夏のホラー魔導書3
『夏のホラー魔導書3』を開くと、最初に注意書きが書かれていた。
俺はそれを読み上げた。
「なになに......本書には過度な表現を含んでいます。心臓が弱い方は控えて下さい......か。 こう言う注意書きがもう既に怖いよな......。読んでいればいつか必ず怖がらせに来るんだろうな〜って。」
「うぅ......。」
エリザリアの震えが更に増した。
「俺の姉ちゃんが心臓の病気になった事がある爺ちゃんにこのシリーズ見せてたけど、全然何ともなくて、寧ろ喜々としてたけどな......。一応書いておかないと出版社は責任取れないって事か。 まあ、次行こう。」
俺は次のページをゆっくりとめくった。
「うお!」
俺は思わず声が出てしまった。
「ひぃ......!ど、どうしました......?」
エリザリアが慌てて俺に尋ねた。
「ああ...ごめん、これ、本のシミだ......。」
「ジャ、ジャレオ様〜......。」
エリザリアは脅かすのは辞めてくださいって感じの表情で俺を見つめた。
「はははっ。ごめんごめん。気をつけるよ。」
俺は思わず笑ってしまった。
「それじゃ次行くぜ。」
「はい...。」
俺はページをめくった。
本のストーリーとしては母と娘が幸せに一緒に暮らしていたが、ある日、娘が原因不明の難病にかかってしまうと言うものだった。
本書には苦悩する日々を送る母親の日記が書かれていた。
ちなみにこのシリーズは全部フィクションの怪奇小説だ。
『1988年 7月、愛しのエミリーはこの世を去ってしまった......。ああ、私には希望がない......。』
「う~ん、日付の部分はシミで読めないな....。」
「そんな......。」
「そろそろ物語も終わりに近づいてきた頃か。」
俺は次のページをめくる。
『1988年 7月18日、私も貴女のもとへ向かうとするわ......。待っててね、エミリー......。お母さん、すぐ行くから......。』
「ええ....そんな...。」
「お母さんは自ら命を絶つ事を選んだって事か......。」
俺は次のページをめくった。すると。
「...? 何も書かれてない...真っ白だ......。」
「え...?」
「あれ?でもおかしいなぁ......ページはまだあるんだが......。」
俺はページを次々とめくったが、ずっと白紙のページが進む。
「ジャレオ様......。」
こちらを向いたエリザリアの目は涙目になっていた。
「よしよし...怖くない、怖くない。」
俺はエリザリアの頭を優しく撫でた。
ある程度ページをめくると、次のような文章が出てきた。
『次のページに脅かし要素が有ります。注意して下さい。』
「え...! それ言っちゃうのか......。まあ確かに前作で凄い苦情が殺到したって聞いてたけど......まさかネタバレとは......。」
想定外の出来事に俺は驚きを隠せなかった。
「ジャレオ様...、私本当に駄目なのかも知れません......。」
「そう? でもこれネタバレしてあるよ?」
「それでも...、怖くて......。」
「そうか...。それじゃもう止めようか。」
俺はエリザリアの意思を尊重して、本を閉じることにしたが、何故か閉じなかった。
「これ魔法で固定してあるな、最後まで読まないと多分閉じないな......。」
「え....?そうなのですか...?」
「うん.....。やれやれ......親切なのか、そうじゃないのか判らないな......。」
俺は困り果てた。
「ジャレオ様、あの......。」
エリザリアが尋ねた。
「うん?どうした?」
「ページを開いた瞬間、ジャレオ様の胸元へ飛び込んでもよろしいでしょうか......? それなら我慢出来そうな気がします......。」
「名案だな。いいぞ、是非そうしよう。」
「ありがとうございます......。」
エリザリアは少し安堵していた。
「うん、それじゃ、準備はいい?」
「はい......!」
俺はページをめくった。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』
本のページに髪の長くて目元が真っ暗になっている女が突如として写った。女の叫び声が聞こえる。
「ジャレオ様...!」
エリザリアが俺の胸元へ飛び込んできた。
「エリザリア!」
俺はそれを受け入れ、すかさずエリザリアを抱き寄せた。
「ジャレオ様......。」
「よしよし、怖くない、怖くない。」
俺はエリザリアを抱きしめながら、頭を撫でていた。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』
女はずっと叫びながらこちらをガン見していたが、お構いなしに俺はエリザリアを抱き締めていた。
「後5秒ほどで終わると思う。エリザリア、もう少しの辛抱だ。」
「はい......! ジャレオ様...。」
エリザリアは安堵し、思わず笑みが溢れていた。
思った通り、五秒経つと、女の虚像と声が消えた。本はひとりでに閉じた。
しかしすごいな、去年より迫力が進化してるわ。