第一話 世界大戦
沙羅、華林を救い、テロ組織を無力化してから早一年が経ち、気温が高く夏を感じさせる七月に、それは完成した。信事の計画は、枯葉によって実行され、旧ロシア領の西武の都市、モスクワに設置された軍事基地は、世界中に混乱の嵐を発生させた。信事は世界にこう訴えかけるためにこの装置を作ったのだ。改進軍は、新たな軍備施設を設置できる財力ともう一つ、”核”を持っていると。信事の思惑通り、混乱の最中核の放棄を世界に訴えかけた。信事の代役として、紅葉はインターネットを通じて世界中にこう訴えた。
「全ての国が核を解体しないのならば、最悪、核を行使して強制させる。」
世界中は核戦争を危惧した。信事が本当に核を使うと思い込み、どの国も改進軍を重要敵対国と見なす風潮が広がった。
改進軍本部、つまり日本の首都、東京、上野にあるベッドタウンの一角、ここ数年で建てられた団地を拝借した兵舎の最上階、信事は自分の部屋に紅葉を招き、相談をしていた。
「全てはお前の思惑通りか。」
「そうだ。だがまだ来ない。」
「宣戦布告が?」
「ああ。」
「来たらどうする?」
「改進軍は戦わない意志を表し、平和団がテロ組織を名乗って宣戦布告する。」
「全面戦争になるぞ⁈」
「…お前、平和団の強さに自覚しているのか。」
「そりゃお前、誰が育てた部隊だと思ってるんだ。」
「悪かった。お前は戦闘に特別だった。だが、それが狙いだ。」
「狙い?」
「ヨーロッパ連合とアメリカを落とす。平和団が例の軍事基地を占拠する。」
「その動きで平和団が改進軍と関係のないように見せるってか。」
「その通りだ。」
「その後はどうする。」
「アメリカとヨーロッパの軍事力を後ろ盾にして、その他の諸国を抑える。」
「どれだけの国を植民地化するんだ?」
「植民地じゃない。“自国領地化”だ。」
「我が物にしようってか。」
「そうだ。百九十カ国は手に入れたい。」
「地球全土じゃねぇか。まぁアメリカとヨーロッパを押さえたら勝手に介入してくるだろうがな。」
「そう願いたい。」
紅葉は一口、缶に入ったエナジードリンクを飲んだ。
「お前も飲め。」
そう言って、同じエナジードリンクの新品もう一本を信事に差し出す。
「ありがとな。」
そう言って信事はエナジードリンクを一口飲んだ。
「そういやお前、また銃をそろえたのか。」
「部屋のか?」
「ああ。てっきり、朝鮮支部が焼かれてそれきりかと…。」
「あの部屋は特別性、防弾防水防火防熱防音耐震対策がなされている。」
「んな⁈」
「そう簡単に壊れねぇよ。俺は焼け跡となったその部屋からコレクションを運んだだけ。」
「お前も銃マニアだったのか…。」
「サバゲ経験は浅いがな。」
「俺は基本、ヴェクターで勝負してたな。」
そして信事はもう一口、エナジードリンクを口にした。
「そういやお前、どうして二丁拳銃なんだ?」
「どうしてって?」
「だって、二丁拳銃って、照準ブレるし、役立たずって言われることが多い。だから最初からその装備にすることはないと思うんだ。」
「ああ、俺は当初、L96-A1を使ったスナイパーとしての訓練を受けた。」
「ってことは、元は狙撃手だったのか。」
「まぁな。だがある日、俺の拳銃における才能を見出してくれた奴がいるんだ。そいつは、ある銃器店の店長をやっていてね。実銃を扱っていて、試射場もあった。俺は狙撃だけは左利きだったから、狙撃銃を左に構えていた。だが、拳銃は右だった。そこで、そいつは俺にあるハンドガンを渡してこう言った。“左で撃ってみろ“ってね。その銃の名前こそが…。」
紅葉はCz-75ファーストモデルを机の上に置いた。
「Cz-75。知っているか?世界最高のコンバットセミオートピストルとも言われた、高貴な銃だ。それを手渡してきた。そしてその後、こいつを出してこう言った。“次は右だ。”って。」
そう言って紅葉はHK-USPを取り出した。
「俺は昔、ガンプレイにハマっていた時期がある。その時に一番技を覚えたのが、彼がくれたこのHK-USP。ユニバーサルセルフローディングピストル。彼はその射撃を見てこう言った。“両方を出来るだけ早く、交互に、狙って撃ってみろ。”そこから俺は二丁拳銃を完璧に使いこなせるようになるため、彼の店に行っては射撃練習を繰り返し、完成した。改進軍が出来てから二年目くらいだったか、そこからずっと通い続けている。」
「ほぅ。そいつの名前は?」
「知らない。あいつは名前を口にしない。基本偽名だからな。」
「偽名でもいい。」
「…コルトって言うんだ。」
「へへ。」
そう言って信事はColt_M1911-A1ガバメントを取り出した。
「こういう事だろ?」
「そうだよ。あいつは変わっている。八年付き合って解った事は、銃好きで熱烈で変人ってことくらいだ。謎に満ちた男だよ。…だが信頼している。」
「そうか…。」
「作戦は枯葉の指示で事足りる。俺は部屋に戻って銃器のメンテナンスでもしとくよ。」
「んー。了解。」
そう言って紅葉は信事の部屋を後にした。
今、枯葉は改進軍を引退し、平和団の幹部を務めている。彼が中心となって現在行われている計画は、計画の通り世界大戦を始めるための計画なのだ。数日後、静寂からの連絡だった。信事、沙羅、紅葉、華林、枯葉は紅葉の部屋に集まってその連絡を聞いた。連絡の内容は、例の計画についてだった。
『宣戦布告が来ました。ヨーロッパ諸国連合からです。』
「アメリカは何と言っている?」
枯葉が問う。
『アメリカは今すぐ核を解体しろと。』
「上等だ。静寂、改進軍は沈黙していろ。」
「信事?どうするの?」
「案ずるな、沙羅。紅葉、平和団の皆は?」
「朝鮮支部で皆待機している。」
「…予定通りだな。さぁさぁ、戦士諸君よ。戦争の始まりだ。紅葉、頼む。」
紅葉はコクリと頷いた。紅葉の右耳にはめられていた無線機の電源を入れた。
「これより、全平和団攻撃部隊に次ぐ。戦争を開始する。我々が朝鮮支部に到着次第、攻撃進軍を開始する。総員、戦闘用意。」
「さてと。」
信事はその場で立ち上がる。
「これからどうすんの?」
「ここにいる平和団に次ぐ。朝鮮支部へ移動しよう。」
「私正式な平和団じゃない。」
華林は自分のことを指さして信事に抗議した。
「来たいか?また死体を見たいか?」
「紅葉、その言い方は無いでしょ。」
「まぁ聞け沙羅。確かに言い方は言い方だがな、現実は言い方どうこうとは違う。」
紅葉は沙羅に目を移す。
「生きるか死ぬかの二択だ。どれだけ皮肉を言おうが、現実を知ってもらう必要がある。」
そして再び華林に目線を戻した。
「華林、もう一度問う。来るか来ないか、どっちだ?」
「…行く!」
「信事、さっさと行くぞ。時間がない。俺の部下に暇させたらただじゃおかねぇからな。」
「承知の上さ。枯葉、プライベートシップを出せ。航空機でさっさと飛ぶぞ。」
「了解。」
数十分後、空港にジェット機の音が鳴り響いた。
数時間後、平和団と紅葉たちは合流した。
「さーて、俺の可愛い部下ども、命令だ。従わなければ火炙りな。」
「怖っ⁈」
華林が突っ込む。紅葉はスルーする。
「陣形は組まなくていい。野戦具と市街戦装備でモスクワの軍事基地を襲撃する。」
「み、味方の…ですか。」
「まぁな。だが形だけだ。追い出したっていう程でいい。それで十分だ。」
紅葉は無線機を通して命令を下す。
「繰り返す。野戦具と市街戦装備でモスクワ軍事基地へ向かう‼急げ、時間の勝負だ‼」
「…お前らチームワークいいな。」
「だろ?枯葉。紅葉は才能だけじゃなくて仲間からの信頼も厚いんだ。」
「信事、俺たち置いて行かれそうだからさっさと四駆に乗ろうぜ。」
「…そうだな。沙羅、華林。四駆に乗るぞ。」
「「はーい。」」
「対戦車兵器はどうします?」
「…いや、止めておけ。変わりに、M61バルカンを積んでけ。」
「待て、ここにもあったのか?バルカン。」
「驚くことじゃないだろ、信事。先日の件でガトリングの無力さを証明したが、使い手も使い手だったんで、うちの部下で試してみた。各段に実力が上がっていた。…採用した。」
「お前も悉く男子だな。」
「ロマンなんざ関係ねぇ、必要なのは戦力だ。戦力と人材、そして需要だ。」
「…ブラック企業かよ。」
「うっせぇ、さっさと車に乗れ‼」
「へいへい。」
全員が車に乗り込む。
「全員乗ったな?朝鮮支部下層駅まで走らせて、リニアに貨物を積んでから客車に乗れ‼」
了解の返答が各部隊長から届いた。しばらくして駅についたので、貨物に兵器やら武器やら野戦具等を入れ、客車に乗り込んだ。
「今夕方だから、朝にはたどり着くだろう。」
「ふーん。」
「すんごい興味なさそうだね、沙羅。」
「事実興味ないからね。」
「そんなんでいいのか平和団。」
「今更だろ、信事。」
「紅葉…いつから解っていた…?」
「創設時。」
「遥か遠く平和な時代だこと…⁈」
「華林、あの時代もさほど平和じゃなかったぞ。」
「感じ方十人十色故。」
紅葉は苦笑いをした。
「あーあとこの部屋にもう一人来るからよろしく~。」
「「聞いてねぇ~ぞ信事‼」」
紅葉と沙羅という怖いお二人が信事を睨みつける。
「ま、待て待て。殺す気か。」
「お前がその気なら殺ってやってもいいんだぜ?」
そう言って紅葉はコンバットナイフを手の平で回して見せた。
「ひっ‼」
「紅葉?その時はご一緒していい?」
そう言って沙羅はM24E1-ESRを背中から腹の前に回転させながら移動させ、構えて銃口を信事に向けて見せた。
「ああ、構わないぜ。コイツの肉をたんまりくれてやる。」
「あら、ありがとね。たんまりと堪能しないとねぇ。」
沙羅と紅葉が狂ったような目で信事を見下した。
「た、助けてくれ、枯葉‼」
「知らね。」
「枯葉ぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
「ふふふっ。」
「はははっ冗談冗談、落ち着けって。」
「悪かったわ。…でも次からちゃんと報告してね。」
「りょ、了解。」
信事は苦笑いしながら返答した。紅葉と沙羅はそれぞれ、武器を戻した。その間、華林は窓から外の景色を堪能していた。




