勇敢な妻
「ちょっと待ってください〜!」
村長さんの家を出た後、俺達は声をかけられた。
「すみません......少しだけコーデリア様とお話をさせて下さい......!」
声をかけたのはベイシムだった。となりにはゾーイもいた。
「皆さん、少し時間を頂けますか......?」
「はい、いいですよ。」
俺はそう返答した。エリザリア、エレノアの二人も頷いた。
コーデリアさんは俺達に向かって会釈した後、ベイシムと話始めた。
「どう致しました......?」
「はい......コーデリア様はこちらをご存知でしょうか......?」
ベイシムは鞄からある薬を見せた。
「これは......『若返り薬』ですね......。瓶の形が旧式なのでかなり昔に精製されたモノでしょうか......。」
「流石、コーデリア様ですね......! 正しくその通りです!」
ベイシムは話を続けた。
「あれは20年ほど前の話だったか......とある魔女がこの村に挨拶しに来たんです......。その時、魔女は私とも会ってくれまして、「ここに来たついでにこの薬を渡そう」と言って、先程の『若返り薬』を頂きました......。」
「その時、私の勇敢な妻が実際飲んでみたのですが、効果は絶大でした。みるみると妻は若返り、遂には今の姿になってしまいました。」
「今の姿......?」
好奇心を抑えきれない俺は訊ねずにはいられなかった。
「はい。ゾーイは......私の妻です......。」
「えええええええええええ!?」
俺を含め、エリザリア、エレノアが驚愕した。
「えへへ〜♪」
ゾーイ......いや、ゾーイさんは子供らしく無邪気に両手でピースした。
こりゃたまげた。全くわからなかった......。
無邪気にベイシム先生のもとで助手をやっているこの少女が......まさか妻だったとは......。
「私達の子は既に妻より大きいですね。今は村を少し離れた学校に行っていて、すぐにはお会いさせる事が出来ないんですが......。」
ベイシムは笑いながらそう言った。
「この姿面白いわよ〜。この前、お客さんをお出迎えしたら「娘さんですか?」なんて言われちゃって......。」
「確かにそれは面白いですね......。」
「うん。ただ、ちゃんと説明しても理解されないからその後が大変何だけどね〜。」
ゾーイさんは苦笑いしていた。
「『若返り薬』使用者にはよくあることなんですよ。老婆の魔女から産まれて間もない赤ちゃんの姿になるなんてザラにありますね......。」
コーデリアさんは静かに解説した。
「そうなんですね......。」
また一つ魔女について詳しくなった。
「とまあ......そのような出来事がありまして、私は魔女の薬について強い興味を持つようになったんです......。よろしければコーデリア様の研究についてご教授の方をして頂きたいのですが......。というかその前に私の様な一般人でも魔女の薬は作れるのでしょうか......?」
「ええ、構いませんよ......! 」
「本当ですか!」
「はい!」
コーデリアさんは続けた。
「魔女の薬と言っても、特に特別な事はしていません。魔女の薬は、あくまで魔女だけが精製方法を知っている薬に過ぎませんので、特に制約はありませんね......。」
コーデリアさんは小声で続けた。
「......それにやりたいことが出来ましたので♪」
「......? 何か仰りましたか......?」
「い、いえ! 何でもありません......! 私としても自分の薬の精製に興味を持っていただける方がいらっしゃるのは嬉しいことです。これから冒険者の皆さんと私の家に行く予定でしたので、良かったら私の研究室にご案内しますよ♪」
「本当ですか! それは是非! ご拝見させて頂きたい......!」
声のトーンからも察する事が出来るぐらいベイシムは歓喜に満ちていた。
「あっ、すみません一つだけ訊いてもよろしいですか?」
「ええ、どうぞ♪」
「コーデリア様はどうしてそんなにも慈悲深く、お優しい方なのですか......?」
ベイシムは率直に質問した。
「えっと......それは......。」
「コーデリアさんは本当にいい人だからですよ......。」
どうしても答えたくなる質問だったので、コーデリアさんの代わりに俺が答えてしまった。
「ですね!」
「だな。」
エリザリアとエレノアも同じ事を思っていたようだ。
「なるほど......。」
ベイシムは真面目に感心していた。
「い......いえ......わ、わ、私はそんな......! いい人じゃなんか......」
ステルスウルフ討伐の後で俺が褒めちぎり、真っ赤になった顔が、ようやくもとに戻ってきたと言うのに、俺はまたコーデリアさんを褒め称え、恥ずかしさで顔を赤くさせてしまった。
「克服しなきゃいけないのはわかっていますが......。ああ......恥ずかしい......。」
コーデリアさんは座り込み、顔を両手で覆った。
ごめんなさい、コーデリアさん......。ああ......俺は本当に悪い奴だ......。
恥ずかしがるコーデリアさんが可愛くてしょうがないと思っている自分がいる......。コーデリアさんを第三者にいい人って思わせたくてたまらない自分がいる......。今後悔い改めなければ......。