? ああ、ついでに床に転がってるアレも目障りだから連れ出してくれないか? どこかに安置だけしておいてくれれば、後で俺が自分で処理するからさ」
「っ、それは⋯⋯。⋯⋯いえ、分かったわ。あまり思い詰めないでちょうだい」
にこりと微笑んだレインナートにそれ以上何も言えず、マルガリータは反応のないメイドに肩を貸し、なんとか立たせて部屋を出ていく。出ていく前に一度だけ気遣わしげに振り返った彼女に手を振り、その背中を見送ったレインナートは、深く息を吐き出すと一人掛けのソファに腰を沈め、天井を仰ぐ。
──失敗した。
レインナートは床に転がっていたメイドの姿を思い出して、舌打ちをする。
ドワイトが死んだ時、あまりに気が滅入っていたレインナートは、魅了で引っ掛けたメイドに、思わず言ってしまったのだ──「ドワイトを殺した身の程知らず共をどうにかして欲しい」、と。それを聞いたあのメイドは、何を思ったか、国王の開催する晩餐会に毒を盛った。それでも成功すれば良かったが結果は失敗。国王の猜疑心を刺激してしまっただけに終わった。
しかし、それを受けてレインナートは思いついたのだ。メイドに、あの身の程知らず達を襲撃させよう、と。
もちろん何の訓練も受けていないメイドが成功するとは思っていない。身の程知らずの少女共は勇者である己と比べれば当然のごとく雑魚でしかないが、それでもその辺の素人に殺されるほど弱くはないだろう。
つまり、メイドは返り討ちになる。それこそがレインナートの目的だった。
レインナートとしては、仲間であるドワイトを殺したあの二人の名も知らぬ少女をさっさと殺してしまいたかった。しかし、彼女らは国王の来賓という扱いを受けており、しかも闘技場で暴走するドワイトから国王を救ったという功績までぶら下げている。
いくら己が勇者であっても、国王の来賓であり、英雄の如く祭り上げられた彼女らを始末しては面倒なことになるが、であるならば、彼女らが英雄でなくなればいいのだ。例えば、哀れなメイドを惨殺する、とか。
メイドが彼女らを襲った証拠は、魅了をかけた人間に隠滅させれば良い。とにかくメイドが行動に移せばそれ良いはずだった。
それなのに、メイドは何もせずに帰ってきたのだ。
どころか、レインナートに言いつけられた全てを忘れていた。
明らかに何者かに精神に干渉する魔術を受けたとしか考えられない様子に、レインナートは怒りを彼女にぶつけ、そして今に至る。
メイドに術をかけたのが何者かなど、考えなくてもわかる。あの身ほど知らずの、英雄殺しの少女たちだ。しかもメイドが掛けられているのは難度の高い洗脳などではなく、ただの目くらましに過ぎないことが余計にレインナートを苛立たせた。
選ばれし勇者である自分が、目くらましなんて初歩的な術に翻弄されたことが気に食わなかったのだ。
再び、深く重苦しい息を吐いたレインナートは、虚空を見つめる。
「どうして、俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ⋯⋯?」
思わず口をついて出たのは、純然たる疑問の声だった。
レインナートには、己が勇者すなわち選ばれし英雄の自負があった。女神に愛され、この世界を守るために生まれてきた自分を誇りに思い、その使命を当然のものとして遂行してきたつもりだ。
なのに、ここにあるものはなんだ。
恋人のラファエラは死に、いつか分かり合えるはずだったセネカも死に、かろうじて生命を繋いだドワイトも死んだ。
未だ生きている仲間はマルガリータと聖女ニーナだけだが、ニーナはすでに仲間であるか怪しい。聖都の実権が大司教からニーナの手に渡った今、レインナートの魅了が効かないあの少女はもうレインナートの手のひらに収まってはくれないだろう。
女神に愛され、選ばれたはずの自分が何故、仲間を悉く失っているのか。
強くなったはずだった。愛する少女を守れなかった後悔、己の理想のせいで道を誤った怒り、それらを原動力に自分は覚醒したはずだ。魔人を殺し、仲間を増やし、正しく世界を守るために努力を続けてきたと言うのに。
それなのにどうして、俺がこんな理不尽な目に遭わなければならないのか。
悔し涙すら滲んだその時、扉がノックされた。
「マルガリータ? ごめん、もう少しだけ時間を⋯⋯」
「っ、勇者様⋯⋯!」
扉の向こうにいるのが仲間だと疑いもせずに出たレインナートの予想に反して、そこにいたのは茶色い髪に柘榴色の瞳をした、年若い少女の姿だった。
「あれ? 君は確か⋯⋯」
「アタシ、大事な話があって来たんです! お願いします、どうか聞いてください⋯⋯っ!」
少しだけ見覚えのある少女の来訪に目を丸くしていると、少女はバッと勢いよく頭を下げる。握られた拳が震えており、その様は憐憫や庇護欲、あるいは嗜虐欲を掻き立てるものだった。
レインナートはいつもの笑みを顔に貼り付けると、「もちろんだよ」と言って少女の肩に手を置き、顔を上げさせる。
「さあ、良かったら中に入って。君の話をゆっくり聞かせてくれ⋯⋯ああ、そういえば君の名前は?」
レインナートは少女の腰に手を回し、中に入るように促しながら、少女の上にかつて愛したラファエラの面影を探す。例えば高い位置に結んだ髪、例えば意志の強そうな瞳⋯⋯。
そんなレインナートの心の内など知る由もない来訪者の少女は、緊張した面持ちで、けれど胸を張って口を開く。
「アタシは、ジョアン。ドルフ村のジョアンです」
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
次回更新日ですが、私用にて少しお休みを頂きます。
次回更新日:3/18予定




