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Feed them  作者: 森八月
3/5

episode2 散策

アパートの年下組による近隣散策エピソードです。

亜蓮のイケメンパワーが縦横無尽に炸裂します。

翌日、開斗は視線を感じて目を覚ました。

視線の主は3匹の猫であった。

昨日見たノートリアスと、知らない猫が2匹。

片方は灰色で丸顔の猫。

もう片方はキジトラの猫。口元に立派なヒゲ

模様が見える。


「うわ!」


3匹はベッドの上で囲むように見ていた。

開斗の声でベッドから飛び降りた3匹の他に

実はもう1匹いた。

正確には部屋に入ろうとしていたが、入れな

い状態のフジ子。

猫用のドアに顔だけが出ている。


「お前・・・もしかして挟まってるの?」


フジ子が不機嫌そうな顔をしていると、廊下

から亜蓮の声が聞こえた。


「おーい、朝飯いこうぜ」


「お、フジ子何してんだよ。仕方ねーなー」


するとドアの向こうから亜蓮がフジ子を引っ

張りだした。

アゴの肉が邪魔して多少引っかかっていたが

、すっぽりと抜けた。


やがて食堂にいくと皆席に座っていた。


「桐島君、おはよう」


「おはようさん」


「おはようございます」


譲治達が挨拶をする。


「あ、おはようございます」


(そうか、俺もう引っ越してきてたんだ)


実家の時とは違う朝に、開斗はようやく実感

しはじめた。


今朝のメニューは焼き魚と大根おろし、味噌

汁、ご飯、お新香。

ありふれたものだが、どれも美味しそうに見

える。


「桐島君、ご飯とかはお代わりあるから、遠

 慮なく言ってくれ」


笑顔で優しく譲治が勧めてきた。


「あ、はい。ありがとうございます」


「譲治さん、お代わりー」


「早!もう食ってんの?」


「若いってのは良いねぇ」


皮肉めいた口調で言いながら、了は灰色の猫

を膝に抱いていた。


「あ、そうだ。猫を紹介するね!」


直道は餌を食べている猫達を説明し始めた。


「このでっかいのがノートリアス。いつも僕

 達の部屋で一緒に寝てるんだ」


ノートリアスは耳だけを動かして、食事を続

ける。


「次にこっちの大きいのがフジ子。お腹の肉

 が柔らかくて気持ちいいよ」


フジ子も耳だけを動かして、エサ皿に顔を埋

めている。


「この灰色の猫がタマミ。甘えん坊で人懐っ

 こいよ」


タマミはこちらを振り向くと、足を伸ばして

お腹を舐め始める。


「こっちの猫はムーチョ。のんびり屋さんだよ」


ムーチョは立派なヒゲのような模様付近を手

でこすっている。


「あともう1匹エテポンゲっていうのがいる

 んだけど、いつもどこにいるのかわからな

 いんだ・・・」


猫と人間の食事が終わり後片付けを済ますと、

亜蓮が元気に動き出した。


「よーし!案内するぜー!」


「え、あれ本当なの?管理人さんは忙しいん

 じゃ・・」


「僕は・・別に大丈夫です・・」


「よし、んじゃ準備して行こうぜー」


時計が10時を回った頃、3人は出発した。

アパートを右折すると、眼前には緩い坂道が

下へと延びている。

歩きだしてからすぐに亜蓮が止まった。


「ここ、俺らよく使ってるんだ」


そこには少し古ぼけた小さな喫茶店がある。

名前は坂道。


「総ちゃんの知り合いがやってるんだよ」


中が少し見え、老夫婦が動いている。


「爺ちゃんが作るレモンスカッシュが美味い

 んだー」


開斗はコーヒーじゃないのかよ、と思ったが

スルーした。

ゆっくりと坂道を歩くと商店街が見え始める。

急行が止まらない駅前なので、こじんまりと

した商店街だった。

入り口付近のコンビニが見えると亜蓮はまた

止まる。


「ここ、俺の友達がバイトしてんだよ。いる

 かな?」


店内を凝視すると、亜蓮の瞳が大きく開く。


「いたいた、アレだよ。」


アレ扱いされた男はモブ顔の男だった。


「ここでたまに足りなくなったキャットフード

 とか買うんだよ」


「フジ子がよく食うからなー」


フジ子・・・あぁ、あのデブ猫なら確かに。


商店街を歩いていると先程から視線を感じる。

原因は亜蓮であった。

陽の光を浴びた髪はキラキラと輝き、9頭身

はありそうな体型は一際目立つ。

少女漫画から出てきたかのような顔立ちは

老若男女問わず、目に焼き付ける勢いだ。


(確かに顔だけはかっこいいもんな・・・)


しかし、当の本人はそんな視線を全く意識せ

ず熱心に商店街を説明している。

1つしか歳が違わないのに、外見に驚くほど

の差を感じた開斗は怒りさえ感じていた。


商店街を抜けると、大きめの公園があった。

3人は芝生に腰を掛けると商店街で買ったジ

ュースを飲む。


「結構のんびりできていいとこだろー?」


亜蓮は太陽が似合う笑顔で開斗に言う。


「確かに。東京ってもっと殺伐としたイメー

 ジあったかも」


ここだけ見れば地元とそう変わらないように

思えた。

春ののどかな気温が周りを包む。


「そろそろ・・・お昼ですね・・・」


総一朗が告げると、それに反応して亜蓮のお

腹が鳴る。


「あー、腹減った!昼飯行こうぜ!」


「何食べます?」


「バナナ!」


「は?バナナ?それご飯なの?」


「なんで?バナナ美味しいじゃん?」


「いや、美味しいけど・・・管理人さん、お

 かしいよね?」


「降矢さんは・・・バナナ好きなので・・・」


やっぱりおかしい。管理人さんはこの人を受

け入れてる。

受け入れられない俺がおかしいのか?


「でも・・・お昼ご飯なので他のに・・・」


「んじゃ何がいいのさ?」


「オムライスとかはどうでしょうか・・・」


「お、いいね!オムライス!俺も食べたかっ

 たんだ!」


「あんたさっきバナナって言ってたよね?」


3人は腰を上げると、商店街にある洋食屋に

向かった。

十字路の角にある洋食屋は地元の人で賑わっ

ていた。


「おばちゃん、3人ねー」


慣れなれしく亜蓮が言うと、おばちゃんは目

を輝かせる。


「きゃー、亜蓮君。総一朗ちゃんも。いらっ

 しゃい。」


しかし、テーブル席はどれも埋まっていて座

れそうにない。

すると、おばちゃんは食べ終わったばかりの

おっさん客を強制的に追い出し、すぐに席を

作った。


「はぁ、目の保養になるわぁ。あら?こっち

 の可愛い子は?」


「新しい住人の開斗。よろしくね」


「桐島 開斗です」


「可愛い~。なんかあのアパートはイケメンし

 か住めないってくらいみんな顔立ちがいいわ

 ねぇ」


「うちの旦那が行ったら、3秒で追い出されるわ」


「おばちゃん、オムライスね!」


「僕も・・・それで・・」


「んじゃ俺も同じのお願いします」


10分も経つと、オムライスが運ばれてきた。

しかし、亜蓮のオムライスだけサイズが違う。


「あれ?大盛りとかって言った?」


「ん?俺いつもこれが出てくるんだよ。値段

 変わらないのに」


しかし、メニューには大盛り150円増しと書

いてある。

おばちゃんを見ると、亜蓮にウインクをして

いた。


(イケメンは得なんだな・・・)


3人は腹ごしらえをすると、また公園に戻る。

昼過ぎとなり、家族連れや子どもたちが多くな

っていた。


亜蓮は子どもたちに混ざって缶蹴りをしている。


「管理人さん、あのアパートの人たちって仲良

 すぎません?」


総一朗は少し考えるとか細い声で答えた。


「あそこはなぜか皆さんそうなるんです」


「でも僕は・・・良いことだと思っています」


都会はもっと人付き合いはないと思っていた

開斗にとって、住人の仲の良さは意外でしか

なかった。


「他の人はどんな人なんですか?」


総一朗は少し考えてから言葉を選びつつ説明

し始めた。


「財前さんは・・・本当に頼りになる人です

 ね。僕がやらなければいけないこともして

 くれてます・・・。僕が至らなくて甘えて

 しまって・・・」


総一朗は申し訳なさそうにしていた。


「えーと、じゃぁ渡久地さんは?」


「渡久地さんは・・・財前さんとは違う形で

 頼りになります。なんというか・・・いつ

 のまにか色々してくれていて・・」


見た目は凄いチャラいのにそんな人だったの

か・・・。

人は見かけによらないんだな。


「一応聞くけど、あの能天気な人は?」


総一朗は少し微笑むと楽しそうに答えた。


「降矢さんは楽しい人ですよ。人と接するの

 が大好きな人なんです・・・」


「えー?そうですか?なんかデリカシーが足

 りない気が・・・」


「降矢さんなりに考えてそうしてると思いま

 すよ・・・」


絶対考えてないと思ったが、開斗はそういう

ことにしておいた。


「あれ?あの人、何してんの?」


亜蓮の方を見ると、大変なことになっていた。

周りを主婦と女子高生が囲み、撮影会のよう

に写真を撮られている。


木をバックに壁ドンをしたり、お互いの手で

ハートマークを作ったり。


「次、アゴクイいいですか?」


「アゴクイ?わかんないけど、いいよー」


木の周りにカメコのように人だかりができて

いた。


「あぁ・・・降矢さんは目を離すといつもあ

 んな感じでして・・・」


人がさらに集まりだしてきたので、亜蓮を強

引に連れ出してアパートに帰ることにした。


アパートに着くと、フジ子が塀の上で狛犬の

ように座っていた。


「フジ子ー!ただいまー!」


亜蓮はそう言いながらフジ子の顔の肉を揺らす。

顔の肉のせいでどう思っているかわからない

が、逃げないので怒ってはなさそうであった。


食堂に行くと了がタマミを撫でていた。


「おう、お帰り。ツアーは楽しかったかい?」


黒の伊達メガネに青いシャツ、スキニーのパ

ンツといった姿はこのアパートに似つかわし

くないほど洗練されていた。


「楽しかったんですけど、この人が・・・」


開斗はジト目で亜蓮を見る。


「あぁ、なるほどね。亜蓮はどこいってもそ

 うだから諦めな」


了は片目で亜蓮を見ると、口元に笑みを浮か

べた。


「これで本人にはモテてるって自覚ないんだ

 から、タチが悪いのよ」


確かにそうだと思った。

現に今も帰ってきて早々にバナナを食べ始め

ている。


「今日は財前さんが夜勤なので・・・出前で

 も・・・」


「お、そうか。譲さんいないと飯ないしな」


「ンモァ、ンピラァ」


「食べながら話すなよ!何言ってるかわから

 ないよ!」


「降矢さんはピザですね・・・」


「え、管理人さんわかるの?!」


やがてピザが届くと食堂で宴会が始まった。


「んじゃ改めて新しい住人に乾杯!」


了が音頭を取る。


「かんぱーい!」


ピザはバジルチキン、シーフード、メガミー

トの3枚。


亜蓮はそれぞれを一枚ずつ重ねて、ピザのミ

ルフィーユ状態で食べ始めた。


「え、何してんの?」


「こうするといっぺんに食べれてお得だろ?」


「アメリカ人かよ!」


「降矢さんは面倒くさがりなので・・・」


「亜蓮はバカだからほっときな」


「亜蓮兄ちゃん、すげー!」


ふと見ると、了だけがビールを飲んでいた。


「管理人さんはお酒飲まないんですか?」


「僕は・・・お酒はあまり・・・」


「総ちゃんはお酒飲むと色っぽくなるからな」


意地悪な笑みを浮かべる了。


「そんな・・・渡久地さん。やめてください

 ・・・」


恥ずかしそうにする総一朗。


「ンソチャ、ンンノプァ」


「降矢さんもやめてください・・・」


「だから何でわかるの?!」


長く充実した開斗の2日めが終わろうとして

いる。

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