第三話 誓い
俺たちは予定通り品川で合流し、予定通り迎えの鉄道に乗って、予定通り皇居前にたどり着いた。そして信事は皇居の目の前でこう言った。
「お久しぶりです、天皇陛下。」
しかし、招かれたのは敵だった。
「クッ、敵だ‼紅葉、お前、残弾は⁈」
俺たちは一斉に物陰に隠れた。信事の問いにすかさず答える紅葉。
「あと三発と、七発マガジンが三、いや四個だ‼」
「そうか、こいつを持っておけ。」
「二十発?恩に着る。」
「お前、枯葉は?」
「こいつに残り十五発です。あと、二十発スタングマグが残り二個です。」
「上等だ…。」
信事は目を輝かせた。そして、左手でカウントしている。四、三、二、一。すると、敵は一斉にリロードした。
そのわずかな瞬間、彼は物陰から飛び出した。デザートウォーリアで二十人の敵全員にヘッドショットを食らわす。しかし、敵はまだ五十人以上いる。
「進め、今しかない‼」
敵が軽機関銃を使って乱射している。敵の一人がリロードをしていた。ハンドガン使いだった。しかし俺はそいつの銃のRMRドットサイトに弾丸を食らわせ、そいつの貫通で使い手の方も片目を失わせ、周りからの弾丸をジャンプでよけ、そのままバレルを敵の鼻先の前で寸止めし、引き金を引く。貫通する過程で脳幹を損傷させた。俺はそのままバク転して着地し、敵のライフルを自分のライフルのバレルに絡めて敵を無力化し、脳幹に一打撃した。
俺は信事さんの援護をしていた。二丁拳銃を使い、敵の三名の顔面を吹き飛ばした。さらに敵に追い打ちをかけるために、敵の銃に何発かあて、そのまま目をえぐり取る。しかしここで75がホールドオープンし、リロード。そのスキに殺そうとした一人をヘッドショットで撃沈させ、その際にUSPもホールドオープンした。そのまま俺はリロードし、七発マガジンがあと二つとなった。俺は敵の真ん中に入り、マガジンを空中に放り投げた。クロスショットで敵の十四名を撃沈。ホールドオープンした銃に落ちてきたマガジンを入れる。残りは二十発マガジンが二個と銃器本体の十四発だけとなった。それでもまだ続く戦い。俺は声を挙げた。
「枯葉、いるか⁈」
「居ますよ、ここ‼」
「…俺はもう、敬語されるほどの身分じゃない。その話し方を止めてくれ。」
何故か信事が割り込んできた。
「俺がこっちを引き受ける。奥の階段から上に登ってボムだ‼」
かなりの叫び声だったが、向こうは聞き取るので精一杯だったはずだ。俺はここを食い止める。何としてでも。
俺は走った。奥の階段、奥の階段…。
「これだ。」
俺は階段を上った。連射で味方の逃げ道を作る。
「沙羅、今すぐここに手榴弾を投げろ‼その間に離脱する‼」
「かーしこーまりー☆」
俺は爆弾を起動させ、二十秒後になるようにした。そして、作った逃げ道に向かって二回の吹き抜けから飛び降りる。
「とりゃぁ。」
そして走った。他の二人が外の一人と会話しているシルエットが見えた。大丈夫、皆無事だ。俺は扉に体当たりする如く外に飛び出した。瞬間、後ろで爆発音が聞こえ、俺の顔は誰かの血液で赤くなった。
「うわぁ⁈」
爆風で俺の体が浮く。俺は外に放り出された。受け身を取る間もなく道に転げ落ちる。
「イッタタタ。」
「だ、大丈夫?」
「あぁ、…沙羅さんか。大丈夫ですよ。」
「…沙羅にも、タメでいい。」
口を挟んだのは信事だった。
「俺は、あまり敬語されるのに慣れていない。それに、さっきもいったが、俺たちはもう改進軍じゃないんだ。お前らに敬語される身分でもない。そんな筋合いもない。」
「わ…解りました。敬語を解きます。…それで、これからどうするんだ?」
俺は渋々敬語を解いた。
「ここは皇居として機能しているのか、むしろ確かめたくなった。スニーキングしようと思う。二人とも、装備の確認と補充、無線機のバッテリーを確認してくれ。」
「「了解。」」
俺と信事は同時に返事を返した。
「無線機、異常なし。」
「こちらも同じく異常なし。」
信事、俺の順に声をあげた。
「俺はさっきの騒動で残弾がこの二十発マガジン二個だけになった。」
「余裕だろ?」
信事が紅葉に問う。
「枯葉のバックアップ(支援)があれば余裕だな。」
紅葉も余裕そうだ。
「俺はまだ二十連マグが二~三個ある。まだまだ余裕さ。」
さすがの信事も余裕を見せている。
「お前はどうだ、枯葉?」
「俺は二十連スタングマグがラストと、本機残弾が七発ですね。」
「二十七か。ライフルでそれはきついかもしれん。しばらくセミ(単発)で戦え。」
「了解。」
俺は紅葉のアドバイスを聞き入れた。
「あと、予備でHK45に七発と、七発マガジンが二個あります。ハンドガンは得意じゃないけどね。まぁマシでしょ。」
「そうだな、有効に使え。」
信事は短くて的確な指示やアドバイスをしてくる。さぞ面倒臭がりやなのだろう。
「沙羅はどうだ、問題や異常はあるか?」
「異常という異常こそないものの、包帯や消毒液等の応急処置品が残り少ないから、あんたたちは敵からの攻撃には気を付けて動いて。」
「「「了解。」」」
三人同時に返答した。
「あと、あるにはある。まだ昼間だよ、皆疲れているだろうし、陽が暮れてからが潜入に適した時間。少しどこかを根城にして、夜まで休憩しましょう。事を急かしているあんたらが一番異常だよ?」
沙羅の突っ込みにすかさず反応する信事。
「そうね、どこか休める場所を探すか。ここら一体砂漠化してるから足元気を付けろ。」
辺りは砂地となっていて、本当に足場が悪かった。
「なぁ、君ら、あの砦でいいんじゃない?」
「どこのだ?」
「ここから少し東に向かう辺り。砦とはいえ、少し地面に埋もれているから信事は解らなかったのかな。ホラ、あそこに、鉄骨が見える。」
「あぁ、あそこは戦争前では馬鹿でかいビルだったのに。」
信事はここら出身のため、土地勘がすごいあるのだ。
「食料は?」
沙羅が問いかける。
「非常用の乾パン一キロカロリー缶が四個だ。全員に配布しておく。それから、水が二リットル、栄養ゼリーが二百グラム四個だ。」
「問題ないね。みんな食いすぎないでよ?」
「そんなことはしないって。命かけるぞ。」
「うん、命賭けなくても食いすぎたら飯無くなって結局餓死するわ。」
沙羅と信事はそんな言い合いを楽しんでいた。本当に仲がいい。それもそうだ。何年も前…それこそ、この改進軍が出来る前から友人だったと聞く。それ故に、互いが互いの事を認め、信頼しあっているのだ。
「この建物は構造上、屋上以外は壁に覆われている。屋上は柵がないし、地上からおよそ二十メートルは突き出ている。爆風で風化しても何とか残った跡なのだろう。」
俺は軽く皆に説明した。
「爆風ってことはここは戦火に逢ったってことか。」
紅葉は疑問に思っているようだ。
「あぁ、この間の近畿大反乱の原因となった、台場焼き打ち事件の舞台がここだからだ。」
「台場焼き打ち事件?」
俺の疑問に沙羅が答える。
「そう、台場に新型ミサイルの発射場を設けたんで、台場周辺が軍用に借り出されることになり、近辺住民と共にそれに便乗した関東の政府反対派と政府軍、関東軍ね。そいつらが争った。政府反対派は勢力が関東軍に奪われた成田から兵器を持ってきてここを焼き打った。自ら権力を弱くさせて抵抗できなくした成田は結局ほかの勢力にも勝てなかった。自分で自分の首を切った政府に勝ち目などなく、関東の東京南部はほとんどが焼け野原となった。そこで関東軍を近畿に引き上げさせた。そこで別の反政府軍と衝突が起きた。その場は何とかなったが、その直後に近畿まで追いついた政府反対派と関東、近畿軍の激しい闘争が起こってしまった。それが近畿大反乱。」
「その、台場焼き打ち事件と近畿大反乱って何年前?」
今度は紅葉が聞いた。
「およそ一年。」
「やっぱりだ。俺たちも約一年前、関東・近畿国内同盟軍と衝突したんだ。」
紅葉が説明する。
「じゃぁ、その反政府軍ってのは。」
信事は驚きを隠せていない。
「改進軍。」
俺はそう言った。
「そうだったのね。あなたたちは一度敗北していた。」
一瞬の沈黙だった。
「改進軍も八年前からあるんだ。一度も負けてない事のほうが珍しい。よく今まで全滅しなかったと思ってる。さぁ、夜まであと三時間ある。皆下で寝ていな。俺が見張っているから。遠慮はいらないよ。」
「ありがとう、恩に着る。」
俺たち二人は下層で深い眠りについた。
俺は少し休憩していた。そこで沙羅の姿がないことに気付いた。俺は階段を上って屋上を目指す。そこに彼女はいた。
「やっぱりお前は、屋上が好きなのか?」
沙羅は目に涙を浮かべていた。解る。皆の前で強がっていたのだろう。こう見えて、沙羅はとても弱いことを自覚している。それでも強くあろうとする彼女の執念は他の誰よりも強いのだ。
「沙羅…。」
「信事、私、怖い。あんたがすぐにまたどこかへ行ってしまいそうで。」
俺は立ちすくんだ。
「怖いの。あなたと会えなくなるのが。死にたくないのに。死んでないのに。死なせたくないのに。死んだように苦しい。」
「沙羅…。俺は絶対に。…絶対に。」
言葉が出なかった。死なない保証なんてないのが現状だから。でも俺は一歩二歩と歩を進めた。そして、彼女を抱きしめた。
「俺は絶対に、お前を一人にはさせない。」
こうとしか言えなかった。
「それでも…本当にあなたが生きてくれるなら私は…。」
相当不安だったようだ。
「目を瞑れ。」
「え?」
「いいから。」
俺はそのままキスをした。
「え?」
沙羅はまだ動揺している。
「二度と離さない。俺が死ぬまでは絶対に。」
俺は本気で死ぬわけにはいかないと思っている。この世界が平和になるまでは。たとえ片手が消えようと、例え腹が貫かれようと、絶対に生きぬく。そう決めた。
「沙羅、俺からも言わせてくれ。絶対に死ぬな。この戦争が終わっても、ずっと。俺の隣に居続けてくれ。」
俺は彼女の目を見据えた。
「うん。」
彼女は笑顔をこぼした。そして互いに頬を合わせた。彼女を不安から脱してやる方法なんてこのくらいしか思い浮かばなかった。だが、俺の彼女への思いは高く持っているつもりだ。簡単に沙羅を泣かせない。奴らに沙羅を殺させない。誰にも沙羅を傷つけさせない。これ以上、家族と言える人間を殺させやしない。この世界がいくら危険でも、いくら無慈悲でも。例え俺の体のどこかが犠牲になろうと、こいつだけは守って見せる。俺はそう心に誓った。そして神に訴えた。我々にこれ以上の苦しみ、困難を与えるならば、有難くそれを受け入れ、乗り越えると。夕暮れまであと十分。行動開始が目前に迫っていた。




