新兵と、猫と、新妻
「皆で行くとなると、一つ気掛かりな事があるな......。」
「兵士が阻止してくるか......。」
「そうだ......。活性の魔女であるコーデリアさんを引き連れてやって来るわけだからな。村人からしたら敵襲にしか見えない......。兵士は俺達を見かけたらます間違いなく拘束しに来るだろう......。」
俺は続けた。
「そこでだ......。兵士の隙を作って村に入る方法を思いついた......。おちゃらけて村に突入するんだ。」
「おちゃらけて......ですか?」
エリザリアが不思議そうに訊ねた。
「ああ......。兵士に昨日会った時とは全く違う印象を見せつけるんだ......。そうすれば必ず動揺する。」
「でも、ジャレオ様......私、おちゃらけるのって苦手で......。ジャレオ様の御目に適う事が出来るか......。」
「大丈夫。別に相手から笑いを取れという訳じゃない......。プライベート、趣味、カミングアウト......。自己紹介にほんの少しのユーモアを加えるだけでいいんだ......。」
「ほんの少しの......ユーモア......。」
エリザリアは口を片手で覆うようにし、考えた。
「皆が思い付き次第、一回練習をしてみたいと思う。これをやる場面は恐らく走っている時だ......。出来れば動いてでも出来る物がいいが......まあ、とりあえず思いついたアイデアをどんどん発信して欲しい。」
「ふふふっ......面白そうですね! わかりました♪」
皆は『おちゃらけ』を考え始めた。
さて、俺も考えないとな......。
10分後、俺達はリハーサルまでし終えた。
「凄いじゃないか! 皆! これなら絶対行ける!」
「ふふっ......当然だな。」
エレノアは得意げな表情をした。
「エリザリア、本当にこういうの苦手か? 凄く良かったぞ!」
「本当ですか......?」
「ああ......! 自信を持っていい!」
「そうですか......! うふふふっ......ありがとうございます......!」
俺に褒められたのがよほど嬉しかったのか、いつも以上にエリザリアは笑ってそう言った。
「あの......ジャレオさん......。」
コーデリアさんが俺に訊ねた。
「どうしました?」
「私のは......大丈夫でしょうか......大胆過ぎませんか......?」
「いえいえ、全然問題ないですよ! こういうのは寧ろコーデリアさんぐらい、ぶっちゃけた方が良いです!」
「そうなんですね......。わかりました......!」
コーデリアは納得したようだった。
「よし、これで完璧だ。今、時間は......もう夕方か。作戦決行は明日の昼頃にする......。今日はもう明日に備えて御飯食べて元気蓄えて......寝よう!」
「ふふふっ......わかりました。それではすぐにお夕飯をご用意しましょう♪」
俺達はコーデリアさんの夕飯を食べ、風呂に入り、明日に備えて早めに寝た。
翌日の昼、俺達はケイスター村の近くの茂みに身を潜めていた。
「あの兵士は村の入り口にいるな......。」
「ああ......早速、お披露目する必要があるようだな......。」
俺は皆に呼び掛けた。
「皆、準備はいいか?」
「は......はい!」
「ああ......!」
「大丈夫です♪」
「よし! それじゃ行こう!」
俺達はケイスター村の入り口へ向かって走った。
「うん? 何だお前達は!」
兵士がこちらに気づいたようだ。
「兵士さんちーーーーーーっす! 俺達ベイシム先生に会いに来たっす!! ちょっとお邪魔するっす!!!」
「にゃんにゃんにゃにゃ〜ん♡♡♡にゃんにゃにゃ〜〜〜〜ん♡♡♡♡♡♡♡」
「今晩のおかずはっ......! 麻婆茄子ですっ!!」
因みにエリザリアは『強制裸エプロン』を身に着けている状態であった。
「生意気な新兵と、猫と、新妻か......。よし、通っていい......って違ーーーう!!! お前達は......!」
「こんにちは〜♪ 『活性の魔女』でーす♡」
「なっ......なにっ!? 活性の魔女だと!? 魔女までいるのか!」
兵士の驚いた顔がよく見えた。
コーデリアさんの大胆カミングアウトはよく効いていて、彼女は兵士の側を容易に通り抜けられた。
「待て! お前達! 何をするつもりだ!」
兵士は俺達を追いかけてきたが、
「くっ......! 鎧が重くて上手く走れん......!」
すぐに失速し、俺達を見失った。
「よし! 無事全員通り抜けた! それじゃ手筈通りベイシム氏の自宅へ向かう! エリザリアは家についたら着替えてくれ。」
「わ......わかりました!」
俺達はベイシム氏の家まで走り続けた。
「はははっ......! 何だか愉快だな! ジャレオ!」
走りながらエレノアが俺に話し掛けた。
「まあ、革命だからな。楽しいに決まっているさ......。今日は思う存分、自分に酔うといい......。」
「オーケー!」
エレノアはこの状況をかなり楽しんでいた。
「......おっ、見つけた、あの家だ。どでかくベイシム診療所って書いてある......。皆、あそこだ。」
20mほど先に診療所兼、ベイシム氏の自宅を発見した。