当てずっぽう
「魔女病というものが流行ったのが10年前だという事は私が9歳の時の話ですね。」
コーデリアさんは静かに言った。
「その時、施し物をケイスター村に贈ったのは事実です......。その頃の『活性薬』の生成技術が未熟だったとは言え、真心を込めて大事に育ててきた作物なので病原菌などは含まれていなかったと信じたいです......。私は......ケイスター村の皆さんを救いたいが為に作物を栽培しました......!」
「ですが、私が施し物を贈った時期に、病は流行りました......。私自身も把握しています......。やはり、私が原因と考えるのが自然ですよね......。」
コーデリアさんは不安を感じていた。
「大丈夫です......! 俺は......いや、俺達はコーデリアさんを信じます......!!」
俺はただひたすら、コーデリアさんを信じた。
「ありがとう......ございます......。」
その時、コーデリアさんの目に涙が溢れた。
「.......! コーデリアさん......!」
「すみません.......実は皆さんが村長さんと話し合いをしている所を隠れて見ていました......。その時の皆さんの言葉と、ジャレオさんの今の言葉で、胸がいっぱいになって、つい泣いてしまいました......。」
コーデリアさんの涙が頬を伝った。
「安心して下さい......コーデリアさんはもう一人ではありませんから......!」
すぐさま、エリザリアはコーデリアさんに駆け寄り、涙ぐみながらそう言った。
「エリザリアの言う通りだ。私達はもう仲間ではありませんか......。苦難は.....共に乗り越えましょう.......!」
エレノアは仲間であるコーデリアさんを騎士らしく鼓舞した。
恩を売った相手に除け者扱いを受け、一人っきりで苦悩を抱えてきた魔女は俺達が支えなくてはならない。
「ありがとうございます......。もう大丈夫です......。収まりました......。」
コーデリアさんは涙を拭ったハンカチを懐にしまった。
一呼吸置いた後、俺は言った。
「コーデリアさんが誤解される最大の要因は原因不明の腹痛だ。これがある為、発症しているのはヒフキ病だとしても村人は魔女病と思い込み、魔女の仕業だと信じて疑わなくなってしまう......。」
俺は続けた。
「そこでなんですが......少しコーデリアさんの書庫をお借りしてもいいですか? ヒフキ病、魔女病、そしてその治療法など一度全て調べたいのです......。何か手がかりを見つけたいんです......。」
「勿論構いませんよ♪ 私の書庫はそれなりに豊富なので、何かしらヒフキ病が記述されている本があると思います.......。」
そう言ってコーデリアさんは快諾してくれた。
「ありがとうございます......。」
俺は感謝の言葉を言った。
コーデリアさんはにっこり笑うと、自分の家の書庫へ俺達を案内してくれた。
「さて.......まずはヒフキ病についてだ。」
俺は図鑑、百科事典、薬学書など、ヒフキ病について記述されてある本を隈なく探した。
「あったぞ、ジャレオ。」
「ありがとう、そこに置いておいてくれ。」
エリザリアとエレノアも本を探すのに協力してくれていた。
「なるほど、この形の実がヒフキ病に効くと言う訳か......。名前は『アビアの実』.......。」
俺は薬学書のヒフキ病の項目を読んでいた。
「これと同じ形だから......あった、これだ......。」
図鑑から俺はアビアの実らしき果実を見つけた。
「いや、待て......形は合っている筈なのに名前が違う......。」
「あっ......それはジャータの実ですね。」
俺と一緒に本を読んでいたコーデリアさんが言った。
「ジャータの実?」
「はい、アビアの実はヒフキ病に効果がありますが、ジャータの実は毒ですね。食べると腹痛を引き起こします。果梗の色が違っているだけでその他はそっくりです......。」
『勘違い』。その言葉が俺の頭を過ぎった。
薬学に精通している名医が、そんな初歩的な......。
いや、ほぼ同時に村人がヒフキ病にかかったんだから、それしか考えられない......!
「皆......聞いてくれ......。」
「ど、どうしました......? ジャレオ様.....?」
「俺は明日、ケイスター村に行ってドクターベイシムに会って話をする......。魔女病事件の真相は.....ベイシム氏のジャータの実をアビアの実と勘違いした為に起きた治療ミスだ......!」
俺は続けた。
「勿論、違ったら今度こそお終いだが、ベイシム氏の10年前の記録を夜、家に忍び込んで勝手に読まない限り確信は持てない。確実な答えを得られるが法を犯す......。」
俺は更に続けた。
「スキルを駆使して市民を襲うのは冒険者として失格だからな。もう当てずっぽうで行くしかない......。皆の安全の為、俺一人で行く。特にエリザリアとエレノアは投獄されたら、今後の冒険者キャリアに関わるからな......。」
少し間を開けた後、エレノアが言った。
「ジャレオ......その作戦には穴がある。私も連れて行くという事が抜けている......。激昂した村の兵士の阻止役が必要だろう?」
「エレノア......!」
「水臭いじゃないか。ここまで来たんだから、最後まで付き合うよ......。」
エレノアは笑みを見せて、そう言った。
「......そうなると傷付いたエレノアさんを回復しなければいけませんので、私も行く必要がありますね......!」
エリザリアはウインクをして見せた。
「エリザリア......!」
「ふふふっ......それじゃ私はすべての混乱の元凶、『活性の魔女』として村に立ち会わなければなりませんね♪」
コーデリアさんは満面の笑みでそう言った。
「コーデリアさんも......。はははっ......! ああ......! わかった! それじゃ俺は名医の過去すら貪る、身の程知らずな盗賊だ! それじゃあ皆、派手に行こう!!」
「おーっ!!」
俺達は拳を空に向けて付き挙げた。