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二度転生令嬢の落ち着く先  作者: 蒼黒せい


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10/27

10話

騎士団の執務室を出たその足で、そのまま親衛隊宿舎へと向かう。

既に話が伝わっていて、すんなりと部屋に案内される。が……


(ここ…は……)


案内された部屋がまさかの部屋に驚く。

部屋に入れば、『かつての』調度品そのままに。


「陛下から、こちらの部屋を使うように、との指示でございます」

「陛下が?」


何故この部屋を?

戸惑う私に、案内人は役目を果たしたと消えていく。


「………」


そっと壁に触れる。

壁の感触は……16年の歳月の変化を感じさせる。

でも、変わっていないところは変わっていない。

かつて持ち込んだ家具がそのまま…。

そう、この部屋は…


「『グリエ』の…部屋…」


埃が溜まっていないところから日頃から清掃されているのは間違いない。

けれど、当時の記憶そのままの部屋は、明らかに『グリエ』以降誰も住んでないのは明らかだ。

親衛隊は別格の存在だ。その待遇も。

部屋は広く、これまでの侍女宿舎よりも2倍の面積はある。

あらかじめ用意されている調度品も、明らかに高級品だ。

部屋の中央には一人掛けと二人掛けのソファーが直角に、その中央にテーブル。

窓際には書き物用に机と椅子。

用意されているベッドも、大人が両手を広げても余る。

クローゼットは服を何十着掛けられるのかわからないくらい大きい。。

さらに、宿舎専用の侍女侍従もおり、彼らもまた他の侍女侍従との接触はできない。

親衛隊は王家護衛の任務にのみ専念する。

それだけに、親衛隊は騎士の中でも選ばれた者しかなれないエリート集団だ。

当然、宿舎も一部屋一部屋が広い分部屋数は少ない。

16年間、誰も使わずにいられるほど部屋が余っていた…とは思えない。


いつも腰かけていた椅子に手をかける。

なんだか懐かしくなり、つい笑みがこぼれる。

あの時に戻ったかのよう。


しかし、だ。

何故この部屋を、しかも陛下が指示して?

そこが不可解。


「わからないわね…」


ぼふっとソファーに倒れ込めば、埃が巻きあがることも無い。

丁寧に整えられている。


私があの剣に興味を示したから?

この部屋しか空いてなかったから?

いくつもの可能性を考えて…最後にあり得ない可能性が思い浮かんだ。


(私が…『グリエ』って気づいた…?)


いやあり得ないと首を横に振る。

そして、もう余計なことを考えるのはやめた。

悩むのはやめだ。


そして翌日。

早速親衛隊としての任務。

親衛隊は常に王族に付き従い、護衛を行う。

そして、早速とばかりに陛下の護衛の任を言いつけられた。


…それもお忍びの護衛を。




「行くぞ」


以前に偶然街で出会ってしまったとき同様、お忍び用の服装に身を包んだ陛下。

そして、それを傍で護衛する親衛隊二人。……のうちの一人である私。

護衛のためならば動きやすい服装であることが望ましく、私は以前と同じくシャツとズボンの服装にするつもりだった。

……なのに、あろうことか、陛下から服装への注文が付いた。


「陛下からこの服装にで来るようにとの命令が出ています」


そう言われて副隊長に渡されたのは……街娘らしいエプロンドレス。

一見するとお仕着せにように見えなくもない、シンプルなモノトーンだ。

サイズがばっちりなのがいかんせん気に食わない。

まるで私用にあつらえたみたいだ。


これを渡されたときの、私の顔が引きつったのは言うまでもない…


エプロンドレスに着替え、陛下の下へとはせ参じれば、こ憎たらしい笑顔を浮かべた陛下。


「良く似合っているな」

「…ありがとうございます」


他の親衛隊面々の視線が痛い。

エプロンドレス自体は、さほど高級なものでもない。

素材の手触りは一般市民で使われる程度だ。

けれど、わざわざ陛下が命じて着させたというのが問題。いや、大問題。

ただでさえ、半年で騎士から親衛隊に格上げ、城内には陛下との関係疑惑。

……疑惑が既に確信に変わり、陛下を女を使って堕としたといううわさに変わっている。


それを知らないはずはないのに、今日は今日でお忍び用の服を陛下直々にプレゼント。


(…何のつもりなのよ…)


本当に頭が痛い。

堕とした覚えはないどころか、そもそも望んですらいない。

むしろあれこれされて被害者だと声を大にして言いたい。


「…その髪型は何だ」

「えっ」


今日は…というか今日も、後ろで束ねて背中に流しているだけの簡単な髪型だ。

そもそもお忍びだし、手の込んだ髪型にもできない。


すると、陛下が呼び鈴を鳴らし、侍女が呼び出される。


「シセリアの髪を整えてやれ」

「かしこまりました」

「…………」


唖然としている間に隣の部屋に連れ込まれ、鏡の前に座らされるとさっと紐が取り払われた。


「こんなに綺麗な髪なのにもったいない…」


なんだか恨みごとのように背中でつぶやかれると怖いです。

そうぶつぶつ言いながらも(決して悪く言われてはいない)、あっという間に整えられていく。

長い髪は編み込まれ、両サイドに綺麗な輪っかでくくられる。

どこから取り出したのかいつの間にかリボンまで巻かれ、数分で整えられてしまった。


「できました」

「…ありがとうございます」


何故お忍びの護衛のはずがこんなことになっているんだろう…?

遠い目になりつつある自分に気付かないふりをした。


そして、裏門から城外へと出て、いざお忍び。

……なのに、私は自分のポジションに戸惑わずにはいられなかった。


「遅れているぞ、隣にいろ」

「……はい」


何故私は陛下の隣を歩かせられているんだろう?

もう一人の護衛は、先日見た通り、少し離れた位置にいる。

あの距離が本来の護衛の位置のはず。


後ろを振り返り、もう一人の護衛と目が合う。

…目をそらされた。

助けは期待できそうもない。


「遅い。俺と腕を組め」

「えっ、イヤです」

「………」

「………」


腕組要求につい反射的に拒否してしまった。

ものすごい陛下…いや、今はルドか…が睨みつけてくる。

けど、断って当然だと思ってほしい。

恋人同士でもないのだから。


「ルドとリアは恋人同士」

「はっ?」

「だから腕を組むのは当然だ」


いきなり何か言い出した。

心読まれた?

何その設定?

というかリアって私?

勝手に愛称で呼ばないでほしいんですけど?

しかも恋人同士?


くるりと振り返る。

会話が聞こえている後ろの親衛隊は頬が引きつってる。

何とかしてほしいと視線で訴えるも、諦めろと首を横に振られた。


(た、頼りにならない……)


うんざりした気持ちになりつつ……というか既になっているのに、そこにさらに陛下からの追い打ちが。


「まったく」

「!?」


いつまでも腕を組もうとしない私に痺れを切らしたルドが、自ら強引に腕を組んできた。

体格差があるだけに、少し上に引っ張られる形になってしまう。


「自分から腕を組めないとはな。恥ずかしがり屋なやつだ」

「………」


勝手に事実を捏造しないでほしい。

恥ずかしがってなどいないし、むしろ呆れているくらいなのに。


自分から強引に腕を組ませながら、それだけで満足したのかずんずん進んでいく。

…体格差を気にせず、歩く速度を揃えようとしない紳士にあるまじき行為。

小走りじゃないとついていけず、挙句少し吊られる形になっているだけに歩くだけで疲れていく。

その傲慢さに、苛立ちとかつての『弟』への仕置心が蘇る。


(そう、これは仕置が必要よね)


今はルドで。

私はリアで。

恋人同士という設定。

今だけは対等。

……ならその設定、ぞんぶんに生かさせてもらいましょう。


がっしりとした腕に組まれた腕は力づくでも外せそうにない。

まずはその腕を外させるため、ルドの手の甲にそっと指を添える。

そして…


「いっ!?」


ルドが苦痛の声を挙げる。

手の甲の皮膚をおもいっきり抓ってやった。

痛みで緩んだ隙に腕を抜き取る。


「何をする!?」


ルドが私を睨みつけてくるが無視。

腕が外れたことで、半ばつま先立ちで、それも早歩きさせられていたのだからようやく一息ついた。

無理やり引っ張られていた肩をもみほぐし、ルドを一瞥する。

怒りに吊り上げられた目に周囲の人が距離を開け始めていた。

再び腕を組もうと伸びてきた手を、今度は払い落とす。

払い落とされた自分の手に唖然とするルドを尻目に、私は後ろに控える護衛の下へと歩み寄る。

そして、その護衛の腕を、私からとって自身の腕に絡めた。


「うぇっ?」


護衛から変な声が上がったけど無視。

それを見たルドの目がますます吊り上がっていく。


「おい」

「………」


無視。


「アーク、リアを私に渡せ」


護衛…アークはそう言われ、私とルドを交互に見返す。


(渡せ扱いされて誰が行きますか)


その態度を如実に示せばアークも理解してくれたらしく、ルドに視線を戻した。


「陛…ルド。二人の体格差を考えてください。リアは無理やり引っ張られているようで苦しそうでしたよ」


ナイス!

さすがは護衛アーク、ちゃんと見ていてくれたようだ。

…さりげなくアークも私を愛称呼びしたことは触れずにおいてあげよう。

アークの言葉にハッとしたのか、気まずそうにルドが私を見る。


「……すまない」

「いえ」


謝罪されたので、仕置もこの辺にしておこう。

騎士に絡めた腕を外す。

……騎士から「あ…」と何か惜しむような声が上がった気がするけど気のせいだ。


腕を外したと同時に、ルドから手が差し出される。

その手が何を意味しているのか、理解はできる。

できるけれど……そもそも、だ。


「…何故恋人のふりなど?」

「………」


そう問うと、ルドは手は差し出したまま、明後日の方向を向く。

そこが意味不明だ。

以前遭遇した時はそんな人は連れておらず、一人で歩き回っていたよう。

にも関わらず、何故今回はこんなことになっているのか、分からない。


明後日を向き、しばらく考え込んでいる様子のルド。

しかし手は差し出したままなので、恰好が少し滑稽。

ついでに言うと、私たちの3人の様子がはた目から見て修羅場に見えるのか、野次馬が集まり始めている。

それにも気づかないぐらいルドは考え込んでいるようだ。

アークは集まり始めた市民に少し焦り始めている。


これ以上留まれば、誰かが陛下だと気づくかもしれない。

私がその手を取れば、それで事は片付く。

それだけなんだけど…


(まるであの時みたい…)


不意に昔の…『グリエ』の頃の情景が思い出される。


ルドがまだ殿下だったころ。

よく護衛として『グリエ』が付いていたが、今ほど実力のない殿下はそれこそ好奇心であっちこっちにふらふらしていた。

そのため、今のように少し離れた位置だとすぐに見失ってしまうためすぐ隣、もしくは後ろについていた。

そんな時だ、『グリエ』…当時25歳…が『妹』扱いされたのは。

まさか10歳も下の殿下の、弟どころか妹扱い。

そう扱ってきた店主に悪気はない。

確かに殿下は見た目だけなら十分大人びている。

それは分かる。

だが、それをネタにして揶揄う殿下は許さなかった。

普段であれば隣に付き従うのを、その日ばかりは一歩離れた位置に付いた。


すると、それが余程不服なのか、殿下は私に隣に並ぶように指示した。


揶揄った負い目もあるのか、『グリエ』を直視はせず明後日を向いて。


(変わらないわね…)


そう懐古にふけていると、隣から小突かれた。


「…リア、頼む。手を取ってやってくれ。そろそろ人目がまずい」

「………」


確かに徐々に周囲の人垣が厚くなっている。

これ以上はまずいかもしれない。

そこで私は、小突いてきたアークの手を取り、


「えっ?」


動揺しているアークは無視して、その手を差し出したままのルドの手に載せた。

載せられた感触に気付いたのか、ルドが喜びでこちらを見て…載せられた手が誰のものなのかに気付いて、見るからに顔をしかめた。


「…何故貴様が私の手を取る」

「いえ、これはリアが…」


二人の目が私へと向けられる。

私はにっこり微笑み…


「交代です」


宣言。

呆気にとられたルドとアークを尻目に、私は颯爽と歩きだす。

護衛が先行してどうするのかと思うところだけど、思った通り二人は私についてきた。

……手は繋がれていないけど。


「アーク、エスコートされてあげてください」

「何で私が…!」

「私も男をエスコートする趣味はない!」


揃って抗議の声を挙げられた。

何故だ?



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