大型犬
『ホワイトスライム』......今回討伐対象になった魔物の名前だ。
形は普通のスライムと同じだが、体の色が真っ白い。通常のものより全ステータスが高く、スライム族とは言え、侮れない。
『完全逃走』を発動させている俺は1体、2体と着々と討伐数を稼いでいた。
調べてみるとどうやら『完全逃走』は、装備している素早さ依存武器全てに効果が適用されるらしい。
まあ、当然っちゃ当然だ。
しかし、そういう所に俺が『二刀流』になる最大のメリットはある。
『完全逃走』を発動させた時のフェザーソードの攻撃力上昇値は2000、二刀持ちだと、そこに更にアレグレンズナイフの攻撃力上昇値1300が足され、素のステータス、武器そのものの攻撃力を足して、現在の俺の攻撃力は3580。Aランククラスの剣士の攻撃力の平均が1500だから約2.4倍も高い。
おそらくエヴァさんでも攻撃力3000はいかないだろう。自分で言うのも何だが、『完全逃走』発動時の二刀流の俺の攻撃力は相当ぶっ飛んでる。前代未聞だろう。
スライムは最弱の魔物として有名だが、上位種ともなると、打撃、斬撃といった物理攻撃の威力を約50%軽減する特性を持っていて、実は結構厄介な魔物なのである。
『ホワイトスライム』も例外ではない。ちゃんと物理攻撃50%軽減耐性を持っている。
が、そんな事は気にせず、俺は斬撃を浴びせる。
斬られたホワイトスライムは忽ち消滅した。
イレギュラーな攻撃力の前では、物理半減は意味を成さない。
俺は走りながら、次々とホワイトスライムを討伐した。
走り続けていると、エヴァさんと合流した。
「もうホワイトスライムは見当たらないな。もう20体討伐してしまったのか?」
「そうかもしれませんね。俺も結構走り回りましたから......。」
「そうか......それなら結果発表と行こうか!」
エヴァさんは手持ちから液体状のアイテムを取り出した。
「スライム系の魔物を倒すと手に入るアイテム、『スライムジェリー』。これの個数で討伐数がわかる! 私は8個手に入れた!」
「僕は12個手に入れました。」
「なにぃ!?」
エヴァさんはわかりやすく驚いた。
「はっはっはっ! 完敗だ! 流石だな、色男!」
「ありがとうござ......えっ......?」
エヴァさんは俺を強制的に座らせ、まるで大型犬を褒める時のように俺に抱き付きながら、頭や背中等を撫で始めた。
「よ~しよしよしよしよし! よ~しよしよしよしよし! よくやったな! 色男!」
「エヴァさん......あの......。」
「よ~しよしよしよしよし! よ~しよしよしよしよし!」
これは流石にかなり恥ずかしいので、早めに抜け出したかった。
「あっ.....そうだ。」
エヴァさんは何かを思い出したようであった。
「ど......どうしたんですか?」
「色男! これでお前に教える事は何もない! 少し早いが、これにて訓練は終了だ! この5日間よく頑張ったな!」
「あ......ありがとうございます。」
......嫌な予感がする。
「......という事でお前に『なでなでスペシャル』をしてやろう!」
「いえ......大丈夫です......。」
「遠慮するな! 受け取れっ!」
エヴァさんは抱き枕のように俺を抱き抱えながら、地面に寝転んだ。
「まったく......イケメンだなぁ! そんなんだから美女3人にモテるんだぞ! よしよ~し!」
地面に寝転ぶと、さっきと同じようにエヴァさんは俺をなで始めた。
今回は頭、背中に加えて、腹も『なで対象』になった。
ただ単に地面に寝転ぶという、動作が加わっただけだが、恥ずかしさは何倍にも膨れ上がった。
誰も見ていないとは言え、万が一、この状況を第3者に見つかったらと思うと、ぞっとする。
しかし俺を褒めている時のエヴァさんは凄くいい笑顔をするので、頭ごなしに止めさせるのは野暮だと思い、俺はそのまま、『なでなでスペシャル』を受け入れた。
程なくして俺とエヴァさんは、依頼主の村長の家に移動した。
家の中には村長と1人の少女がいた。
「村長さん、ホワイトスライムを20体討伐して来ました。」
「何と!? もう終わったのですか!?」
「はい、そうですよ。」
俺はエヴァさんの分を足したスライムジェリー20個を見せた。
「おお......! 確かに間違いない......! 素晴らしい手際だ......! ありがとうございます......!」
「お爺ちゃん、スライムさん......いなくなったの?」
娘は村長に話しかけた。
「ああ......! このお二人の冒険者さんが、ホワイトスライムをやっつけてくれたんだよ......!」
「それじゃあ、また、川で水遊びしに行ってもいい?」
「ああ! 勿論だとも!」
「ほんと!? やったー! わーい!」
村長の孫娘は両手を上げて、無邪気に喜んだ。
報告をし終えた、俺とエヴァさんは馬車でロージアン王国に向かった。