蒲公英
『彼』は 天より舞い下り 地を叩き割って 産まれてきた。
獅子の如き相貌に 竜が如き体躯 大地に翼を広げ 凛と立ちはだかる雄々しき『彼』は。
人間たちを 憎み 忌み嫌い 呪っていた。
人間たちは 『彼』の同族の多くを。
土地ごと 焼き尽くし 奪い尽くし 殺し尽くしていた。
『彼』は 人間たちの作ったものを 破壊した。
人間たちも 負けじと 『彼』を 執拗に 攻撃し 何度も何度も 徹底的に蹂躙した。
だけど 『彼』は。
いくら弾圧されても 折れることなく 何度でも立ち上がった。
……年月が過ぎた。
いつの間にか 『彼』の美しい金色の髪も すっかり白く変わっていた。
老いた『彼』は 今際の際に。
人間たちに対する怒りと呪いと ありとあらゆる 負の感情を 込めて。
空へ向けて 盛大に 吐瀉した。
『彼』を支えていた 全身の力が 抜け落ちた。
終わりの時が 来て 薄れゆく意識の中で 繋がれていく命に 『彼』は思った。
『願わくば 我が子らよ どうか 人間たちを 一人残らず 駆逐してくれ給え』
『彼』の命が絶えて 数日後。
何人かの人間たちが やってきて。
『彼』の破壊した大地を 『彼』の亡骸ごと アスファルトで埋めて 固めたのであった。
そういうわけだから もう既に。
『彼』がこの世に生きていた痕跡を 見つけることは できない。
ヒント……タイトルの漢字、ちゃんと読めました?