表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰もいないこの世界で  作者: 如月月 月
本編『誰もいないこの世界で、彼女は――』
6/24

五話『訪問者がもたらすものは』

 ◆喜多川レイラ視点◆


 教会で過ごす日々に慣れ始めた、とある日のこと。


 ちょうどこの教会でお世話になり始めてから、十日程度が経ったくらいの日だっただろうか。


「やあ、元気にしてるかな?」


 教会の扉を開けて、いつぞやの恩人が現れた。私と倉科くんが教会の掃除をしていた時のことである。


 にこやかに、手を挙げながら声をかけてきたのは、深い青色の髪の中性的な美人さん――カミーユさん。肩になにか大きな荷物を担いでいる。


 私と倉科くんが森の中で死にかけていたところを助けてくれた、恩人の中の恩人だ。


「あ、こちらこそ。お久しぶりです」

「お、お久しぶりです」


 箒を持ちながら、気軽に頭を下げた倉科くん。慌てて私も続くと、嬉しそうに微笑んだカミーユさんが私の方を向いてきた。


「レイラちゃんはもう大丈夫そうかな?」

「あ、はい。え、えっと、以前お会いした時は、すみませんでした」


 カミーユさんの言葉に、ハッとなって答える。


 私は以前、それどころでないほど気が動転していたと言えばそうなのだが、恩人のカミーユさんたちにすごく失礼な対応をしてしまっていたのだ。


「うぅん、いいさ。ところでカティアさんは……あぁいや、君たちでも大丈夫かな?」


 カミーユさんが用件を切り出そうとする気配。「なんでしょう?」と倉科くんが言うと、一つ頷いたカミーユさんが口を開く。


「うん、教会に少し寄付をしようかと思ってね。ついでに君たちの近況が聞けたらと思って来たんだ。そういったことはもう教わってるかな?」


 教会を管理する牧師としてカティアさんから指導を受ける私たち、当然寄付を受けた時の対応なんかも知っている。


「教わってますよ。ありがとうございます、このお礼は必ず」

「うぅん、いいんだ。人々が幸せになれば、それでね」


 お礼をすると言った倉科くんへ、カミーユさんは穏やかに笑って言った。キザでわざとらしい、けれどカミーユさんの口からであれば、それがとても自然な言葉に思えてしまう。


 ……たしかカミーユさんは、本当に世界を救う力を持った人なのだ。救世主、と言ったか。


 そりゃあ、本当に世界を救ってしまえる人がそう言うのは変なことではないし、カミーユさんほど裏表のない人が言うなら本心だろう。


 聞いていて実に清々しい、綺麗な言葉だと思う。


 ――それにしても。


 カミーユさんは、果たして〝どっち〟なのか。落ち着いた今になって観察してみても、やはりよくわからない。


「はい。ほんとに気持ちだけだけど。こっちは今日狩ってきた猪、血抜きはしてあるよ」


 小さな袋に入れられた、恐らく現金だと思われるものと、肩に担いでいた大荷物を「猪」だと言いながら倉科くんへ渡すカミーユさん。


 倉科くんは丁寧にお礼を重ね、厨房へそれらを持っていった。残った私とカミーユさんの二人で、カミーユさんのもう一つの目的を遂行することに。


「それで、どうかな? ここでの暮らしは慣れたかい?」

「は、はい。カティアさんにもよくしてもらってますし、商店街の人たちも優しいですし、子供たちも可愛くて」


 話しながら、身振りで「立ち話はなんだから座りましょう」と、教会の長椅子を勧める。ここは礼拝堂スペースのため、座ることのできる長椅子がたくさんあるのだ。


 ――……それにしても、真面目にわからない。


 カミーユさん、男性なのか女性なのか。倉科くんは普通の態度だったけれど、私以外への対応はみんなそれなので、「倉科くんが警戒するなら女性のはず」などというような〝女性恐怖症レーダー〟は使えない。


 ……倉科くんが嫌うのは私だけ、というのを不意に思い出してグサリと自傷気味なことをしてしまったが、それは努めて頭から振り払った。


「そっか。不自由はしていないかな? 随分文化も違うだろう?」

「それは……はい、正直、戸惑うことも多いです。でも、なんとかやっていけてます」


 カミーユさんの会話に応じながら、身体を観察する。もちろん視線を露骨に動かすことはせず、あくまで全体的に見ていく感じだ。


 ――初めて会った時のような革鎧はない。街の中だからだろう、普段着と思しき軽装だ。


 初夏の陽気であるこの頃、カミーユさんもそれなりに薄着なのだが、やはりボディラインまで中性的な人だ。女性的な肉感、主に胸周りのそれは見当たらないのに、いわゆる〝ガタイ〟というのは華奢である。


 体つきだけで判断するなら、とても線の細い男性か、胸が全くない女性か……顔は中性的が極まっていて、少女マンガのイケメンにも、普通に綺麗な女性にも見える。


 声や口調に関する所感も初対面時と変わらない。つまり、判断材料に新たな収穫がなく、結論も変わらない。


 要は、全然わからない。


 ……なんというか、話している相手の性別が判然としないのは、微妙にやりづらい。


「ふむふむ、じゃあなにか変わったこととかあるかな? なんでもいいよ、最近変に夜中が騒がしい気がするとか、見かけない人を見たとか、そんなの」


 ――と、カミーユさんは続けて言った。


 変なことを聞くんだな、と不思議に思いながら、聞かれたのだからと答える私。


「……? いえ、そういうのは特に。なにかあったんですか?」


 話の流れで、自然と事情を問う質問が私の口から出ていた。特別気になったわけでもないのに、ポロリと零れたその疑問。


 カミーユさんが難しい顔になる。


「……そう、だね」


 なにかを思案するように目線を伏せ、カミーユさんは小さく呟いた。


「……うん、きちんと話すよ。でも、そのことはユズルくんが戻ってきてから、彼にも話したいんだ。構わないかな?」

「え、あ、はい。いいですよ」


 大した意味のなかった問いに、思ったより大事の雰囲気が漂っている。困惑しながら私が了承すると、カミーユさんは苦笑した。


「ユズルくんが戻ってくるまで、もう少し話そうか。……そうだね、なにか悩みとかないかな?」


 ――そうして続けられた言葉こそ、私の零した先の疑問と同じように、大した意味がなかっただろう。


 けれども今度も同じように、大した意味のない問いかけに大事が引っかかる。


 ……悩み、なら、すこぶる重大なものがある。


 故郷への郷愁の念とか、今の生活への細かな不満とか。……あとは、倉科くんについて、いろいろと。


「それは……その」

「――――」


 言い淀む私。言葉に詰まるカミーユさん。たぶん、私が大きな悩みを抱えている、というのはこの時点でバレてしまっただろう。


「……話しにくいことかな? なら無理に話さなくてもいいよ、君のタイミングで。言えないこともあるだろうしね」


 「メガーヌを訪ねてもらえたら、あいつも相談に乗ってくれるから」と、私たちをこの教会へ紹介してくれたあの金髪の女性を引き合いに出し、カミーユさんがそう気遣ってくれた。


「……す、すみません」


 その気遣いに対するお礼と、気遣いを無碍にしてしまうことへの謝罪、「悩みは言えない」という具体的な答え……それらの意味を込めて、私はカミーユさんへ謝った。


 カミーユさんは爽やかに笑って、直後に倉科くんが出て行った扉の方へ目を向けた。


「いいさ。――ん、ちょうどユズルくんも戻ってきたみたいだね」


 その瞬間に扉が開けられて、カミーユさんの言葉通り倉科くんが出てくる。


 さすが救世主、などと言うのも違うのだろうが、気配を察知したような感じで倉科くんの訪れを予期していた。第六感とか、そういうものか。


 ――倉科くんが、子供たちやカティアさんが喜んでいた旨を告げ、お礼に夕飯なんかでもてなしをさせてほしいということを言い、カミーユさんがそれを快諾する。


 そんなやり取りの後に、カミーユさんが話を切り出した。


「ユズルくん、実は今日、君たちにいろいろ聞きたいことがあったんだ」

「聞きたいこと、ですか?」


 私の座る長椅子、人間1.5人分は開けて私の隣へ座った倉科くんが、カミーユさんの言葉に首を傾げた。


 気安さの感じられる倉科くんの仕草。カミーユさんの人懐っこさと、倉科くん本来の愛想のよさの物怖じのなさなどが、上手い具合に噛み合った結果だ。


 それはちゃんと理解しているけれど……なんだか、やっぱりちょっとモヤッとする。


 ――私とも、そうやって仲良くしてくれたっていいのに。


 どうして、私だけ。


「うん。ほんとにいろいろ、ね。まずは……そうだな。君たちの元いた世界のことを、聞かせてほしいんだ」






 ◆倉科結絃視点◆


 ――君たちの元いた世界のことを聞かせてほしい。


 そう言ったカミーユさんへ、俺と喜多川は日本のことを話していった。


 ここより随分文明が発達していること。ここでは見ることのできない技術や建物がたくさんあること。救世主はいないし、喜多川を襲った狼のような奇天烈な生き物はおらず、地球の狼はもうちょっと大人しいこと。


 時折カミーユさんから尋ねられたことにも答えていく。魔法や魔力などという、ファンタジーのお約束が地球にないということもそこで話した。


 その果てに、こんなことを聞かれた。


「君たちの世界に、神とか悪魔とか、そういうのはいたのかい?」


 ――いるかいないかで言えば、そりゃあいない。けれど地域によっては信仰されているし、実在を信じる人も否定する人もいる。とりあえず見たことはない。


 と、俺は説明した。喜多川も同意見だったのだろう、反対意見も補足説明も出なかった。カミーユさんはそれを受けて、少しだけ考え込む。


「……うん、ありがとう。知りたかったことはわかったよ。それじゃあ、あと二つだけ。複雑な質問は今ので終わったから、あとは簡単だよ」


 数秒の思考を経て、カミーユさんはそう続けた。彼の事情を知らないから無理もないが、カミーユさんの意図がイマイチよくわからない。


 とりあえず、質問に答えていく。


「この世界に来た時……いや、来た瞬間、か。その記憶はあるかい? というか君たちは、〝世界を渡った瞬間〟を、どんな風に知覚したんだい?」


 微妙に、答えづらい質問が来た。


「……。……よく、覚えてないです。世界を渡った瞬間、の記憶はありませんし、その前後の記憶も曖昧というか……」


 必然的に、こんな曖昧な答えになってしまう。横から喜多川が同意する。


「私もです。元いた世界の最後の記憶も、どこで途切れたのかわからないですし……この世界に来た最初の記憶も、目が覚めたら森の中に立ってた、みたいな感じなので」


 彼女もその辺りは俺と同じらしい。正しくその通りだ。


 日本で暮らしていた俺がある瞬間にこの世界へ召喚された、などと考えるならば、そもそもどのタイミングで召喚されたのかがよくわからないのである。


 日本での最後の記憶は、放課後に友人たちと帰ろうとして、ホームルームを終わらせたのか終わらせていないのか、家に帰れたのか帰れていないのか、そこがよくわからない。


 この世界での最初の記憶だって、この世界に放り出された直後から行動できていた、というより、立ったまましばらく森の中で意識がなくなっており、ある程度経ってから目が覚めたような感じである。


 ――つまり、本当によくわからない。


「そうか……直前の記憶に混濁が出て、直後に意識が保てていない、ってことなのか……ありがとう。じゃあ最後の質問だ」


 小声でカミーユさんが呟いた解釈に間違いはない。彼の繰り出す最後の問いかけに耳をすませる。


「これはレイラちゃんには聞いたんだけど……最近、妙な奴を見かけたりしなかったかい? こう、明らかに人間じゃなさそうな変な奴とか、そうでなくても、見慣れない不審人物とか」


 ……この街で暮らし始めて、たかが十日かそこらの俺たちになにを聞くのだろう。


 あいや、カティアさんや子供たちがそう言っていなかったか、などという旨の問いかけだろうか。……それとも、明らかに人外の異形生物を見かけなかったか、などという意味ではあるまいな。


「……いえ、特には思いつかないです」


 いろんな考えが頭に浮かぶものの、質問には答える。


 喜多川にも聞いた、と言っていたし、俺のこの答えは予想できていたのか。カミーユさんはすんなりと「そうか……」と受け取り、話を切りかえた。


「――うん、わかったよ。ありがとう、二人とも。じゃあ、こんな変な質問をした理由を話そうと思う」


 と、カミーユさんは真剣な顔になる。


 真正面から俺と喜多川を見据え、彼は声のトーンを落とした。こうして見ると、カミーユさんは随分中性的な人だ。


「僕は救世主――つまり、この世界を守る者だ。この世界や人々に害をなす存在を退治したり、この世界にとってよくないものを排除したりする役割がある」


 説明に必要なことなのか、カミーユさんは今一度〝救世主〟とやらの定義を話した。俺たちが相槌を打つと、彼は続ける。


「君たちは当事者だからあまり実感はないかもしれないけど、異世界の存在が訪れるなんてこと、余程のことがない限りは起こらないんだ。だから、君たちがいることはおかしいんだよ」


 そう語るカミーユさんの顔は、とても真面目なものだった。


 そんな顔を浮かべて語るのだから、これは〝そういう〟話である。


「救世主としては、そんな異常は放っておけない。目下、君たちに関しては、きちんとこの世界で暮らしていけそうだから心配ないとして……君たちにこの騒動の原因がないのは、あの時ユズルくんから聞いてわかったしね。僕が対処すべき問題は、別のところにあると睨んだんだ」


 「前置きが長くてごめん、結論を言うよ」と、カミーユは少しだけ雰囲気を柔らかくした。


 ――それが彼なりの戦闘態勢。滅びに立ち向かう救世主としての本気の姿、その片鱗なのだと俺が気がつくのは……もう少し、後のことだ。


「君たちがこの世界へ来てしまった原因……というか、君たちをこの世界へ招いた元凶。ソレは君たちが目覚めた森にいる。ここ最近通い詰めて調べてみたけど、あれは――」


 ――「君たちと同じ異世界の存在だ。だけどどうも、人間じゃないみたいなんだよ」、なんて。


 カミーユさんは、そう言って苦笑した。


 しょうがないなぁと言うような、いかにも気楽そうな、そんな苦笑。


 ――自らを「世界を救う者」と言い、「対処すべき問題」としてソレを見据えている……つまり、世界の敵と相対しているというのに。


 なお笑ってみせる飄然さと、中性的な外見による笑みが生む華やかさに……少しだけ、背筋が粟立った。






 ◆カミーユ・ブレス視点◆


 ――今まで何度も行った、ユズルくんたちと出会った森の調査。


 幾度となくなされたそれは、正直に言うと手詰まりだった。


 やることと言えば、注意深く周囲を観察しながら、警戒しつつ歩き回るくらいなものだが……それでも、光の御子たる自分ならば、という自負があった。


 しかし相手のやり方が上手いのか、それとも僕の救世主の力さえ超える存在なのか。それは定かではないが、これといった発見がないまま十日がすぎようとしている。


 あと少しまで迫っている、という感覚はあるけれども、やはりどうしても手詰まり。別方向からのアプローチをしよう、とユズルくんたちの下へ訪問することを決め、打算ありきの話だけして帰るのも申し訳ないので寄付も多めに持って行って。


 ――どうやら、異世界は異世界でも、ユズルくんたちと今回の元凶は別々の世界から来たらしい、ということがわかった。


「なるほど……」


 それを、一旦宿に戻って本題ついでにメガーヌへと情報共有する。


 ここへは、「寄付のお礼にもてなしがしたい、よければメガーヌさんも」と言うユズルくんの言葉をメガーヌに伝えに帰ってきたのだが、この情報も伝えるのは早い方がいいだろう。


 ――森に潜んだ存在は、なにか強大でおぞましいもの。それも異世界の、この世界にとっての異物の気配もする。


 実際に神と言葉を交わしたこともあるメガーヌの所感では、あの強大な気配は正しく〝高次の存在〟で、認めたくはないが神に近いものだろうと言う話なのだ。


 なるほど確かに、人間など比べものにならない存在である神ならば、世界を渡ることもできるかもしれない。異邦人を喚ぶことだってできるだろう。


 ――ユズルくんたちに話を聞いたのは、いわばこれが本命だった。


 ユズルくんたちの世界。チキュウ、と言うそこに、神だの悪魔だのという高次の存在がいるのか、と。


 返ってきた答えは曖昧なものだったが、総じて「いない」というものだった。世界を渡り人を喚ぶほどの存在が、現地の人間に知られていないのはおかしかろう、と、先の結論に繋がるわけである。


「……でしたら、なんらかの理由でかの存在がここへ来て、なにかの目的を持ってユズルさんたちを喚んだ。ただし、かの存在が元いた世界と、ユズルさんたちの元いた世界は別々のもの、と」

「そうなるね」


 メガーヌの出した推測に僕も頷く。さすがは一緒に活動しだしてからずっと息ぴったりの大親友、僕と考えが同じらしい。


「世界を渡るだけの能力を持った輩で、それも人間よりも高次の存在だ。これまでの戦いより、厳しいものになるかもしれない。でも――」

「――たとえ神と言えど、世界を渡ることは難しいはずです。でなければ、この世界はもっと混沌としていましょう。加えて、かの存在はユズルさんたちも喚び寄せている。そして、ここ数日の私たちの調査に抵抗をしてもいる」


 ここでも息ぴったりの口上。少し気分が上向きになって、自分の口元が緩むのがわかった。


 それでも締めくくりは大真面目に、なるたけ真剣な声色で。


「――なら、相当に消耗してるはず。なにが目的かはわからないけど、難しいはずの世界移動をするんだ。元の世界でよっぽど追い詰められていたという可能性もある」

「勝機、ですね?」

「ああ、仕掛けるのは早い方がいい。もっと力を入れて調査して、尻尾を出したところを油断なく捕まえよう」


 今後の方針を決定する言葉を放つと、メガーヌは表情を和らげてくすりと微笑んだ。


「ふふ、カミーユ、熱くなりすぎです。そんなにユズルさんたちのことを気に入ったんですか?」

「ん――」


 その彼女が放った言葉に、少し不意を突かれた。


 つまりメガーヌは、僕がユズルくんとレイラちゃんを気に入ったから、あの子たちの生活を乱したかの元凶を許せないでいる……などと言いたいのだろうか。


 それは、まあ。


 認めるまでもなく。


「――うん、もちろん。僕はみんなのことが好きなんだ。ユズルくんもレイラちゃんも、カティアさんや子供たちも、この街の人たちも、みんなね」


 「当然メガーヌのことも好きだよ?」と言うと、メガーヌは一際おかしそうに笑った。


「あら、うふふふ」


 きっとわかっているのだろう。僕の言う「好き」は、博愛に似た親愛や友愛のそれ。目に映る者どころか、全人類を本気で「好きだ」と言う僕のコレは、〝お人好し〟なんていう言葉を悠々と飛び越えている。


 しかし薄っぺらいものでなど断じてなく、当たり前のようにすこぶる本気の「好き」だ。それをメガーヌも承知して、まっすぐ受け止めながら――


 それでもおかしそうに、メガーヌは上機嫌に笑うのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ