始まり
カシャ、カシャと歩く度音を鳴らしながら歩き続ける男がいた。
剣を振るい、この荒廃した世界で生きる為戦い続けた。
男はおよそ一青呼べるような見た目ではなかった。それは来ている服装や装備のことではない。
男の肌は鉄のようなくすんだ灰色。爪は黒く鋼のように硬い。触れるもの全てを傷つける。無論自分すら人血に染める。
皮膚は火傷あとのように爛れぐちゃぐちゃだが、今は痛みはもう無い。
空は灰色。太陽は厚い雲に隠れ微かな光を地上に分け与えるだけで、農作物の育ちも悪い。
もう何時間森の中を歩き続けたか分からない。
流石に喉が渇く。生憎水は持ち合わせていない。
男は首を振り水辺を探す。
(森の中だ。川ぐらいありそうだが……)
残りの魔力も少ないが、あと2、3回は使えるだろう。
男は片膝を着き、爪を立てるように草木が茂湿った大地に置く。
魔力を流す。範囲直径10m。
(駄目だ、近くに無い。……もう少し魔力を込めてみよう)
魔力を流す。今度はさっきより多く。範囲直径100m。
持てる魔力を全部使ってしまったがその甲斐があって小川の位置を特定した。正面から見て10時の方向、約80mだ。
さっきより光が薄くなっていている。夕方だ。
太陽は沈み、太陽より弱い光の月が厚い雲に隠れて現れ始める。
男は歩く。風で木々が不気味に音を鳴らし、それを増長するかのように夜の生き物たちの鳴き声が響く。
(食い物……明日にしよう)
川について兜をとり水を飲む。渇いた喉を潤していく。
(心做しか魔力が少し戻った気がする)
今日はもう寝よう。少し疲れた。
男は何時でも戦闘態勢が取れるように剣を鞘から抜き手に持ち浅い眠りに入る。
この夜、男は1つミスを冒した。誰もいないだろうという慢心と、油断。それを引き起こすまでに蓄積された疲労。それらが合わさり普段なら兜を脱いだままにはしない男だが、今日に限って兜を脱いで寝てしまった。
早朝、かなり薄暗い中遠くから足音が聞こえる。軽い足音。多分女子供だろう。
「きゃあああああああ!」
森に響く、モーニングコールとしては最低なそれは森に潜むモンスターを、呼ぶには十分だった。