恥ずかしがり屋
「お待たせしました〜! どうぞごゆっくりしてください♪」
コーデリアさんは紅茶を木製の机に置いた。
「すみません、頂きます......。」
俺達は差し出された紅茶を飲んだ。
「わぁ〜! 良い香りですね〜!」
「結構色々な紅茶を飲んだことがあるがこれはその中でもなかなか...。」
エリザリア、エレノアは差し出された紅茶を大絶賛していた。
二人に続いて俺も飲む。うん、うまい。これは何杯でも飲みたくなる。
「うふふっ...ありがとうございます♪ お気に召して頂いて良かったです。」
コーデリアさんは微笑んでいた。
「確か、ケイスター村は紅茶の茶葉の生産で有名な村でしたよね。貴族御用達の茶葉も作られているとか。」
「はい、おっしゃるとおりです。良くご存知ですね! この紅茶はもともと茶葉として有名な『ダンプール』に私の『活性薬』を散布して作ったオリジナルの茶葉を使っているので、より茶葉の良さが引き立っているのかなぁ〜と思います!」
「なるほど......それじゃこの紅茶はここでしか楽しめないのでしょうか?」
「いえ、そんな事もありませんよ。通常のものよりも少々値段は張りますが、一応、市販されています!」
「そうなんですか。」
「はい!」
今度買ってみようかな......。
「あっ...そう言えばみなさんのお名前をお聞きしていませんでしたね。」
「ああ、俺はジャレオと言います。」
「エリザリアと言います!」
「エレノアです。」
「ジャレオさんに...エリザリアさんに...エレノアさんですね!バッチリ覚えました!」
コーデリアさんは続けた。
「皆さんは『ステルスウルフ』の調査に来たのですよね?」
「はい。相手が相手ならそのまま討伐してしまおうかと思っていますが。」
「頼もしいですね...! 私も出来る限りご協力しましょう!」
コーデリアさんは続けた。
「『ステルスウルフ』は野生の狼より一回りほど大きい体格をしていて、力は何倍も強いです。また獲物を仕留めるときに自身の体毛を保護色にして周囲の背景に溶け込むという特殊な力を持っています。」
コーデリアさんは更に続けた。
「更に厄介な事に『ステルスウルフ』は知能が高く、警戒心が強いのでなかなか人前に出てくる事がありません。遭遇するには根気よく何日も待つしかありませんね......。」
「なるほど...。それは厄介ですね...。」
すぐに討伐できる相手ではないのか...。
「どうする、ジャレオ。 ドミニエル様には何と伝える? 討伐するか、そのまま調査報告するだけか。」
「俺としては討伐したいが、宿泊をどうしようかと思ってな......。幾日ここに滞在するかわからないから野宿もあまり......。」
「それでしたら私の家に泊まったらどうでしょう?」
コーデリアさんはそう提案した。
「いいのですか? そこまでお世話になってしまっても......。」
「大丈夫です! こう見えて結構蓄えがありますから...! あっ......。」
「どうしました?」
「ただ、今少し人手が必要な作業が有りまして......それを手伝って頂けたら......。大変嬉しいのですが......。」
「勿論やりますとも。ただで泊まらせて貰うのは忝いですから。二人もそう思うよな?」
「はい! 一緒に協力しましょう!」
「滞在中に身体が鈍っても仕方ないからな、ちょうどいいんじゃないか?」
2人は賛同した。
「有難うございます......! それでは早速ご宿泊の準備をしましょう......。」
コーデリアさんは俺達の為に寝床を用意してくれた。
その後、俺達はコーデリアさんが言っていた人手が必要な作業、薪運びを手伝った。意外と薪の量が多く、作業を終える頃にはもう夜になっていた。
そして俺達3人とコーデリアさんで楽しく一緒に食事をした。
風呂の順番は話し合いの結果、俺とコーデリアさんが個別に入り、エリザリアとエレノアは一緒に先に入る事になった。
「すみませんね。こんなにもおもてなしを...。」
改めて俺はコーデリアさんに感謝した。
「いえいえ♪」
コーデリアさんは微笑んでそう答えた。
あっそうだ。
俺は気になっている事をコーデリアさんに聞いてみた。
「そう言えばコーデリアさんの家には多くの子供の絵が飾られていますよね......。描いて貰ったのですか?」
「はい、私、よく児院のボランティアに行くので、そこの子ども達に......。」
「児院...ですか。」
「はい...行く度に毎回描いて貰えるので凄い枚数になっちゃったんですけど、飾らないのは勿体無いかなって思いまして......。」
なるほど、慈愛に満ちた魔女様なんだな...。コーデリアさんは...。
「そうなんですか......! それは凄いですね! 感銘を受けました.....!」
「いえ......そんな......。」
コーデリアさんは恥ずかしながらそう言った。
しばらく間を開けた後、コーデリアさんは言った。
「ただ......私の行為はあまり人に見られたくないんです......。」
「それは...どうしてですか?」
「......傍から見れば、まるで......私が本当にいい人みたいに見えてしまいますから......。」
人の役に立ちたいが目立つのは苦手な、恥ずかしがり屋な魔女は静かにそう言った。
この時、俺はコーデリアさんは本当にいい人だと確信した。そして、ケイスター村の村人達の誤解を何が何でも解いてやろうと決心した。