おんぶの英雄
「大丈夫、大丈夫だ......エリザリア......。」
震えているエリザリアを安心させる為、俺は優しく寄り添い続けた。
しばらく寄り添っているとエリザリアの震えはだいぶ収まった。
「ありがとうございます...ジャレオ様...。」
「ああ......。立てるか?」
「いえ.....震えはだいぶ収まったのですが、足が竦んでいて......。」
「そうか...。」
「どうかしたの? ジャレオ。」
ロゼッタが俺達のもとへ駆け寄ってきた。
「ちょっとエリザリアが恐怖で動けなくなってしまってな......。」
「すみません......。」
「そういうことね......。」
ロゼッタは続けた。
「私は『テレポート』が使えるから、魔物出現の直前になっても一瞬でみんな戦場に行けるけど...。どう? 15分で治りそう?」
『テレポート』とは最上級の移動魔法であり、移動場所をイメージするだけでその場所に行ける魔法である。また、複数人での移動も可能である。
「お気遣い有り難うございます...。ですがすみません...、まだ時間がかかりそうです......。」
エリザリアは申し訳なさそうな表情をしていた。
「わかった...無理しないでいいわ。」
ロゼッタは続けた。
「どうするジャレオ? 2人行くしかないわよ?」
ロゼッタはそう俺に訊いた。
少し間を開けた後、俺は言った。
「......わかった。ロゼッタ、ちょっと待ってくれ。」
「...? ジャレオ...?」
俺はしゃがみ、エリザリアの方へ背中を見せた。
「ジャレオ様...?」
「乗っかるんだエリザリア、俺がおんぶしよう。」
「...えっ?」
エリザリアは困惑していた。
「なっ...!? い...いきなり何言ってんのよ! ジャレオ! こんな時にイチャつくな! 私が作れる15分はイチャイチャタイムじゃないのよっ!!」
ロゼッタも困惑していた。
「これはイチャイチャタイムではない...。俺が滅茶苦茶強い事を証明する為にエリザリアをおんぶするのだ......。」
俺は続けた。
「俺は......エリザリアをおんぶしながら大型魔物に勝つ......!!」
「な、な、何じゃそりゃ!?」
「もう二度とエリザリアが恐怖しないように.....今後、俺が一緒にいれば必ず安心出来るようにな......。」
「......分かりました!」
エリザリアが俺の背中に乗っかった。
「よし、行こう。」
「よし、行こう......じゃないわよ! 行けるわけないでしょ! どこに彼女をおんぶしながら大型魔物と戦う冒険者がいるのよ!」
「大丈夫ですロゼッタさん...、ジャレオ様はとってもとっっっってもお強いですから!!」
「エリザリア! あなたもあなたよ! なんで素直に乗っちゃうのよ!」
「ロゼッタさんの言い分もわかります......ですが私をおんぶしている状態でもジャレオ様なら必ず...必ず討伐して下さいます!」
エリザリアはおんぶされながら強い意志でロゼッタを見つめた。
「という訳で、行こう、ロゼッタ。」
「もう、訳分かんない......! どうなってもしらないわよ! 時間が無いから『テレポート』するけど......。全く...とんでもないイチャイチャカップルね......。」
ロゼッタはテレポートを発動させた。
俺達はルーシティ街の中心部に移動した。
周囲を見渡す限り、これから大型魔物が出現する気配など微塵も感じなかった。
「丁度この街の中心に魔物が出現するわ。二人とも、構えてね!」
「ああ。」
「はい!」
「......その格好だと何か調子狂うのよね......。」
ロゼッタは悩ましそうに頭を抑えていた。
俺は早速『完全逃走』を発動させた。
「エリザリア、俺は片手は使えないから支えがちょっと不十分になると思う。しっかりつかまっててくれ...。」
「わかりました...!」
エリザリアはぎゅっと俺に抱きついた。
俺は左手でエリザリアを支え、右手でアレグレンズナイフを持った。
突如として黒き魔法陣が空中に出現し、大型の魔物が出現した。外見は犬の様であった。
「うわああああ魔物だあああ!!」
「なんでこんな所に魔物が!」
民衆がパニック状態になった。
「来たわ! 行くわよ!」
「ああ!」
俺はエリザリアをおんぶしながら、魔物の背後に回り、魔物を斬った。
魔物は前に倒れ、再起不能になった。
「やりました! ジャレオ様!」
「よし! 残り1体!」
俺はもう一体の方にも、同じように回り込んで斬り刻み、再起不能にした。
「終わったか.......。」
「やりましたね...! ジャレオ様!!」
「ああ...。」
俺はエリザリアを降ろした。
「勝った......冒険者様が私達を守ってくださったぞーーー!!」
「おんぶじゃ! 『おんぶの英雄』じゃあーーー!!」
「うおおおおおおおおお!!! おんぶの英雄様ーーーーー!!!」
民衆は熱狂的に歓声を上げた。そして俺達はすぐに囲まれた。
「うん?」
「おーんぶ!おーんぶ!!おーんぶ!!!」
民衆は俺を担ぎ上げ、胴上げを始めた。
う~ん、何か...予想外の展開になってしまったな。