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Feed them  作者: 森八月
5/5

episode3.5 東京の夜after

東京の夜の後日談です。

開斗にとって気まずい翌日に、住人たちが暖かく迎える

内容になってます。

酷い二日酔いに悩まされた開斗は、日曜の昼


にようやく起きる事ができた。


「うぅ・・・頭痛い・・・」


フラフラになりながら食堂に向かうと、了が

ムーチョをテーブルの上で平たく伸ばしてい

た。


「お目覚めかい?」


了以外はアパートにはいないようだった。

金曜の出来事を急に思い出した開斗は気まず

い雰囲気になってしまった。


「あ、あの・・金曜なんですけど・・・すみ

ませんでした!!」


「いーのいーの、気にしないで。君はよく頑

張ったよ」


そう言うと、了は開斗にコーヒーを入れた。


「ブラックは苦手そうだから、カフェオレに

しておいたよ」


「ありがとうございます」


「実は俺、あまり記憶なくて・・・」


了は口元に笑みを浮かべながら開斗の武勇伝

を話した。


「そんなことになっていたんですか・・・」


「児島さん、凄く感謝してたよ」


「ハハ、結局俺は何もできてなかったです

よ・・・」


自嘲的に笑う開斗に了は優しく諭した。


「君の行動がなければ彼女は酷い目にあって

いたかもしれない。そして君の勇気がなけ

れば俺たちも動いてなかったさ」


開斗は嬉しさと恥ずかしさで俯いた。

了はその姿を見て微笑んでいる。


「さてと、開斗君は今日は暇かな?」


「え?あ、はい。特に何も予定ないです」


「そっか。なら俺と少し出かけようか」


「は、はい」


開斗は準備をすると了とアパートから出た。


「今日は俺の車で行くから、待ってて」


少し経つと了がフォルクスワーゲンに乗って

きた。


「狭いけど勘弁な」


開斗を乗せた車は早稲田通りに出ると都心へ と走り始めた。


「あの、どこに行くんですか?」


「知り合いの店にちょっとね」


明治通り入ると青山方面に進む。

開斗にとってはまだ見たことのない都会の街

並みであった。


「わー、なんか同じ東京でも雰囲気違うんで

すね」


「まーね。この辺はそういうのを気にしてる

連中が多いのよ」


窓から入る風になびかれながら開斗は街の風

景に目を奪われていた。

青山通りから骨董通りに入ると了はパーキン

グに車を停めた。


「さてと、すぐそこなんだ」


了の後を追って歩くと、細い道にある小さい

美容室にたどり着いた。


「コウヘイ、お待たせ。連れてきたよ」


「了ちゃん、久しぶりー」


コウヘイと呼ばれた男は、了と同じくらいお

洒落な男であった。


「こっち、メールした開斗君ね。今日はよろ

しく」


「おっけー、任せておいて」


「え?え?なんですか?」


開斗はイスに座らされるとコウヘイに頭を

色々と触られている。


「んー、頭の形いいし顔も可愛いしやりがい

あるね」


「渡久地さん、いったい・・・」


「大丈夫、コウヘイは女癖悪いけど腕はいい

よ」


「了ちゃんに言われたくねーよ」


開斗は事態をようやく飲み込めてきた。

自分がカットされるんだ。


「なんで俺「はい、前見てね。」


コウヘイは霧吹きで髪を濡らし始める。


「君さ、家とか厳しかったでしょ?」


コウヘイが小声で言ってきた言葉にドキっと

した。


「え、どうしてわかるんですか?」


「素材のいい子が地味目にしてるのはだいた

いそんな感じなんだよ」


本当か?と思うような言い方だが、当てはま

っている以上開斗は言い返せなかった。


「せっかく都会の大学生になったんだし、大

胆にイメチェンしようか」


コウヘイと了はニヤニヤしながら開斗を見て

いた。

自分はいったいどうなってしまうんだろうと

不安になりながら開斗はただ座るだけであっ

た。


了とコウヘイが色々話し合って髪形が決まっ

たようだった。


「よし、イメージ湧いた。いくよ~」


テンションが高くなってきたコウヘイの手が

リズミカルに動きだす。

ハサミが開斗のショートヘアに滑り込み、ス

ルスルと髪が切れ始めた。

鏡に写る自分の髪型が徐々に変わり始める。


「色も少し入れてみようか」


髪を染めたことのない開斗にとって衝撃的な

言葉だった。


「え!?色ですか?」


「大丈夫、任せておいて。良い色にするか

ら」


色が馴染んできたので一度洗い落として乾か し始める。

それからヘアワックスでセットをし始めた。


「自分でやる時はここを指先でちょっと巻く

ようにね」


レクチャーしながら髪型が整い始める。

そして目の前に写しだされた自分は見えた。


「スパイキーにして色はちょっと赤みをつけ

てみたよ」


ツンツンとしたヘアスタイルに、髪は赤みを帯びた黒。

つい先ほどの自分とはまるで違うようだった。


「どうだい?」


了が覗いてきた。


「なんか、自分じゃないみたいです」


「凄く似合ってるよ。開斗君は元気だから髪

型もそうじゃないとね」


コウヘイは頷いている。


「コウヘイ、ありがとうな」


「了ちゃん、ちゃんと約束守ってね」


「OKOK」


二人は店を出ると骨董通りを歩き始める。


「腹減ったろ?なんか食べようか」


適当にオシャレなカフェに入ると、テラス席

に座る。


「悪いね。タバコ吸いたくてさ」


了はタバコに火をつけると、美味そうに吸い 込む。


「あの、どうして髪を?」


「ん?あー、なんとなくだよ」


ウソだ。気を遣ってくれてるんだ。

しかしまだ子供の自分にはうまく言い返せる

ことができない。

そんな自分が歯がゆく感じていた。


二人以外はほぼ女性客が占める店で、自分達

の席に視線を感じている。

白のカットソーに黒のスリムパンツ。これし

か着ていないのにかっこいいオーラが半端な

く出ている。


(渡久地さん、かっこいいよな・・・)


開斗は運び出されたサンドイッチを食べなが

らうらめしく見ていた。


「よし、腹ごしらえも済んだし今度は服でも

見に行こうか」


開斗は了の提案に返事をする暇もなく付いて

いく。


今までの自分では入ることもなかった店に

次々と連れ回されコーディネートされてい

く。


買い物が終わる頃には日も暮れ始めていた。

二人は車に乗ると家路へと向かう。


「あの、今日はありがとうございました」


「いーのいーの。これは俺の道楽みたいなも

んなんだ」


「道楽ですか?」


「そう。俺はなんか気になっちゃうんだよ

ね。その人に合った格好とかがさ」


「あのアパートの住人はそこら辺、無頓着な

のよ」


夕暮れの風が開斗のスパイキーを揺らす。


「亜蓮なんてどこで買ってくるんだっていう

Tシャツ着てたり。譲さんはちょっと破れ

てるのとかも平気だしさ」


確かにそうだなと開斗は思った。


「どうしてこんなに良くしてくれるんです

か?」


一番聞きたかったことを口に出した。

了は口元に笑みを浮かべながら運転をしている。


「皆さん、凄くよくしてくれて俺は逆に何も

できなくて」


「別にいいじゃんそれで。見返りなんてみん

な求めてないよ」


「財前さんも渡久地さんも管理人さんも。あ

と、まぁ降矢さんもだけど」


「フフ、亜蓮は嫌いかい?」


「嫌いじゃないですけど、距離感が・・・」


「亜蓮は誰にでも零距離だからな」


「でも、あの日、君を一番心配してたのは亜

蓮だったんだよ」


「え?本当に?」


「あいつはただ無邪気なだけなんだよ。それ

を理解すればなんてことはないさ」


開斗は自分の子供っぽさに愚かさを感じた。

ただ一つの角度でしか受け入れられない自分

に。


二人を乗せた車は駅近くの商店街まできていた。


「すみません、ちょっと買い物あるのでここ

で降ろしてもらっていいですか?」


「了解。荷物はアパートに運んでおくよ」


買い物を済ませた開斗はアパートに着く。


「ただいま」


食堂に向かうと住人が全員揃っていた。


「おー、開斗。イメチェンか?似合うじゃ

ん」


「似合ってるよ、桐島君」


「開斗兄ちゃん、格好いいよ!」


総一朗は微笑んでいた。


「あ、ありがとうございます」


賛美の声に照れながら開斗はお礼を言った。


「あ、それと・・・これ」


開斗は亜蓮にバナナを一房差し出した。


「え、俺に?」


「うん」


亜蓮はまるで宝石を見ているような目に

なっている。


「い、いいのか?こんなに・・・」


「別に一房くらいで大げさだよ」


「だけど、どうして急に?」


「え、えーと、たまたま安売りしてて・・・」


「そ、そうなのか?まだ売ってるなら俺も!」


「あ、いや、もう売り切れてたよ。安売りだっ

 たから」


「そうなのか・・。しかし、それで買ってくる

 とはさすが俺の見込んだ男だな!」


「別にバナナくらいで・・・」


「それで全部食べていいのか?全部だぞ?」


「だから良いって言ってんでしょ!」


亜蓮はマジックを取り出すと、1本ずつ名前

を書いている。


「買い物ってのはそういうことね」


了は一人ほくそ笑む。


名前を書き終えた亜蓮が興奮気味に言い出す。


「譲治さん、了兄!開斗を胴上げしよう

ぜ!」


「おう」


「仕方ねーな」


「え、ちょ、なんで」


すると男3人が開斗を囲み一斉に胴上げを始

める。


「わー!天井にぶつかる!やめてー」


「わっしょい!わっしょい!」


ゴン!


「痛てー!」


開斗の悲鳴と男たちの掛け声がいつまでも響

き渡っていた。



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