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偽りの王称  作者: 大空界斗
第三部 真実は無限
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第一話 過去語り

 コンコン。俺の部屋におのドアがノックの音で震えた。

「入れ。」

ガチャッ。改進軍の先導者の部屋に問答無用で入ってくる奴は皆無に等しい。掠矢と、アイツくらいしかいないだろう。入ってきたその者は、いつものような不安顔で俯いていた。華林だ。

「どうかしたか?」

「…。」

何時もこうだ。何を訪ねようと絶対的に返答をしない。謎に満ちた少女だ。

「…にしても、何でこんな何もないのかな。」

 あれ以降、日本が戦争を仕掛けてくることはなくなった。俺はため息を漏らす。暇というわけではない。改進軍の皆の危機意識が薄れているのだ。何時何時敵が攻めてこようが、おかしくない。しかし、俺も少しは休暇を謳歌したい。俺は、思い出に深く浸った。

 例の作戦の一か月前、改進軍の全国進軍で最後に残ったのは、中枢都市と石川県。地理的にも石川県はかなり攻めづらいのだ。

「…だから、わざと敵を西に向かわせて、そこから打てば…。」

「…どちらにせよ、危険性は大きいな。」

「時間だ。今日の午後二時の作戦会議までに自分の考えを各々まとめておくように。では、解散‼」

俺は石川県の県境を歩いていた。すると、あることに気付いた。

「おい、枯葉、石川って、あんなに地下街が整備されているものなのか?」

「いえ、恐らく、軍の地下基地でしょう。サイズが一般的の物より大きいですから。」

「なるほどな。」

俺は、笑った。これならいける。そう思ったからだ。

「地下基地を見つけた?」

驚きを隠せぬ様子で和夜が聞いた。

「嗚呼、そこからならいける。攻め落とすには、地下なら人数はいらない。少数精鋭で行くか、武器を軽量にするかだ。どうする?参謀さんよ。」

「そうだな、第一、第二部師団の武器を軽量解除して攻めよう。」

迷い気味に言葉をこぼしたのは、参謀の知在だ。

「了解、決まりだ。殺さなくていい、制圧だけだぞ。」

「…。」

掠矢は納得いかない様子だった。

 午後四時、改進軍は軽量装備の大群で地下制圧作戦が開始された。この地下道は、中京軍のアジトの一つだったようだ。

「侵入者だ、始末しろ‼」

敵軍はアサルトライフルを振り回している。真っ先に飛び込んだのは和夜だ。紅葉、枯葉と後に続く。USPを取り出し、敵兵のレッグショットを三発、アームショットを四発打って、マガジンを交換した。

「いいぞ、進め!」

和夜の合図でどんどん奥へ進んで行く。

「な?」

俺はそんな場違いな声を上げた。

「十一、十二、十三…十六部屋だ‼」

枯葉が和夜に報告する。

「紅葉、人を探してくれ、人質を取って情報をもらう‼」

「了解!ここは任せて、皆は奥へ頼む‼」

クッソ、どこだ、どこにいる。ん?食料か。誰かがいた痕跡…。は!居た!俺は鍵目掛けて蹴飛ばした。ガコン‼もう一発、ガコン‼

「チッ‼開かないか。」

ガコン、ガコン‼

「何度やっても同じ事、てめぇが壊されねぇ保証はない‼」

俺は自棄になってUSPを取り出す。

「俺の前で軟禁を解かなかったことを地獄で後悔しておけ‼」

バン‼銃声と共に辺りはマズルフラッシュで明るく照らされた。ガチャンという音と共に牢屋の扉を勢いよく開け、中にいる誰かを視認した。

「…痩せてる…。おい、動けるか⁈」

返答はない。骸骨を思わせるほどやせ細っていたのは、少女のようだ。息はまだある、脈はかなりゆっくりだ。このままだと、栄養失調で死ぬかもしれない。いや、まずは脱水が心配だな。俺は腰に掛けてあるプラスチックの水筒を取り出した。

「ホラ、とりあえず飲め、動けるか?」

反応がない。が、微かに目を開けた。俺は少女の口を手でこじ開け、水筒に入っている水を少女の口に少しずつ垂らす。無理矢理にでも飲ませる。

ドォォ‼

「何だ⁈…爆発音か‼」

…時間がない。どうする?

「おい、何か答えてくれ‼生きているなら、何か‼」

こいつが何か反応を見せてくれたら撤退して蘇生できる希望はある。

「頼む‼何か、答えてくれ‼」

かなり危険だ。こんな地下で戦っていたら、爆発やらなんやらで、崩れてくださいといっているようなもの。死んじまう。皆ここで、死んじまう。

「奥だ‼急げ援護を‼」

「了解‼」

俺の指示で何名かが飛び込んでゆく。こいつの体力も危ない。

「頼む何か――」

ドォォ‼

「な⁈またか‼」

再び爆発音が鳴り響く。

「くそぉぉ!」

置いていくべきなのか。

「………敵…が……く…る…。」

「敵…。」

俺は少女が口にした言葉を無意識に復唱していた。

ドォォ‼

「クッ!長居はできないか。」

俺はこの少女を抱えた。ガコン‼再び扉を蹴り開ける。

「居たぞ!捕虜が逃げ出した、捕まえろ‼」

俺は。一瞬立ち止まり、左背側の腰に下げたCz-75を手に取り、三発打った。正直、全然狙えていなかったが、動揺さえできればいい。しかし、見事三発とも腕に命中したのだった。

「あともう少しだ。俺が援護する!」

そう言ったのは和夜だ。

「助かる!出口だ‼」

俺たちは走った。疲れを忘れ、ただひたすらに走った。

 その後、側近の一人が車で近くの基地まで送ってくれた。そして、医療班の連中にこの少女の身柄を渡した。しかし、その日以降、彼女は深い眠りについていた。

 その日は突然訪れた。一週間後、そいつが目を覚ましたという連絡が入ったのだ。俺は和夜に指示されて、情報を聞き出すために病院へ向かった。

「邪魔するぞ。」

点滴がつながれている。見た限り外相は無い。その少女はまだ痩せているが、出会った当時よりはマシな方だ。無表情でこちらを見ている。

「こんにちは。」

「…。」

「君の名前は何だ?」

「…華林。」

「それじゃあ華林、出身は?」

「…解らない。…年齢も、親の顔も。何もかも。思い出せない。」

「それだけしゃべれるようになって良かった。もっと体力をつけてくれ。記憶がないのか?」

「…そう。…怖い。」

いきなり華林の声色が悪くなった。

「どうした?何が怖いんだ?」

「解らない。ただ、怖い。怖くて、狭くて、苦しくて、とても空腹で…。」

そういった直後、彼女は涙を流した。

「何でだ。怖い、怖いんだよ!」

華林が力強く訴える。俺は落ち着けるように華林を優しく抱擁した。

「大丈夫だ。もう怖くない。もう泣くな。共に生きよう、共に笑おう。」

解る。今の言葉だけで、あの牢獄がどれだけの役割を担っていたのかが解る。拷問、監禁、放置、独房…。そんな苦しみから、ショックからか解らんが、彼女の記憶を蝕んだ。中京軍はそこまで治安が荒れているのか。そもそも何故華林だけが閉じ込められていたんだ。しかし、その後華林が感情的に話すことはなかった。何も考えられなくなったように、失われた記憶と、そこだけ穴の開いた思い出に苦しんでいる。ピロピロッと俺の通信機が着信音を鳴らした。

「何だ?」

「こちら和夜だ。驚くべきことが起きた。」

「どうした?」

「中京軍が降参した。」

「なんだと?」

「至急戻ってきてくれ。」

「了解だ。」

中京軍が降参。もう、日本は何がしたいんだか解らなくなってきた。ともかく、緊急事態だ。現場に急いで、事情を聞き、場合によっては戦闘命令を出さなくてはならない。

「華林、ちょっとでないといけないから、待っててくれ。二時間ちょいで帰ってくる。」

「…わ、私も…。」

「何言っているんだ?待っててくれ。戻ってくるから。」

「…怖い。独りは…怖い。」

今にも泣きだしそうな声で言った。確かに、あの惨状だ。孤独にはトラウマがあるだろう。

「解った。行こう。ナース、ナース!」

看護師の素早い行動で、五分以内に出発できた。車に乗り込む。

「向こうを回れ、助手席に乗るんだ。」

そして、華林が乗ったことを確認し、車のドアを閉め、アクセルを力強く踏んだ。

「待っててくれ和夜。着いたら、報告してくれよ。」

俺はフッと苦笑し、車を急がせた。

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