母違いのお姉さま、義理の母、優しくて幸せと家族の愛全てを信じていた自分がおろかだと知ったのは、自分が聖女に選ばれ、王太子の婚約者になることが決まってそして婚約破棄されてからでした。
「泣くな…」
たとえ世界がすべて終わったとしても…。
私は今まで信じていた家族の愛がすべて虚構だと知ったとき、復讐をすることに決めたのです。
魔力がすべての国、フォールゲン。私はそこで貧しい家の娘として生まれました。
母は独身でありながら、私を生み、病で…もう命がないと知ったとき、私に首飾りを与えて、自分が死んだらフォード伯爵のお屋敷に行くように伝えたのです。
私は母の死後、紋章入りの首飾りを持ちフォードの家に行って…そこの娘であると認められたのです。
スキル、魔力…それがすべてのこの国では私生児といえども魔力持ちは貴重。
婚姻の手ごまとしても使える。
それを知ったのは後のこと…。
「まあかわいい」
「サーシャのお古だけどピッタリね」
私は継母であるはずの正妻と母違いの姉にとてもやさしくされました。
寝床に食べ物、自分の部屋さえ与えられ、衣服にも不自由がなく…。
父という人は一度顔を見ただけでしたが、私は10歳にして何不自由ない暮らしを知ったのです。
今日食べるパンさえ困らない。盗まなくていい。とても嬉しかった。
「…婚約者ですか?」
「神が決めるの、この国は魔力の結びつきを深くするためにすべてが神が決めてくださるのよ」
神託式により貴族の婚姻が決まる。
私は13歳の時神託式に姉と参加し、すべてがそこから狂いだしたことを思い知ったのです。
「聖女のスキルとは珍しい!」
13歳にして初めてスキル判定を受けた私は聖女のスキルがわかり…神殿に引き取られることになりました。
両親は喜んでくれました。そして運命の相手は16歳にしてわかるという神託が下ったのです。
姉の婚約相手はフォーリンゲン伯爵の次男で、まあまあいい人で良かったと姉がほほ笑んだのを覚えています。
神殿に行ったとき、伯爵の娘であるのに来ているものがあまりにも粗末だと驚かれました。
確かに他の貴族の行儀見習いのお嬢様たちはいいお洋服を着ていましたが、私生児の私ですもの仕方ないと思いました。
「あなた、家の用事を使用人でもないのにやらされていたの?」
「でも私は庶民出身なので」
「でも…」
同じく庶民の私生児であるマリアンヌが私の言葉に驚いていました。私は家の家事一切をハウスメイドでもないのにしていたというとすごく驚いていたのです。
しかしあなたがそれで満足しているのならいいかとマリアンヌが笑ったのです。
その笑いの意味がわかったのは…数年後のことでした。
「…聖女、ルーリア、あなたの婚約者は、王太子、ルーズモンド・フォールだ」
私は神官長に16でそう告げられ、王宮に行くことになったのです。
私生児である私が相手と聞いて殿下は嫌な顔で私を出迎え、正当な血筋の女性がよかったというのです。
庶民の娘が相手とは…と。
確かにそれはそうです。母は父もわからぬ娘を生んだと実家からも勘当されていましたので。
その実家もただの商家です。
「…ふさわしい相手がいたらお前とは婚約を解消するからな!」
「はい…」
私は庶民の娘、それも仕方ない。私の魔力が通常値より多く、聖女のスキルが珍しいということで渋々皆納得したようですが。
数か月後、私は殿下にお前と婚約破棄をする! と宣言されたのです。
「お前みたいな下賤な女と婚約なんてとんでもなかった…それにお前娼婦の娘だそうだな?」
「違います。母は元々下町に見回りに来た父に…商家の娘で」
「お前の姉から聞いたんだ。お前の母は娼婦でだらしない女だったと! ああ汚い!」
殿下は私に頭から水をかけて、早く出ていけと怒鳴りつけたのです。
姉が殿下の後ろから出てきてにっこりと笑って娼婦の娘なんて自分の娘じゃないとお父様も言っていたわと言うのです。
「お姉さま」
「お姉さまなんて言わないで娼婦の娘が!」
私は寒い中一人、王宮の外に放り出されました。
家に帰るわけにもいかず、母と住んでいた下町に帰ったのです。
大家さんがよくしてくれましたが、私は風邪をひいてしまい肺炎で死ぬところまでいったそうで。
目覚めた時、私は姉が殿下の婚約者となり、そして私が死んだと発表されていたことを聞いたのです。姉は婚約者に婚約解消を求めたそうです。私は考えました。聖女のスキルはまだ残っていました。
私は下町で人々を癒し、そして糧を得ながら、下町の聖女といつしか呼ばれるようになっていました。
そして私が娼婦の娘でありながら伯爵の娘と偽り家に引き取られ、本当の娘は死んでいたという大嘘が真実と発表されていると聞いたのです。姉が王太子殿下に憧れていたというのは知っていましたか…。
「…そう」
私は下町育ち、王家の魔力至上主義により皆が不満を持っていることを知っていました。私は伝手を頼り、所属していた神殿の長に接触をとりました。
「聖女様がねえ、どうして?」
「復讐を…」
「わかった」
彼はかなり私という手ごまを王家に吸い上げられていたことを頭に来ていたそうです。
私は…聖女としての力を貸すことにしました。
私は神殿の聖女として癒しの力を振るい、聖女と崇められ、神殿の勢力も増しました。
私の母のことを神殿で調べ娼婦ではないと認めさせ、謝罪もさせました。
神殿の力がますほどに王家は衰退し、王太子は聖女を放逐した罪で婚約者と二人、廃嫡され幽閉になりました。
私は口が悪いが優しい神官長と今日も仕事です。
あの人たちと離れられてよかったですわ。いい気味ですわ。
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